上 下
152 / 207
8章 頼り切った者たち

8-13 説明は不足するもの

しおりを挟む
 ソイ王国の前国王もあの温泉に連れて行ってから、宿屋に戻った。
 前国王が国内初の温泉にどうしても入りたいと駄々を捏ね繰り回したので、仕方なしに。
 帰りが遅くなった。

「おかえりなさいませ、オルト様」

「先に休んでいて良かったのに」

 ルイジィが立ってお出迎え。
 今日は小さい街に辿り着いた。
 宿屋ではルイジィと俺の二人部屋になった。

 グジが強く要求した。
 他の奴らと同じ部屋にするのは危険すぎると。
 彼らもお年頃。性欲が強い者たちも多いようだ。
 相手がルイジィなら皆が納得すると。

 ルイジィは主人と同部屋というのは、、、と最初は渋っていたが、彼らの面子を見回してから諦めた。
 そして、俺を一人部屋にするという提案はルイジィからはされなかった。一人にするといつのまにか別行動されるという懸念を察知したようだ。

 手袋を外し、上着を脱ぐ。
 さり気に俺の上着を受け取るのが、さすがルイジィ。
 アルティ皇太子のそばで世話していたのがよくわかる行為だ。

「災害級の魔物を売却したのですから、もう少し良い宿にお泊りになられれば良かったのではないですか?」

「と言っても、この街には三つしか宿屋がないし、真ん中レベルで良いじゃないか」

 ルイジィの場合、駆け出し冒険者や下っ端商人用の一番下の宿屋にすると一人部屋でも文句言いそうと思ったので、とりあえずグジと相談して真ん中の宿にした。
 一番上の宿屋は最高級レベルの宿である、貴族用の。
 ランクの差がかけ離れている。
 グジたちは即座に首を振った。俺も嫌だね、お値段が全然お優しくない。
 小さい街でも貴族用の宿があるのは、ここが街道に近いせいである。貴族もよく行き来するから、ということらしい。

 ゆっくり休むには宿屋の方が良いのだが、野営の方が格差はわかりにくい。
 ルイジィは帝国の皇子と一緒に行動していただけあって、最上級の暮らしを知っている人間である。困ったものだ。
 ウィト王国の貴族学校にいるなら別に良かったんだけどねえ。
 どんな状況にも耐えうる皇帝の影だから、特に強くは言わないけど、目は語る。

 俺はどうしても節約志向に走る。
 コレは王都に行くのだから、何か対策を考えた方が良いかな?
 王都の宿屋は千差万別。
 ソイファ王太子殿下に相談してみようかな。
 王都に滞在する間、夢幻回廊の空間を一つ貸してくれませんか、と。
 あそこが王都では一番快適な宿泊施設だから。

 王太子も前国王も温泉に連れて行ったし、何なら無料奉仕で人が入れる温泉作ったんだから、ソイ王国に多分に貢献しただろ。そんなに連泊する予定もないし、最高級なお宿代ぐらいにはなっただろ。

「、、、オルト様、このソイ王国の王都にもイー商会の支店がありますので」

「ルイジィの指示通りに災害級の魔物持っていったから知っているよ」

 ルイジィは帝国が買い取ると言っていたのだが、横槍が入った。

 我が愛しの婚約者イーティが、冒険者ギルドの買取価格なんて下も下の、買取先を他に知らない冒険者の足元を見ている団体に多少色をつけたくらいで本当に良いと思っているの?と圧力をかけたらしい。イーティとルイジィとの秘密の話し合いで買取先がイー商会になった。
 俺は冒険者ギルドより高く買い取ってもらえるなら、どこでもいいけど。

 量が量なので収納しておくのも魔力がかかるため、王都のイー商会にさっさと納品に行った。
 イー商会も貸し倉庫を手配して待っていてくれたくらいだ。手持ちの倉庫では足りなかったらしい。

 もちろん俺たちのお肉一塊はすでに確保している。

「支店の者に宿を紹介してもらいましょう。オルト様にこのような宿はふさわしくありません」

 ソイ王国の高級なお宿は紹介者がいなければ、一見さんお断りらしい。
 国外からの客はどうなの?という疑問もわくが、この国の貴族や商会が紹介もしない客はどんなに国では国王レベルだったとしても相手にしません、という態度を貫くらしい。
 他国からの客でも、お忍びをお忍びにさせないのである。
 宿にはしっかり身分を示せ、と言っているのだ。

 中堅以下の宿屋でも身分証が必要なところもあるが、前金制で何の確認もなく泊まらせてくれるところも多い。
 宿屋のランクに応じて、この辺りが変わるのは当然のことだ。

 つまり、紹介が必要な宿というのはそれなりの宿だ。
 だが、俺はそこまでの宿に泊まりたくない。
 宿に応じて、お金ももちろん大金が飛んでいくから。
 しかも、十五人もいるからねえ。
 貴族だと従者やら護衛やらで軽くそれくらいの一団になるみたいだが。

 心のなかでため息を吐く。

「ルイジィ、宿の件は保留。王都に着くまでに考える」

 とは言っても、何事もなければ明後日には着いてしまうだろうけど。
 寝る前にちょっとソイファ王太子殿下のところに行って来ようかなあ。
 もう寝る前なんだけど。。。
 あの王太子と前国王のせいで遅くなってしまった。
 ルイジィの目もあるし、明日にしようか。もう勝手に皆で夢幻回廊にお邪魔しようか。




 朝食の場。
 この宿はほどほどの宿屋なので、朝食は好きな物を好きなだけ食べられるバイキング形式だ。
 とは言っても、パンの種類が豊富って感じで、そこまで選べるオカズの種類もない。

「兄ちゃんはパンも大好きなのか?」

「柔らかいパンは好きだよ」

 焼きたてパンって美味しいよね。
 硬いカチコチのパンを食べていた頃とは雲泥の差だ。食べられるだけマシだと思っていたからね。

 グジも俺の量には及ばなくとも皿にパンを並べているが。

「宿も食事や寝床を作らなくても良いから楽なんだが、兄ちゃんには朝から肉を食わせてやりたい気分になる」

「肉も好きだけど、美味しい物は何でも好きだよ。お腹いっぱいに食べられるのが幸せ」

「兄ちゃん、コレも食え」

「いや、自分で取ってきた物は自分で食え。ところで、王都の宿をどうするか?」

「紹介状とかはないぞ。俺たちは住んでいた街の領主にも面識ないし」

 必要な紹介状というのは領主という貴族クラスが必要な宿屋か。

「王都では上級冒険者がいい宿に泊まることもある。高級な宿でもそこまで肩肘はらなくても済む宿も多いらしい」

 グジの慌ててのフォロー。
 そういえば、王族や貴族お抱えの冒険者も多いという。

「やっぱりソイファ王太子殿下に頼もうかな」

 宿屋を探すのも面倒だ。

「オルト様、、、ソイファ王太子殿下とお知り合いなのですか?」

 後ろを振り返るとにっこりと微笑んだルイジィが。
 俺がソイファ王太子殿下と知り合いだと何か不都合でもあるのか?

「聞き方を変えましょう。婚約者のイーティ様の手ではなく、ソイファ王太子殿下の手を取るということですか?」

 グジが盛大に牛乳を吹き出したので、さっと避ける。
 多少の犠牲は目を瞑ろう。俺の後ろに座っていたのは、、、まあ、いいか、グジが謝るだろう。

「ソイ王国王都の宿ぐらいのことでイーティの手を煩わせることもない」

 これが帝国とか、イーティが詳しく知る国とかなら頼るけど。
 今回はイーティの手を直接煩わせるわけではないが、イー商会だっていい迷惑だ。

「他の男の手を取ったなんて知ったら、怒りますよ」

「宿の手配ぐらいで大袈裟な」

 と言ったら、ルイジィがものすごく暗い顔になった。

「怒られるのは私なんです」

「、、、は?」

 意味がわからないぞ。
 それとも、帝国ではそういうものなのか?
 婚約者の宿も手配できない軟弱者とか思われるのかな??

 いや、おかしいだろう。
 俺がいるのは帝国じゃなくて、ソイ王国だぞ。

 誰か俺にわかるように説明してくれ。

「いや、俺にもわからん」

 グジがおしぼりで被害者を拭いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

処理中です...