この道を歩む

ゆう

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第一章:新しい始まり

つながる会話

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母校の文化祭から数日後、あゆみのスマートフォンにメッセージの通知が届いた。

「文化祭、楽しめた?」

送り主は、先日再会した星宮すばるだった。
彼の名前を見た瞬間、あゆみの胸が軽く跳ねた。

「楽しかったです。演劇、とても感動しました!」

あゆみは笑顔を浮かべながら返信する。
文化祭での演劇は、すばるがクラスの生徒たちと一緒に全力で演じる姿が印象的だった。

すぐに返信が来た。

「ありがとう。生徒たちも君が見に来てくれたのが嬉しかったみたいだよ。」

その一言に、あゆみはまた温かな気持ちになる。

それから、あゆみとすばるの間でメッセージのやり取りが始まった。最初は文化祭の話題が中心だったが、次第にあゆみの大学生活のことや、すばるの日常の話題へと広がっていった。





「最近、大学の課題でこんなテーマを扱ったんですけど、ちょっと難しくて……。」

ある日の夜、あゆみはすばるに大学で学んでいることを相談するメッセージを送った。

すばるからの返信は温かいものだった。

「そのテーマは確かに難しいね。でも、君ならきっと乗り越えられるよ。」

その言葉に、あゆみは少し勇気をもらった。

「ありがとうございます。星宮先生の言葉、いつも励まされます。」

そう返すと、すばるからすぐに返事が来た。

「僕はただの元担任だけどね。だけど、君が頑張ってる姿を聞くと嬉しいんだ。」

そのメッセージを読んで、あゆみの胸はじんわりと温かくなった。
彼の言葉の端々には、あゆみへの真剣な気遣いが感じられた。





ある夜、すばるから少し違った内容のメッセージが送られてきた。

「最近、仕事のことや家庭のことでいろいろ考えることが多くてね。」

あゆみはその言葉に少し戸惑いながら返信した。

「家庭のこと……ですか?」

少し間が空いてから、すばるからの返信が届いた。

「そうなんだ。実は、僕には子どもが二人いるんだ。」

その言葉を見た瞬間、あゆみの指は止まった。
 予想外の告白に、スマートフォンを持つ手が自然と強く握られる。

「えっと……先生、ご結婚されてたんですね?」

あゆみは慎重にメッセージを打ち込む。しばらくして、すばるから返信が来た。

「うん。でも、今は一人で育てているんだ。」

その言葉を読んで、あゆみの中に不思議な感情が湧き上がった。どう答えればいいのか分からないまま、彼女はしばらく画面を見つめていた。

しばらくして、あゆみは深呼吸をして返信を打ち込んだ。

「そうだったんですね……。お子さんのこと、先生は大切に思っているんですね。」

すぐに返事が届いた。

「うん。れんとりおって言うんだけど、二人ともとても元気でね。僕の支えになってくれているよ。」

メッセージを読みながら、あゆみの胸の中で複雑な思いが広がった。すばるの言葉の中にある、子どもたちへの愛情が強く感じられたからだ。




その夜、あゆみはふとベッドに横たわりながら自分の気持ちを考えた。すばるとの再会、そして彼の子どもたちの存在。

彼女はしばらく眠れずに天井を見つめていた。



胸の中で渦巻く感情が、痛いほど鮮明だった。

「子どもがいる……。」

思い返すのは、高校時代の記憶だ。
教室で授業をするすばるの真剣な表情。廊下で生徒に優しく声をかける姿。
あの頃、あゆみにとって彼はただの「先生」ではなかった。

授業中、ふとした瞬間に見せる微笑み。
生徒の悩みに耳を傾ける穏やかな声。
その一つ一つが、若いあゆみの心を静かに揺さぶり、気づけば憧れから片思いへと変わっていた。

だが、その気持ちは、当然ながら胸の中にしまい込むしかなかった。
教師と生徒という明確な線引き。何も言わず、何も伝えられず、卒業と共にその想いも終わるはずだった。



偶然の再会を経て、再びつながった彼とのやり取りは、心の奥底に封じたはずの気持ちを呼び覚ました。
憧れだった人とメッセージを交わし、大学生として、ひとりの大人として話せることの嬉しさ。

だが今、その嬉しさは苦しさに変わっていた。



「子どもがいるなんて……。」

すばるが語った現実は、あゆみの想像を遥かに超えるものだった。
かつて彼の家庭について想像することすらしなかった。

家庭の中で、彼はどんな父親だったのだろう。
そして今、どんな思いで一人で二人の子どもを育てているのだろう。

「私は、何も知らなかった。」

あゆみの心には、これまで知らなかった「星宮すばる」という人の姿が鮮やかに浮かび上がる。
その姿は、どこか遠くて、手が届かない存在のようにも思えた。



「どうしてこんなに胸が痛むんだろう……。」

布団に潜り込みながら、あゆみは自分自身に問いかけた。
昔の片思いの再燃のせいか。
それとも、彼の現実を知ったことがそうさせているのか。

「先生のこと、知りたい。でも……私にはそんな資格ないよね。」

あゆみは自分が「子どもが苦手」だということを誰よりも理解していた。
それが、彼との未来を考える上で大きな壁になると感じていた。

それでも――。
「あの頃からずっと……。」
あゆみの胸の奥には、ずっと変わらないものがあった。
それは、彼の笑顔を見ていたいという素直な気持ち。

「どうして先生はこんな話を私にしてくれたんだろう。」

彼が話してくれたことの意味を考えようとするほど、心は乱れた。
自分がどう思われているのかはわからない。
ただ、彼の言葉に込められた重みを感じ取らずにはいられなかった。

そしてあゆみは、深い溜息を吐いた。
胸に広がる憧れと戸惑いを抱えながら、目を閉じた。

「私に何ができるんだろう……。」

その問いの答えは、まだ見つかりそうになかった。




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