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2章 令嬢たちは嫉妬する

2-14 花びら舞う王子様9

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 舞踏会ではまず王子たちはそのパートナーとともにファーストダンスを披露する。

「羨ましいわねえ。でも、ただの思い出になるだけじゃあねえ」

「ホント、今日という日をただ美しい記憶にするだけなんて。でも仕方ないわよねえ、身分が釣り合わないのだから」

「王家の温情ですわ。お優しいこと」

 周囲の令嬢たちから嫌味が聞こえた。
 ヒソヒソと妬む声が煩わしい。
 王子と一緒に踊っている伯爵家の令嬢たちに声を届ける大きさで話している。
 それほど大きい声が、他の人間にも聞こえているとは考えないのだろうか。

 王子の婚約者候補の令嬢が参加する晩餐会と舞踏会。
 親族が来ているということは、両親や兄弟等だけでなく、姉妹も従姉妹等も参加している。
 陰口を言っている者は婚約者候補以外の若い令嬢が多い。

 婚約者候補は貴族としてのかなりの教育を受けていることが多い。
 ゆえに表立って陰口を言わないし、悪意も丁寧な言葉に包んで、当人以外には悟られない。
 婚約者候補同士で潰し合っても良いことは一つもない。
 彼女たちの協調性も支配力も王族は評価しているからだ。

 そして、このような場にふさわしくない親族を連れて来てしまった者の人間性も評価されている。
 それを断れないような、もしくはふさわしくないと見る力もないような両親がいるなら。
 この会場にはチェックする者があちらこちらに交じっている。
 ほとんどの参加者は気づいていないようだが、王族側は全参加者の言動を把握しているようだ。
 これは婚約者候補のための晩餐会、舞踏会なのだから。
 ふさわしい行動をとれるかどうか試されているのである。

 オルレアは除外だろうけどね。
 しかも、親族どころか家族が誰一人として参加してないしー。
 男装している時点で素行調査なんて、無意味かもねー。



 王太子である第一王子にはすでに婚約者がいる。
 身分的にも容姿的にも文句のつけようがない。
 それにケチでもつけようものなら、王太子が国王になった時点でその者の未来はない。

 今、第二王子、第三王子が一緒に踊っているのはどちらも伯爵家の令嬢。
 身分が低いわけではない。
 
 けれど、自分たちの家の身分が勝っているからこその、身分しか勝てない者の言い草。

「オルレア、もうそろそろ一曲目が終わるわ。二曲目に踊る者たちは意外と少ないから踊りやすいわよ。なぜかわかる?」

「挨拶合戦に行くからですか?」

「ええ。さすがに息子たちのファーストダンスの最中に、陛下たちに挨拶に行ったら失礼でしょう。終わった瞬間から列が並ぶ。それに王子たちには次のダンスは私とー、とアピールする令嬢たちで溢れかえるわ」

 溢れかえった令嬢の手を王子が一瞬で選べるのは、当初から誰と踊るか予定されている場合だけだろう。
 踊る相手って王子でも最初から決めていないんだな。
 その場の雰囲気?先着順?

「王太子殿下にそれをしたら不敬なのでは?」

 第一王子の場合はパートナーがすでに公表された婚約者なのだし。

「そうとも言えないのよ。社交の場では社交するのが仕事だから。まあ、でも、ルオは婚約者とともに挨拶を捌くことになるんじゃないかしら」

 結婚相手が決まっている者にはそれなりの仕事があるということだ。次期国王として。

「大変ですね、王族も」

「そうね。行きましょう、オルレア」

 音楽が変わる。
 俺はマイア様に手を差し出す。
 前を向くマイア様は綺麗だな。
 
 俺もオルレアの代わりでなければ、こんな華やかな場に出席することはなかっただろう。


 マイア様もレオ様も二曲目のダンスが終わったら、挨拶合戦に巻き込まれた。
 何と言っても王妹だから。
 それにあのダンスを見たら、踊ってくださいと申し込む者も多いだろう。
 婚約者でもない俺は横に立ってても暇なので、軽食スペースにでも行って物色する。
 先程の晩餐会でしっかり食べたはずなのに、ある程度の人数がここにいる。
 軽食とはいっても、さすが王城。良いものが並んでいるし、晩餐会後なのでデザート類が豊富だ。

「オルー、軽快なダンスだったねー。格好良かったよー」

「はっ、オルレア様っ」

 サイとマーガレットがやって来た。

「サイ、ダンスはあんな感じだぞ」

「了解、了解。こちらも魔法でなんとかする」

 サイは普通に踊れると思うけどなあ。
 侯爵家の跡取りとして教育はされているのだし。
 サイは当たり前のように、飲み物をマーガレットに渡して、俺にも渡した。
 さすがはモテる男。サラリと気遣いしてくれるっ。

「イヤだなあ、私が特別扱いするのは妹とオルだけだよ」

「はいはい」

 その妹は先程から固まっているようだけど?
 グラスを持ったまま動かない。
 どうしたのだろう。

「けれど、こういう場って華やかだけど、やることがないと暇なんだな」

「情報収集の場だからね。知り合いがいないと手持無沙汰で壁の方でウロウロしている人は多いんだよ。私は率先して一人になりたいけどね」

 うん、よく見なくても壁の方にいる人たちは少なくない。
 侍女や護衛は会場まで入って来れないから、貴族同士の交流がないと会話に入っていけないんだな。
 今回は会場入りできる者は限られている。仲の良い知り合いがいたら運がいい方だ。
 それならば、国王夫妻や王太子に挨拶に行きたくなる気持ちもわかる。

「本当に男性は白色の衣装が流行しているんだな」

 男性は一部を除いて白。高齢の男性でも白を着用している者が多い。
 女性はほぼ白一色の男性に比べて華やかだ。女性を引き立たせるために白なのかな?

「国王陛下がわかりやすいだろ」

「ん?そういう心遣いなのか?白って」

「いや、白の衣装が女性にモテるって書かれた本があるらしい。少し前まではここまで白ではなかったようだが、本に影響された人間が流行りにしてしまった」

「、、、サイは何で白にしたんだ?」

「面倒だったから」

 言葉が足りてないぞ。
 サイのことだから服飾職人と話すのが面倒で、うんうん頷いていたらこうなったというところか。
 とりあえず流行を勧めるのが無難だろう。
 男性で流行の先を狙う者は意外と少ない。

「何の本?」

「そこまでの興味はない」

 サイだからねえ。小耳に挟んだ程度の知識か。
 白馬に乗った王子様的な感じかな。
 でも、ほぼ全員が白だと女性にモテるかどうかってわからなくない?

 サイと話していたら、数曲が過ぎ去っていった。
 もうそろそろマイア様が俺に来いっと合図してきそうだ。

「オルレア殿、」

 振り向いた先には王子がいた。
 ただし、第二王子である。
 すぐさま礼をする。

「いや、畏まらなくていい。ご歓談中に申し訳ない。少々いいかな?」

 ネオ王子は爽やかな笑顔でサイとマーガレットに少し頭を下げる。
 さり気にこういうことができる男が第二王子か。自分の会話が最優先だっ、というような王子に育たないところが素晴らしい。

「はい、殿下。本当ならこちらからご挨拶に伺わなければならないところを」

「いや、オルレア殿が私のところに来ていたら更なる渋滞に巻き込まれていたことだろう。ところで、弟君のオルト殿は元気にしているか」

「あ、はい」

 元気です。貴方の目の前にいる人物ですので。

「、、、そうか。この王城での暮らしが一段落したら、貴方を乗馬にでも誘いたいが、どうかな?」

「乗馬でしたら大丈夫です」

 この王子、できるな。
 乗馬でもドレスで来る令嬢はいるが、令嬢自身が乗馬できるのならば、パンツルックでも構わない場所を選択している。つまり、男装のままでいいよ、と言ってくれたと同義。ありがたい。

 ということに気を取られていて、なぜオルレアを誘ったのかということを聞きそびれた。
 オルレアは第二王子の婚約者候補でさえなかった。

「では、後日、連絡する」

 後方にたむろするご令嬢たちがそわそわし始めたところで、ネオ王子は戻っていった。
 静かになってから。

「オル、王子の誘いに乗るの?」

「乗馬なら」

 オルレアも乗馬は得意だ。オルレアの愛馬は連れて行かんけど。俺を乗せるのを嫌がるので、正体がバレる。あの馬は女性しか乗せたがらない。

「私もついて行こうかなー?」

「、、、乗馬だぞ、サイ」

「魔法でなんとかする」

 ちなみにサイは乗馬を苦手とする。できなくはないが、といったレベルである。
 貴族は馬車に乗るからそこまで重要ではないし、サイの場合は馬に乗らなくても魔法を使えば移動できる。
 だが、乗馬は乗馬自体を目的にしているから、場所の移動が目的ではない。

「何でそこまでして」

「オルを急にパッと出てきた男に奪われるのは嫌だ」

 はい、サイー。
 表現をしっかり頭の中で考慮してから口にしようかー。
 近寄って来たソニア嬢が赤くなって勘違いしているぞー。
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