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4章 貴方に捧げる我がまま

4-6 貴方に捧げる決意 ◆ルイジィ視点◆

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◆ルイジィ視点◆

「イーティ第一皇子殿下、ウィト王国からこちらで待機との指示を得ています」

 学校の敷地にある職員寮の裏手、倉庫の前に立つ。
 皇子たちはそれぞれ指定された倉庫前にて集合。
 荷物の量が量だったからだ。
 皇子たちが使用する前に、すべての品物にウィト王国のチェックが入る。
 チェックが入る物にわざわざ隠す馬鹿もいないと思うが。

 この場所は今の時間、まったく人気がない。
 三人の皇子たちの正確な位置がわからないと警備がやり辛いということで、荷物が到着次第、皇子たちは持ち場で待機している。

「まずは第六皇子の元に行ってから、こちらに荷物を運んでくれる予定だったな」

「はい」

 イーティ皇子と私は倉庫のすぐそばに立っているが、最強の盾に頼まれたスレイ・フラワーは私たちと多少の距離を取って待っている。
 おそらく一団がアルティ皇子がいる校舎の裏手にある倉庫から回ってくるとすると、そちらから来る可能性は高い。

 これは最強の盾の指示か?
 私は最強の盾からの警戒から逸れたのか?

 警備員たちが遠巻きに並んでいるが、彼らは特に戦力にはならなさそうだ。

「アルティは皇帝陛下の仕事には慣れてきたのか?」

「道はまだまだ長いですなあ。時間は大分かかります」

「そうか。皇帝陛下もまだまだお元気だ。しっかり、、、」

 剣も体術も苦手な割に、心臓は避けられた。
 それでも、私の握る短剣はイーティ皇子の腹部に刺さった。
 イーティ皇子の端整な顔が歪む。

「、、、ルイジィ、お前」

「おや。苦しませないように、即死を狙ったのですが」

 スレイ・フラワーもこちらの事態に気づいたようで、抜剣してこちらに飛んでくるが、すべてが終わった後だ。
 私はイーティ皇子から距離を置く。

 イーティ皇子は片膝をついた。
 腹部の剣を手で触れている。
 汗が額から流れ、息が荒くなっていく。

「、、、毒か」

 青ざめたイーティ皇子が私を見る。
 もしもの時のための保険が効いたようだ。
 スレイ・フラワーはこちらを警戒しつつ、毒に対処する術を持たない。
 このまま時間が過ぎれば、イーティ皇子の命は尽きる。
 イーティ皇子自身はただ崩れ落ちるのみだ。

「いいや、毒だけじゃない。呪いも含まれている」

 否定の声が上から降って来た。
 この声は。
 表情は笑顔のままで固定しているが、内心は慌てた。
 呪いまでバレている。

 いくら何でも早すぎる。荷下ろしはもう完了したのか?
 最強の盾がいると、不確定要素がありすぎる。
 それでも、もう間に合わない。
 大丈夫だ。
 大丈夫なはずだ。

「最強の盾、」

 の声を発したと同時に、アルティ皇子が私の腕に降って来た。

「、、、おやおや、坊ちゃんは別の倉庫前にいたのでは?他の二人の影はどうされたのですか?」

「、、、ルイジィお前、すべて知っていての発言なのか?影全員に襲われたよ」

「え、全員ですか?」

 数人には襲われると思っていたが。
 それが手間取ってくれれば時間が稼げて好都合と思ったくらいだったのだが。
 最強の盾がそばにいるアルティ皇子がヤられる相手ではないからこそ。

「文字通り全員だよ」

「坊ちゃん、どれだけ人望ないのですか?」

「とにかく下ろしてくれないか?」

「それはやめておいた方がよろしいかと。私の腕のなかが一番安全だからこそ、私の腕に投げたのでしょうから」

 坊ちゃんににこやかに返答する。
 今の坊ちゃんはお姫様抱っこ状態である。

 そして、私がイーティ皇子に対して次の行動をさせないための。

 早過ぎたと言っても、数分で全身に回る毒と呪いである。解毒と解呪を同時にするのは、この人員配置では難しいだろう。
 せめて、この場にサイ・モルトがいれば可能だったかもしれないが。
 男子寮の近くの倉庫前にいる第八皇子とサイ・モルトに情報が伝わったところで、ここに来るまでに数分はかかる。

「、、、ルイジィ、兄上に何をした?」

 一瞬で判断してイーティ皇子に駆け寄った最強の盾とは違い、状況把握ができていないようだ。
 いや、アルティ皇子はできているからこそ、私の行為を信じたくないのか。

「オルっ、何があったっ?」

 大声を上げて駆けつけてきたのは、シン・オーツ。
 慌ててやってきたようだ。
 その後ろには帝国の一団である皇帝の影たち。土地勘がない彼らをわざわざ引き連れてこないでほしかったなあ。学校の警備員は後ろから追いかけて来るのに必死だ。彼らには影をとめようがない。

 影全員が皇帝に反旗を翻したとは。
 アルティ皇子が私の腕のなかにいなければ、すぐさま襲いかかって来ていたことだろう。
 全員が悔しそうな顔で、一定の距離を取って止まった。
 我々に剣を向けたまま。

 カランと乾いた音が響いた。
 イーティ皇子に刺した短剣が地面に落ちていた。

「すべて終わった」

 最強の盾の言葉が響く。
 そう、イーティ皇子の死で終わるはずだった。
 そうすれば、影たちだって戦意喪失する。跡継ぎが誰もいなくなってしまったら、本当に問題だ。そんなことくらい、影でなくてもわかる。

 私は息を飲む。
 万全を期したはずだったのに。
 短剣を刺した時点で勝利は確実なものだったはずなのに。

「ハニー、治癒も解毒も解呪もいっぺんにできる魔導士なんて、この大陸でも片手の指の数もいないんだよ」

 やや呆れ気味のイーティ皇子の声が聞こえてしまった。
 腹部を押さえているが、確認の手である。
 学校の職員の制服は破れて血がついているが、それだけの状態になってしまった。
 まだ座ったままで額には汗が浮かんでいるが、イーティ皇子の顔色は良くなってしまった。

「同時にやったら、魔力量で国にこの場にいるのがオルレアではないとバレる。一つずつやったに決まっている」

「、、、」

 私もイーティ皇子も笑顔のまま停止してしまう。
 はいはい、規格外規格外。
 忘れてどうする。
 相手はあの最強の盾。
 剣、猛毒、最凶の呪いを用意したとしても、最強の盾は生きていれば何とかなる人種だった。
 一つずつやったと言うが、三つ同時もできないとは言っていないところがまた。。。
 オルレアを演じているということを忘れずに。
 これくらいの状況は彼にとってはまだまだ慌てるものでもないのだ。

 イーティ皇子の身体能力は普通の人だから、コレで何とかなると思った自分が浅はかだった。
 ひたすら甘かった。
 問題はイーティ皇子ではない。そんなこと始めからわかっていたのに。

「ルイジィっ、そこまでして第六皇子を皇帝にしたかったのかっ」

 叫んだのは皇帝の影。
 私とともにこの国に残っていた一人だ。
 イーティ皇子と最強の盾の言葉で状況を把握してしまったようだ。

「イーティ皇子殿下に手をかけるとはっ、貴方こそ皇帝の命に背いているではないかっ」

 もう一人も叫んだ。

「けれど、キミたちみたいな影が、第一皇子が生きていると暴走するでしょう?今のように第六皇子がいなければ第一皇子が皇帝になれるのでは、と」

「いやいや、アンタらツッコミ待ちなのか?どちらも皇帝の命令に背いているじゃねえか」

 正論を言ったのはシン・オーツ。
 他国の人間からすると、どちらもおかしな行動をしている。

 彼もまた抜剣したままだ。
 にもかかわらず、最強の盾の腰にある剣は鞘に収められたままだ。

「どちらが帝国を長期に繁栄させるために有効かというと、第一皇子と第六皇子で内乱をしている場合ではない。だったら憂いは早めに除いた方が良い」

「そんな横暴が許されてたまるかっ」

 影が声を上げるが。

「お前らは何を言っているんだ。跡継ぎに決定していた第六皇子は当然に、第一、第八皇子を殺さないよう皇帝から命令をされているお前らの行動は、全員命令違反だ。お前たちは死ぬか、皇帝からの再教育かのどちらかを瞬時に選べ」

 静かな声が響いた。

「え?」

 皇帝の影全員が最強の盾を見た。もちろん、私も皇帝の影である。
 最強の盾は、ここにいる全員を対象にした。
 最強の盾の発言が本気なのは、彼が剣を抜いたからである。

 再教育をさっさと選ばないのなら、死ねと言っている目だ。
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