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3章 妄想のなかの、理想の王子様

3-1 お茶会の誘い ◆ソニア視点◆

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◆ソニア視点◆

「羨ましいーーーっ」

 アニエスとイザベルの大合唱の声いただきましたっ。
 放課後の学校のカフェテラス。三人でお茶をしている。

「わ、私もオルレア様の婚約者候補なら」

「残念ながら、王城に集められたのはオルレア様の婚約者候補ではございませんわ」

 王城に保護されたのは、王子たちの婚約者候補の令嬢。
 そこでのオルレア様の美しい姿をこの二人に語って聞かせていたのだ。

「キラキラなお姿を忘れないように描いた絵画も持ってきましたわ」

「たった三枚の油絵しか見られないのは悔しいですわ。もっとオルレア様のお姿を拝見したい」

 アニエスとイザベルが絵を拝んでいる。
 私としてもこの絵はなかなか良い出来だと思っている。脚色が過ぎると言われかねないが、このくらい美しかった。

「ねえ、ソニア、全部とは言わないから、一枚、後生だから一枚譲ってえ」

「アニエス、ずるいわ。私だって一枚とは言わずすべて譲ってほしいくらいなのに」

 可愛らしい二人が上目遣いを使ったら、そこらにいる普通の男性はイチコロだろう。

 ふっ。
 私は笑う。

「だがしかしっ、マイア王妹殿下とクオ王子殿下に一枚ずつ奪われてしまった私がもうオルレア様の絵を譲るわけがないわっ。本当だったらすべて私のものだったのにっ。この力作を模写する権利なら差し上げましょう」

 譲る気がないのなら見せなければ良いのに、という二人の視線には気づかないフリ。
 感動を同志に伝えたかったのだ。
 私の拙い話だけではオルレア様の魅力が半減するから、是非とも視覚で訴えたかった。
 映像魔法でも使えれば楽だったのだが。

「それなら、模写が上手い絵師を手配するわ。で、話からすると王妹殿下は仕方ないにしろ、クオ王子殿下に差し上げたのはなぜ?」

「じゃ、反対に聞くけど、王族にすべての絵が欲しいと言われながらも、一枚も差し上げない図太い神経を私が持ち合わせていると思う?それでも、一枚しかあげなかったから、うちの親が青ざめていたわよ」

「、、、親の視線には弱いわよね。すべてを奪われなかっただけ良しとしないと。アニエス、可愛い顔が台無しよ」

「私もその絵を見たかったわよ。クオ王子殿下みたいなパッと出てきた男にオルレア様の絵を奪われるのはひたすら癪ですわっ」

 ぷっ。

 つい吹き出してしまった。

「ソニアー?」

「思い出し笑いしちゃったのよ。舞踏会で第二王子がオルレア様に話しかけた際に、サイ・モルト様が、オルを急にパッと出てきた男に奪われるのは嫌だ、とおっしゃったのを思い出して。同じねえ、アニエスもー」

 ちょっと似せた口調で話してみたのだが。
 二人がものすごい顔になった。
 世の男性に見せてはいけない顔だ。
 それでも惚れると言ってくれる相手は、、、性癖に危険性があるのでやめておいたほうがいいな。真実の愛とか言える顔ではない。

「第三王子に公爵家令息、敵は多いわね」

 敵?
 アニエスの顔が笑顔なのだが、黒い。
 彼らに対抗しようというのか?
 この国の最上級な者たちだ。

 ひたすら無謀なのだが。
 金も権力も彼らの方が勝っている。
 そして、オルレア様は女性だ。バーレイ侯爵家が選ぶ結婚相手も男だ。
 オルレア様の結婚相手にわざわざ同性を指定する必要性もない。
 ならば、女性が選ばれる可能性は皆無だ。

 貴族令嬢が恋愛で相手を選べるわけがない。しかも、女性を。
 それが残酷だが現実だ。

 どんなに想ったとしても、その恋が実ることはない。
 憧れとして終わるしかない。

「アニエス、オルレア様が本当に好きになられたのなら、どんな方でも喜んで応援しましょうよ」

「くっ、素直に応援できない私がいるっ、私だけを見て欲しいという欲望が渦巻いているっ」

 もしアニエスが男性だとしても、男爵家だ。
 どんなに情熱的な恋愛をしたとしても、侯爵家が許さないだろう。
 もしも、男爵家といえども大商会でも持っていたとしたら別だろうが、我が国では今のところそんな家はない。
 この大陸全土に販売網を持つ大商会と言えばイー商会か。ウィト王国にも支店があり貴族女性に人気だ。
 あそこの商会長レベルなら、この国で爵位を持ってなくともオルレア様を嫁にするのを許す可能性はある。

 けれど、イザベルも私もアニエスにそこまで現実を話さない。
 学校の中くらいは夢を見ていても良いのではないかと思っているからだ。

「せめて、子猫ちゃんじゃなく、名前呼びを。私を認識してほしい」

 アニエスの必死の形相に冷や汗が流れる。
 うん。
 私はオルレア様に王城で何度かソニア嬢と呼ばれた。
 アニエスは地味な姿の私よりもオルレア様に記憶されているのじゃないだろうか?確認をしたことはないが。

 だが、この事実をアニエスに話したら、嫉妬の嵐になりそうだ。
 
「ああ、ほら、噂をすればオルレア様よ、、、アニエス、顔っ」

 瞬時にアニエスが可愛らしい笑顔に戻した。
 オルレア様がカフェテラスにやって来るとは。
 今日はお茶会に招待されなかったのだろうか。

 と思ったら、私を見た。

「ソニア嬢、見つかって良かった」

 おおう、尊い笑顔が私をとらえた。
 椅子から立ち上がり、礼をする。アニエスとイザベルも立ち上がり、オルレア様に礼をした。

「お茶している最中に悪いけど、ソニア嬢と少し話しても良いかな?時間は取らせないから」

「は、はい、どうぞ」

 アニエスではなくイザベルが慌てて答えた。
 無言のアニエスは変わらない笑顔なのだが、その笑顔が怖いぞ。

「マイア王妹殿下から私のところに連絡が来たんだ。お茶に誘いたいから、数日後にでも一緒に王城に来てくれないかと。都合が悪い日ってあるかな」

「オルレア様のためならどんな予定が入っていたとしても優先させますっ」

「ははっ、本当に何か予定があったらきちんと言って欲しいけど。お茶というよりは、おそらくソニア嬢の衣装のデザイン画を見せて欲しいという要望な気がするよ」

「それはもう日夜妄想を描き連ねておりますから、いつでも持参できます」

「そ、そう、無理はしないでね。では、マイア様の希望の日時にしてもらって大丈夫?」

「はいっ、もちろんですっ」

 王妹殿下の希望最優先で問題ないですっ。
 学校を休んでも飛んでいきますっ。

 マイア様はそんなご無体なことは言わないと思うが。

「使いの者にその旨を伝えておくね。じゃ、子猫ちゃんたち、お茶を楽しんで」

 爽やかに微笑まれて、オルレア様は去っていた。
 美しい余韻を残して。

 私は長々とオルレア様に手を振っていた。

 だって、後ろのアニエスが怖いんだもん。
 超笑顔だが、ドス黒い闇が彼女の周りを覆っているよー。
 いい天気のはずなのになあ。

「ソニアー?」

「いや、この場で私のことを子猫ちゃんと言った場合、用事があるのがこの三人の誰かすぐにわからない可能性が高いよねっ。さすがに名前を呼ばないとっ」

「王城でオルレア様のそばにいられたのも羨ましいと思ったけど、名前を呼ばれるなんて羨ましいぃぃーっ」

「そうね、三回もオルレア様にソニア嬢と呼ばれていたわ」

 イザベルがトドメを刺しに来る。回数を数えているな。
 味方ではなくとも仲介者さえいないぞ。

 オ、オルレア様もちょうど話題にしていた名前呼びをタイミングよくしなくとも。。。
 マイア様からのお誘いなら、返事を待たせてもいけないだろうから、名前を呼んでくれたのだろうけど。

「ねえ、ソニア。アニエスがなぜこんなに闇を背負っているのか、わからない?」

「え、名前呼びのせいじゃないの?」

「それもあるけど、貴方の緩み切ったその笑顔が憎らしいのよ」

 イザベルに頬をぎゅっとつねられた。
 反対の頬をアニエスがつねる。

 くすん。
 いちゃい。

 頬を擦る。赤くなっていそうだ。
 恨みの分だけ、アニエスから与えられた痛みの方が強かった。
 女の嫉妬は怖い。
 再認識した。

「ねえ、友人はそのお茶会に同伴できないの?」

 無理難題をイザベルが口にした。
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