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第1話 意気地なしのスローライファー
ろうらん、爛漫
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ロウランの散財っぷりはまさに「お嬢さま」そのものだった。その小さな手元から、次々と銀貨が飛んでいく。
露店で足を止めたロウランが手に取ったのは、呪術的な仮面だった。モンスターの解体が上手くなる魔法がエンチャントされていそうな一品である。
「見てくださいまし! この薄っぺらい感じ、マルクさんに似ていますわ!」
たしかに塩顔で中性的だけれども、ひどいよロウラン……。
僕はすっかり明るくなった通りを見ながら言う。
「少し早いけど昼食にしようか。何か食べたいものがあったら教えて」
デートなら彼女の食べたいものを。そう思っての質問だったのだけれど、ロウランは指でバッテンを作る。
「ダメですわね。それは優しさとは言いませんわ。女が求めるのは『渡された主導権』ですのよ」
なんだか面倒なことを言うロウラン。僕はちょっと考えてから、彼女の望み通りにする。
「えっと……ホットサンドがおいしいお店と、煮込み料理がおいしいお店に行ってみたいんだけど、どっちがいい?」
ロウランは片眉をくいっと持ち上げると、僕の腕に抱きつくようにしなだれかかってくる。
「煮込み料理が食べてみたいですわ。……もちろん、乙女に長い距離を歩かせたりしませんわよね?」
あまりに徹底されたお嬢さまキャラに苦笑しながら通りを進むと、すぐにそのお店が見えてくる。
この町では珍しい高級店で、アラバスターを使った白い外壁が、他の店とは一線を画する気品を漂わせていた。
背筋が自然と伸びるようなローズマリーの香りが漂う店内に入ると、フォーマルな装いのウェイトレスさんがうやうやしく頭を下げた。
ちょっと肩肘張りすぎたお店だったかもしれない。けれどロウランは堂々としたものだ。ウェイトレスさんにお店の歴史などをたずねながら、背もたれの高い瀟洒な椅子に座る。
おっかなびっくり僕も座ると、ケタがひとつ違うお値段の料理が並んだメニューを渡された。
「どちらにするか迷いますわね……」
ウェイトレスさんを当然のように待たせてから、ロウランはずびしっとメニューを指さした。
「私はこの『タルクスのほほ肉の赤ワイン煮込み』にしますわ! それから自家製パンと季節野菜のスープも」
僕は反射的に同じものを選ぼうとして――黒い視線がこちらを捕らえていることに気づく。指の進行方向を強引に変えて、ロウランが迷っていたもう一つの料理を指した。
「え、えっと。僕はこの『湖底エビと貝たちの香草バター煮』で! パンとスープは彼女のと同じものを」
料理を復唱したウェイトレスさんが去っていくと、ロウランは「ふふん」と笑った。
「合格ですわ」
やれやれ、お嬢さまのお眼鏡にかかって何よりだ。
たわいのない話をしていると、思ったより早く料理が届く。シミひとつない美しいお皿にちょこんと乗った料理を一口食べると、ここしばらくの疲れが吹き飛ぶようだった。
思わず頬を緩める僕に対し、ロウランは何かを気にしているような曇りがちな表情を浮かべていた。
「……悪くはありませんわね」
そう言いながら、ぎこちない動きでほほ肉を口に運ぶロウラン。どうしたのだろうかと思いつつ、僕は自分の料理を彼女にも勧める。
「こっちの貝もなかなかおいしいよ。食べてみて」
「お言葉に甘えますわね……」
フォークで丸い粒を刺そうとして――つるりとお皿から飛び出す。ウェイトレスさんがそっと目立たないように拾ってくれたけど、ロウランは悔しそうに目を伏せてしまった。
「も、もう結構ですわ……。あとはマルクさんが食べてくださいまし」
ナイフで押さえながらフォークを刺せばいいのに。そう言おうとして、ふと気づく。すっかり忘れていたけれど、彼女は異国人で、ナイフとフォークの扱いに慣れていないのだ。
普段、彼女が使っているものを思い浮かべながらウェイトレスさんに声をかける。
「『お箸』はありますか? 一組の棒状の食器なんですが」
シワひとつないエプロンを着たウェイトレスさんは、ほんの一瞬だけ何かを考えるようにしてから、礼儀よく一礼した。
「もちろんございます。いまお持ちしますね」
その様子をきょとんと見ていたロウランが、慌てたように身を乗り出す。
「こんなお店に『お箸』なんてありませんわよ……!?」
僕は「まあまあ」となだめつつ、いくつかの貝を彼女の取り皿に乗せたときだった。
「お待たせしました」
ウェイトレスさんが持ってきたのは、木の串を丁寧に削って作られた即席の箸だった。何も言わず彼女が去っていくと、ロウランはもじもじとしながらぽつりとつぶやいた。
「マルクさんは変わりましたわね。……こんなに頼りになるなんて」
僕は「そうかな?」と首をかしげつつ、ロウランからもらったお肉を口に運ぶ。
「できることはしてみようって思ってるだけだよ」
僕がさらっと流すと、ロウランは真剣な面持ちで懐から手紙を取り出した。場の空気が張り詰めたものに変わった気がして、僕は手を止める。
「それは……?」
「――少し前にギルドに届いた私宛の手紙ですのよ。マルクさんにも知ってもらいたくて」
手紙を広げながらロウランは説明する。
「もし国で動きがあったら『ローラン・ユイット』という冒険者宛に手紙を出してほしいと、お付きの者に伝えていましたの」
彼女は華国の有力貴族である『楼蘭』という伯爵家の庶子だ。彼女が巻き込まれた家督争いに何かあったに違いない。
「もしかして……」
ロウランのお母さまの安否がわかったの? と言いかけて口ごもると、ロウランは気遣うようにほほ笑んだ。
「吉報ですのよ。――離れ離れになったお母さまが生きていましたの」
僕は思わずむせ込みそうになった。
「じゃ、じゃあ国に帰るの!?」
これでロウランともお別れかと表情を暗くしていると、なぜかロウランは満足そうに言った。
「まさか。おめおめと一人だけ逃げたりしませんわよ。……でも、ひと段落したら帰らないといけませんわね」
急な別れにならなかったことに安堵しつつも、彼女との時間が有限であることに、もどかしさを感じたときだった。ロウランが声を潜めて、半信半疑といった口調でつぶやく。
「正室が妊娠しているという話ですのよ。でも、お付きの者とお母さまはそれを疑っていますの。本当にお父さまとの子供なのかどうか――」
それだけで十分だった。これから楼蘭家は内紛のような状況に陥るだろう。
「……ロウランはその争いに加担するの?」
彼女のことだから「知らないところでやってくださいまし」と言い放つと思っていた。けれど返ってきた言葉は、それ以上に彼女らしいものだった。
「私は『楼蘭 瑤華』。楼蘭の血筋を絶やすことなど許されませんの。もし正妻の子供がお父さまの子供でないのなら、鉄拳をもってしてでも即位を阻止しますわ」
凛とした声だった。僕は一瞬でも彼女を世間知らずなお嬢さまと軽んじたことを恥じる。そして、ごく普通に――まるで薬草採りに誘うような気軽さで言った。
「僕も行くよ。僕がいればロウランを守れると思う」
ロウランのお箸がかちりと音を立てた。
「そ、それは嬉しい申し出ですけれど、正室の息がかかった者に狙われるかもしれませんのよ……?」
僕は自分の目を指差した。
「承知の上だよ。それに、僕の存在は切り札になるはずだ。本当にお父さまの子供かどうか、僕には見分けることができるんだから」
「あっ……!」
そのときのロウランの顔を、僕は一生忘れないだろう。まるで花が咲き乱れるような笑顔だった。
「鑑定してくださいますのね!?」
「もちろん。これを見て」
更新したばかりの自分のギルドカードを出す。そこには『Bランク相当』と、『所持スキル:鑑定』の文字。
「ギルドは華国にもあるよね。正室も認めざるをえないはずだ」
ああっ、と感嘆の言葉を漏らして僕の手を握りしめるロウラン。けれど、すぐにその顔に影が落ちる。
「でも……1カ月や2カ月で終わる話ではなくってよ。正室と会えるかどうかも不明ですのよ……?」
たしかにロウランの言う通りだ。半年かかってもおかしくない。
「僕は冒険者だし、どこにでも行ける」
そう軽く答えると、思いも寄らない言葉がロウランの口から飛び出した。
「――そんなの、リリィが許しませんわ」
な、なんでそこでリリィの名前が――と言いかけて、僕は口をつぐんだ。いくら僕でもリリィの気持ちは分かっている。不意に感じる熱っぽい視線。妙に近い距離感。僕を見つけたときの笑顔……。
いや、リリィだけじゃない。目の前の黒髪の乙女もそれは同じだ。僕が言葉に困っていると、ロウランは意を決したように顔を上げた。
「――ろ、楼蘭家は深い伝統のある家柄ですけれど、先祖をたどれば、他国の血も混じっていましてよ」
なんて遠回しな告白なのだろう。りんごのように赤く染めた頬と、黒真珠のように潤んだ瞳を愛しく思いながらも、僕は首を振った。
とたん、ロウランは唇をきゅっと結んで、かわいそうなくらいうつむいてしまう。
「そ、そうですわね! マルクさんにはあの年増がお似合いですわね……!」
ちがう、そうじゃないんだ。
僕はロウランの手を取って顔を上げさせる。
「スタンピードが終わるまで待ってほしい。いまはロウランのことをちゃんと考える余裕がなくて……」
ロウランはゆっくりと顔を上げると、目尻を指で拭いながらくすりと笑った。
「ほんと、成長しましたわ。もうトウヘンボクだなんて呼べませんわね。けれど、乙女を待たせるのは大きな減点ですのよ?」
「ごめん……。僕も……その、自分の気持ちがわからなくて」
ロウランが「マルクさんらしいですわね」とつぶやいたときには、もうその顔はいつもの彼女だった。
「食べたら今度は甘味処に行きますのよ。今日は遅くまで付き合っていただきますわ!」
露店で足を止めたロウランが手に取ったのは、呪術的な仮面だった。モンスターの解体が上手くなる魔法がエンチャントされていそうな一品である。
「見てくださいまし! この薄っぺらい感じ、マルクさんに似ていますわ!」
たしかに塩顔で中性的だけれども、ひどいよロウラン……。
僕はすっかり明るくなった通りを見ながら言う。
「少し早いけど昼食にしようか。何か食べたいものがあったら教えて」
デートなら彼女の食べたいものを。そう思っての質問だったのだけれど、ロウランは指でバッテンを作る。
「ダメですわね。それは優しさとは言いませんわ。女が求めるのは『渡された主導権』ですのよ」
なんだか面倒なことを言うロウラン。僕はちょっと考えてから、彼女の望み通りにする。
「えっと……ホットサンドがおいしいお店と、煮込み料理がおいしいお店に行ってみたいんだけど、どっちがいい?」
ロウランは片眉をくいっと持ち上げると、僕の腕に抱きつくようにしなだれかかってくる。
「煮込み料理が食べてみたいですわ。……もちろん、乙女に長い距離を歩かせたりしませんわよね?」
あまりに徹底されたお嬢さまキャラに苦笑しながら通りを進むと、すぐにそのお店が見えてくる。
この町では珍しい高級店で、アラバスターを使った白い外壁が、他の店とは一線を画する気品を漂わせていた。
背筋が自然と伸びるようなローズマリーの香りが漂う店内に入ると、フォーマルな装いのウェイトレスさんがうやうやしく頭を下げた。
ちょっと肩肘張りすぎたお店だったかもしれない。けれどロウランは堂々としたものだ。ウェイトレスさんにお店の歴史などをたずねながら、背もたれの高い瀟洒な椅子に座る。
おっかなびっくり僕も座ると、ケタがひとつ違うお値段の料理が並んだメニューを渡された。
「どちらにするか迷いますわね……」
ウェイトレスさんを当然のように待たせてから、ロウランはずびしっとメニューを指さした。
「私はこの『タルクスのほほ肉の赤ワイン煮込み』にしますわ! それから自家製パンと季節野菜のスープも」
僕は反射的に同じものを選ぼうとして――黒い視線がこちらを捕らえていることに気づく。指の進行方向を強引に変えて、ロウランが迷っていたもう一つの料理を指した。
「え、えっと。僕はこの『湖底エビと貝たちの香草バター煮』で! パンとスープは彼女のと同じものを」
料理を復唱したウェイトレスさんが去っていくと、ロウランは「ふふん」と笑った。
「合格ですわ」
やれやれ、お嬢さまのお眼鏡にかかって何よりだ。
たわいのない話をしていると、思ったより早く料理が届く。シミひとつない美しいお皿にちょこんと乗った料理を一口食べると、ここしばらくの疲れが吹き飛ぶようだった。
思わず頬を緩める僕に対し、ロウランは何かを気にしているような曇りがちな表情を浮かべていた。
「……悪くはありませんわね」
そう言いながら、ぎこちない動きでほほ肉を口に運ぶロウラン。どうしたのだろうかと思いつつ、僕は自分の料理を彼女にも勧める。
「こっちの貝もなかなかおいしいよ。食べてみて」
「お言葉に甘えますわね……」
フォークで丸い粒を刺そうとして――つるりとお皿から飛び出す。ウェイトレスさんがそっと目立たないように拾ってくれたけど、ロウランは悔しそうに目を伏せてしまった。
「も、もう結構ですわ……。あとはマルクさんが食べてくださいまし」
ナイフで押さえながらフォークを刺せばいいのに。そう言おうとして、ふと気づく。すっかり忘れていたけれど、彼女は異国人で、ナイフとフォークの扱いに慣れていないのだ。
普段、彼女が使っているものを思い浮かべながらウェイトレスさんに声をかける。
「『お箸』はありますか? 一組の棒状の食器なんですが」
シワひとつないエプロンを着たウェイトレスさんは、ほんの一瞬だけ何かを考えるようにしてから、礼儀よく一礼した。
「もちろんございます。いまお持ちしますね」
その様子をきょとんと見ていたロウランが、慌てたように身を乗り出す。
「こんなお店に『お箸』なんてありませんわよ……!?」
僕は「まあまあ」となだめつつ、いくつかの貝を彼女の取り皿に乗せたときだった。
「お待たせしました」
ウェイトレスさんが持ってきたのは、木の串を丁寧に削って作られた即席の箸だった。何も言わず彼女が去っていくと、ロウランはもじもじとしながらぽつりとつぶやいた。
「マルクさんは変わりましたわね。……こんなに頼りになるなんて」
僕は「そうかな?」と首をかしげつつ、ロウランからもらったお肉を口に運ぶ。
「できることはしてみようって思ってるだけだよ」
僕がさらっと流すと、ロウランは真剣な面持ちで懐から手紙を取り出した。場の空気が張り詰めたものに変わった気がして、僕は手を止める。
「それは……?」
「――少し前にギルドに届いた私宛の手紙ですのよ。マルクさんにも知ってもらいたくて」
手紙を広げながらロウランは説明する。
「もし国で動きがあったら『ローラン・ユイット』という冒険者宛に手紙を出してほしいと、お付きの者に伝えていましたの」
彼女は華国の有力貴族である『楼蘭』という伯爵家の庶子だ。彼女が巻き込まれた家督争いに何かあったに違いない。
「もしかして……」
ロウランのお母さまの安否がわかったの? と言いかけて口ごもると、ロウランは気遣うようにほほ笑んだ。
「吉報ですのよ。――離れ離れになったお母さまが生きていましたの」
僕は思わずむせ込みそうになった。
「じゃ、じゃあ国に帰るの!?」
これでロウランともお別れかと表情を暗くしていると、なぜかロウランは満足そうに言った。
「まさか。おめおめと一人だけ逃げたりしませんわよ。……でも、ひと段落したら帰らないといけませんわね」
急な別れにならなかったことに安堵しつつも、彼女との時間が有限であることに、もどかしさを感じたときだった。ロウランが声を潜めて、半信半疑といった口調でつぶやく。
「正室が妊娠しているという話ですのよ。でも、お付きの者とお母さまはそれを疑っていますの。本当にお父さまとの子供なのかどうか――」
それだけで十分だった。これから楼蘭家は内紛のような状況に陥るだろう。
「……ロウランはその争いに加担するの?」
彼女のことだから「知らないところでやってくださいまし」と言い放つと思っていた。けれど返ってきた言葉は、それ以上に彼女らしいものだった。
「私は『楼蘭 瑤華』。楼蘭の血筋を絶やすことなど許されませんの。もし正妻の子供がお父さまの子供でないのなら、鉄拳をもってしてでも即位を阻止しますわ」
凛とした声だった。僕は一瞬でも彼女を世間知らずなお嬢さまと軽んじたことを恥じる。そして、ごく普通に――まるで薬草採りに誘うような気軽さで言った。
「僕も行くよ。僕がいればロウランを守れると思う」
ロウランのお箸がかちりと音を立てた。
「そ、それは嬉しい申し出ですけれど、正室の息がかかった者に狙われるかもしれませんのよ……?」
僕は自分の目を指差した。
「承知の上だよ。それに、僕の存在は切り札になるはずだ。本当にお父さまの子供かどうか、僕には見分けることができるんだから」
「あっ……!」
そのときのロウランの顔を、僕は一生忘れないだろう。まるで花が咲き乱れるような笑顔だった。
「鑑定してくださいますのね!?」
「もちろん。これを見て」
更新したばかりの自分のギルドカードを出す。そこには『Bランク相当』と、『所持スキル:鑑定』の文字。
「ギルドは華国にもあるよね。正室も認めざるをえないはずだ」
ああっ、と感嘆の言葉を漏らして僕の手を握りしめるロウラン。けれど、すぐにその顔に影が落ちる。
「でも……1カ月や2カ月で終わる話ではなくってよ。正室と会えるかどうかも不明ですのよ……?」
たしかにロウランの言う通りだ。半年かかってもおかしくない。
「僕は冒険者だし、どこにでも行ける」
そう軽く答えると、思いも寄らない言葉がロウランの口から飛び出した。
「――そんなの、リリィが許しませんわ」
な、なんでそこでリリィの名前が――と言いかけて、僕は口をつぐんだ。いくら僕でもリリィの気持ちは分かっている。不意に感じる熱っぽい視線。妙に近い距離感。僕を見つけたときの笑顔……。
いや、リリィだけじゃない。目の前の黒髪の乙女もそれは同じだ。僕が言葉に困っていると、ロウランは意を決したように顔を上げた。
「――ろ、楼蘭家は深い伝統のある家柄ですけれど、先祖をたどれば、他国の血も混じっていましてよ」
なんて遠回しな告白なのだろう。りんごのように赤く染めた頬と、黒真珠のように潤んだ瞳を愛しく思いながらも、僕は首を振った。
とたん、ロウランは唇をきゅっと結んで、かわいそうなくらいうつむいてしまう。
「そ、そうですわね! マルクさんにはあの年増がお似合いですわね……!」
ちがう、そうじゃないんだ。
僕はロウランの手を取って顔を上げさせる。
「スタンピードが終わるまで待ってほしい。いまはロウランのことをちゃんと考える余裕がなくて……」
ロウランはゆっくりと顔を上げると、目尻を指で拭いながらくすりと笑った。
「ほんと、成長しましたわ。もうトウヘンボクだなんて呼べませんわね。けれど、乙女を待たせるのは大きな減点ですのよ?」
「ごめん……。僕も……その、自分の気持ちがわからなくて」
ロウランが「マルクさんらしいですわね」とつぶやいたときには、もうその顔はいつもの彼女だった。
「食べたら今度は甘味処に行きますのよ。今日は遅くまで付き合っていただきますわ!」
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