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7章 貴方に縋る

7-12 美女と野獣作戦って、、、

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 実は、ウィト王国の医療技術は特に目覚ましいものはない。
 やはり帝国や大国の方が進んでいる。

 長い間、ウィト王国は鎖国まがいのことをやっていた。
 数多くの国々に囲まれているにも関わらず。
 平和だったからこそ進んだものもあるが、後退したものはもっとある。

 ウィト王国は小国なのだが、かなりの数の国々と国境を接している。
 ウィト王国と接していながら、ウィト王国より小さい国というのは宗教国家一か国ぐらいなものだ。
 他は大きな国土を持っているにも関わらず、ウィト王国とほんの少し接していることが多い。
 ウィト王国の周囲は敵だらけ、という時代は確かにあった。


 そして、俺がなぜソイ王国に行くことにしたのか。

 帝国に向かうのなら真逆とまでは行かないが、帝国は王都から北東の方角、ソイ王国は南である。ちなみにあのデント王国は南東。ソイ王国とデント王国は隣国である。

 帝国へは遠回り過ぎると言えば遠回りなのだが、ウィト王国には友好国が少ないのもまた事実。
 旅券だけで行ける他国というのは少ないのである。
 俺は国外に出ることさえできれば、空間転移魔法を使える。

 国が魔力を感知できるのはウィト王国国内のみなので、俺にとっては他国に出ることが優先される。
 帝国とはまだ国交がないので、帝国と接している国境から出入国するにはかなりの手続きが必要となるし、オルト・バーレイとバレた時点で許可は下りない。




「銀髪の長いつけ毛がほしい?ああ、バッサリ切ったからなあ」

 イオさん邸のわりと広い庭。
 冒険者仲間十三人で訓練中、グジが剣を素振りをしながら、俺を見た。

 イオさんの屋敷は前国王夫妻が住むのにふさわしいか、というと疑問が生じるくらいの規模だ。そこまで大きくないし、使用人も多くない。
 せいぜい子爵、頑張っても見ても伯爵かな、伯爵は厳しいかなというぐらいの屋敷である。
 非公式な屋敷のようだ。
 魔法の盾で調べても芳しくない。持ち主も別の名義である。

「あのストレートロングのイメージで仕上げればいいのなら、どうにかなると思うぞ、兄ちゃん。人毛は手に入れるのは難しいが、銀色なら似たもので代用できそうだ」

 グジの仲間が手を挙げた。
 なぜか俺のことを全員が全員、兄ちゃん呼びのままだった。
 この人はアクセサリー商店を継いでいた。自分でも作っていて手先が器用なのだそうな。顔に似合わず繊細なものを作ると評判だったらしい。

「別にポニーテールじゃなく、後ろに結んでいるように見えれば」

「ああ、その方が簡単だな」

 で、少し離れたところからグジの仲間の一人がものすごい形相で俺を見ている。
 俺、何かしたかな?

「お前、何持って、あっ」

 グジがその手に持っている物を暴いた。

「、、、コレ、兄ちゃんの髪飾りじゃねえか」

「拾ってたのか。高そうな物だからグッジョブ」

「おおっ、良かったな、兄ちゃん」

「拾っていたんなら、早く出せよー」

 仲間が口々にその人物に言うが。

「おい、ギル、拾っていたなら、なぜさっさと返さない?」

 グジが強い視線でギルと呼ばれた彼を見る。

「ぐっ、それは、、、」

 あれ?そういえばこの人って。
 俺に、「この兄ちゃん、よく見れば好みの顔をしてるじゃねえか」と言った人物ではないか?
 拳で即座に眠らせたと思っていたのだが。
 回復して、髪飾りを回収していたのか。

 何で?

「、、、くっそーっ、思い出だよっ。好きな人の物が落ちていたら、こっそり宝物にでもしようと思うじゃねえかっ。どうせ兄ちゃんは俺のものにはならないんだしっ」

「あっ、砕け散る前に諦めるのはどうかと思うぞ。お前は未婚なんだから、可能性はあるっ」

「俺、婚約者いるぞ」

 正直に言ったら、静寂が辺りを支配した。
 何でこんなに静かになるんだ?
 すべてが停止した?

「そ、そそそそそうなのか」

「こ、ここ婚約者って、か可愛いのか?」

 何で動揺したようにどもるんだ?
 五人ぐらいが挙動不審になっているが、俺に婚約者がいることがそんなに変か?

「ものすごく可愛いし、格好良いし、俺にはもったいないくらいの特別で大切な人だ」

 もっとイーティのこと話していいかなー。イーティを自慢したい。

「間髪入れずに惚気られたぞ」

「残酷だ」

「完全な失恋だ」

「夢も希望も無くなった」

「もっと早くに出会いたかった」

 その五人が地面に突っ伏している。。。
 彼らは俺のイーティ自慢を聞く気はないらしい。

「、、、お前ら」

 グジはそいつらの肩や背中を優しく叩く。

「頭領ーーーっ」

「うちの街の男は何で強面ばかりなんだーーっ」

 ソイ王国って、強面が多いのかな?
 そういや、頭領呼びは元からなのか。冒険者なんだからリーダーとか呼べばいいと思うのだが、グジの顔は頭領って呼ばれるのが似合う気もする。

「ソイ王国全体で強面が多いわけではありませんよ、オル様。分布はウィト王国と特に大差はありません」

 後ろから聞き覚えのある声を耳にする。
 しかも、俺のことをオル様って呼んでいる。ここの事情もすでにわかっているようだ。
 よく探し出せたな。
 感知できる魔力は閉じているのに。
 さすがは皇帝の影。別の手段を持っているということか。

「お、ルイジィ」

「ええ、貴方のルイジィでございます。デント王国の報告書です」

「ああ、ありがと」

 仕事をキッチリ仕上げてから現れる、できる男ルイジィ。
 受け取って、パラパラリと見る。
 おや、あの女王はもう国民の三分の一も粛清という名の虐殺をしてしまったのか。早いな。
 国民皆殺しをするのも時間の問題か?

「えーと、この方はどなた?兄ちゃんの何?」

「オル様の部下でございます」

 グジたちに対してルイジィは失礼のない優雅な礼をする。

「よくここがわかったな」

「騎士学校にもついて行くと誓った私ですから」

 それは答えになっているのか?
 ルイジィのなかではなっているのだろう。俺的にはもう少し説明文が欲しいのだが。俺、帝国の民じゃないので帝国の常識わかんなーい。

「それで、オル様と会えない間に少々イーティ様からの手紙が溜まってしまったので、できれば早急に読んでいただきご無事だとお返事を書いていただけると助かります」

「助かります?」

「はい、皇帝と、アルティ皇太子が」

 まさか俺からの返事がないと、イーティが仕事をストしているとか??
 ルイジィにこの指示を出してからそこまでの日数は経っていないのだが。

「闘技大会後の行方知れずは、すでにイーティ様は情報を握っておいでです」

「早いなあ」

 さすがはイー商会。

「オル様が王都のイー商会の門戸を叩かなかったことを非常に悩んでおります故、」

 ルイジィが手紙の束を押しつけてきた。
 もちろん読ませていただきます。

「しばらくはこちらにご厄介になるご予定で?」

「騎士団がこの界隈からいなくなるまで」

「ああ、当分は難しそうですねえ。ただ、しばらくすると薄くなりますので、動くならその隙にでしょうか」

「騎士団の捜索範囲が広くなるってことか」

「ええ、王城での会議が紛糾しております。襲われた、連れ去られた等々の憶測が飛び交っておりますし、バーレイ侯爵もバーレイ伯爵も会議には参加しておりませんのでどうにもなっておりませんね」

「あー、うん、そうだね」

 オルトのことなんか、どうでもいい人たちだからね。
 次期最強の盾だとしても。

「そういや、ルイジィは」

「私も別ルートでソイ王国に参ります」

「、、、ああ、うん」

 ウィト王国に残る?と聞こうとした矢先に先手を打たれた。
 ルイジィはソイ王国に行ける伝手があるのだなあ。
 帝国とソイ王国は特に親しくしているとか、仲が悪いとかは聞いたことがないが。

 国境を接していない国だから、と言ってしまうのは早計だ。
 挟んだ国を協力して攻め落とすというのは国々がよくやる手である。後で取り分で揉めることが多いらしいが。

 深くは突っ込まない方がいい気もする。
 帝国の影だし。

「美女と野獣作戦ですか。私がその瞬間を見れないのが残念です」

 ルイジィがグジたちを見て言った。

「、、、」

 確かに俺はオルレアに扮して行くけど、どうしたら美女と野獣に見えるのか疑問しかない。
 オルレアに扮しても男装だから男の格好で、結局女装ではないのでどうやっても美女とは言えないのでは?
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