解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
266 / 291
11章 善意という名を借りた何か

11-20 急に現れる

しおりを挟む
 旅行の準備、というほどのものはない。
 収納鞄に何もかも詰め込んでいるので、王都で何か買いたい物、他のところでは手に入りにくい物があれば買っておく、という程度だ。
 何もかも高い王都じゃ、必要最小限の物しか買いたくない。

「、、、何で、行程表が必要なんですか?」

 俺は冒険者ギルドの奥にて、通信の魔道具で話すハメになっている。
 少し呆れた声が返って来る。

「リアム、お前はその一年間、冒険者として他国の冒険者ギルドを活用するんだろう。拠点を移すものではないが、縁もゆかりもない遠い他国の冒険者がひょっこり現れたら怪しむだろう。話をそこの冒険者ギルドにしておくから、どこの国に行くかの順番くらいざっくりな行程表でも作りなさい」

 ズィーさんに窘められた。
 そりゃ、西の果てのクジョー王国からいきなり冒険者が来たら、何で?と思うよね。
 必要な物は収納鞄に詰めているとはいえ、現地通貨への両替や現地の情報等はやはり冒険者ギルドに頼らざる得ない。

 確かに計画はしておいた方が良い。
 魔石は高い。
 空間転移魔法陣を使うのは必要最小限にしておきたい。
 ハーラット侯爵家のようにバカバカ使うわけにはいかないのだ。
 馬車での移動が我慢できる距離は馬車で移動する。

「はーい」

 仕方ないから肯定の返事をしておいた。

「グレーデン大国に居続けると言うのなら大歓迎だが」

「オチをつけなくてもいいですよ、ズィーさん」

「、、、グレーデン大国はオチか」

 俺は数日後の魔法学園の卒業式を待たずに出発することにした。
 というわけで、俺は卒業式の打ち合わせなんて参加するわけもない。
 ゾーイが手を離そうとしなかったが、必要ないものは出ないよ。
 冒険者ギルドに行ってくるー、と言って学園から出掛けてきた。

 グレーデン大国から魔の砂漠に行くときはゴウかクマリンに声をかけてくれるそうだ。
 初めて入る冒険者は必ずガイドが必要だということだが。
 S級冒険者をガイドとして使うなんて豪華すぎるぞ。

 外せない国というのはあるけどね。
 ズィーさんと打ち合わせして、冒険者ギルドを出ると。

「よお、初めましてだな」

 知らない人に絡まれた。
 品のいい服装だがガタイが良く、顔は強面である。まあ、ナーヴァルほどの悪人面ではないし、強面でもイケメンの部類に入るだろう。

 このまま逃げ去るのが良いのか、戻って冒険者ギルドに助けを呼んだ方が良いのか。

「お前なあ、わかっててそう考えているなら性格が悪いぞ」

「はあ、、、神獣様と呼びますか?それとも、海竜様とでも呼びますか?」

「はっはっはーっ、お忍びだからカイでいい。人間の姿のときはカイと呼べ」

 急に現れるなあ。
 神獣ってそういうものなの?
 魔の海原に閉じ込められているんじゃないの?

「誓約者がいれば、どこにでも現れるからねー、僕たちはー」

 ちっこいクロがニョっと現れ、肩によじ登って来る。

「まだ昼じゃないぞ」

「海竜がいるなら僕がいた方が良いんじゃないかなーと思ってー。さすがに襲われたらリアムは勝てないからねえ」

「、、、俺、普通の人間だからなあ」

 神獣には勝てないよね。誰でも普通に負けるよね。

「カイもクロぐらいのサイズになれば良いのに」

 海竜といえども竜でしょ?手のひらサイズなら可愛いんじゃないの?

「俺は人間サイズが一番小さいんだ。海竜の姿だと一番小さくとも人間二人分の身長の高さにはなる」

 あー、それでもデカいな。
 ここで海竜に戻らないでくださいね。

「神獣ってすべてが伸縮自在なわけじゃないんだ」

「俺はかなり大きくなるからなあ。クジラぐらいには」

 あ、ホントにデカいですね。
 絶対に戻らないでくださいね。クロが大怪獣するより恐ろしいことになりそうだ。

「誓約者というとリリーですか」

「うちの嫁に子供ができたからなあ。父親を迎えに来た」

 もしやお礼参りですかね?
 合意の上なんですけどね。

「リリーに頼んだのは俺だ。俺だけでは人間に子供を産ませることができないからな。お前なら正式な誓約者を作ってくれると期待したんだが」

 リリーは正式な誓約者ではないと?
 うん?

「俺らの正式な誓約者というのは俺らとともに神域を作れる者のことを指す。滅びた奴らはすべて失敗して、魔物が溢れる土地になった。アイツらは誓約者を、人間自体を軽んじていたからなあ。大陸全土が魔物だらけになる前に、魔の海原を神域化しないと俺も危ない」

 お?
 滅びた奴らとは、他の神獣のことか。

「というわけで可能性があるお前に託したんだが、お前だけじゃあやはりちょっと足りなかったようだ。俺の成分がないとダメらしい」

 へえ?

「というわけで3Pでもするか?」

 はい、却下ー。
 死ね。←心で思うだけは自由。全部筒抜けているようだけど。

「冗談だよ。一年間各国を回るんだろ。必ずうちの国にも来い。そのときにリリーに仕込んでくれ。後はこちらでどうにかする」

 んー、何かそのとき、シロ様が出てきそうな気がするのは何ででしょうね。クロじゃなくてね。

「うん、今、シロ、ものすごく怒ってるよー。死ねっ、海竜っとか言ってー」

 ニヨニヨ笑っているクロ。
 シロ様がいたら本当にシャレにならん状態になっていたんじゃないかなあ、この場が。
 怪獣大決戦になっていたんじゃないかな?
 巻き込まれなければ、見てみたいけど。

「一人目の子供は?」

「責任を持って可愛がる。が、将来はおそらくお前の元に行きたがるだろうな」

「そうなのか?」

 俺が父親だとわからなければ、両親揃っていると思い込むだろうに。いや、神獣が父親という時点でおかしいか?疑問を持たない方がおかしいか?

「お前は男爵をずっと続けるつもりはないんだろ。跡継ぎは必要だ。お前には俺の子に父上と呼ばれる権利を許そうではないか」

「で、カイは何と呼ばれる予定なんだ?」

「お父様って呼ばれたいっ」

 、、、呼ばれたいんだ。

「ま、こっちだ」

 カイがリリーの元に案内してくれました。神獣が直々に。。。





「少し早い出産だったが、落ち着いたから連れて来たぞ」

 そこからごくごく近所の大きな建物に案内された。
 魔法学園の寮ではなく、豪華ホテルのようでいて、病院のような施設に連れられてきた。
 個室には使用人なのか、かなりの人数がいる。
 彼らが身にまとっているのは宗教国家の衣装なのがわかる。

「カイ様、お帰りなさいませ」

「他のヤツらはすべて席を外せー」

 とカイが言うと、一礼して部屋から消える。統率がとれている。
 俺はベッドのそばに寄る。
 リリーに抱かれている赤ん坊の目が俺を見た。
 そして、俺の指をにぎにぎする。

 超可愛い、俺の子ー。

「リアムの小さい頃ソックリだねー。違いは金髪ってところかなー。リアム二世だねー」

「うおっ、クロ、なんてセンスのない名前」

「じゃあ、何て名前なのさー」

 俺たちはリリーを見る。

「そうね、リースとかリのつく名前を考えてみたのだけど」

 リースはどこかの息子にいるなあ。
 リリーとリアムだからか。
 海竜は、あ、一応リが入っているか。

「リィン、なんてどうかしら」

「、、、リィン、うん、いいんじゃないか」

「将来はリィン・メルクイーン男爵って呼ばれるのかもしれないわね。うちの国には形式的な冒険者ギルドしかないけど、冒険者として育てるわ。正式な冒険者登録は私たちが砦に遊びに行くときにでもしてやってね」

 魔の○○に憧れている冒険者たちが、なぜ魔の海原に行かないのか。
 魔の海原があるのが宗教国家ということだけではない。
 冒険者ギルドがあることにはあるが、あまり機能していない。
 冒険者もいることにはいるが、神獣の海竜が強い魔物を退治するので、そこまで強い冒険者は必要ない。
 彼の地は神獣が強い国で、神獣が信仰の対象なのである。

「けれど、何でうちの跡継ぎのことまで考えてくれているんだ」

「そりゃ、交渉材料にするためだよ」

 あっさりとカイが白状した。

「何の交渉だ」

「もし、うちの神域化が間に合わなかったら、魔の大平原の隅っこに居候させてもらおうと思ってな」

「?」

 あのー、クロ、こんなこと言っているんですけどー、どういう意味ですかねー。
 クロがテーブルの上でお腹を抱えて笑っている。

「ぎゃははっ、うわっ、お腹痛いっ、こっ、こんなに笑ったの、久々だよっ」

 ちっこいのがピクピクしてる。

「そんなに笑うことなのか?」

「そりゃーそうだよー。僕たちは神獣でも例外中の例外で、神獣内でも神獣だと認めない派もいたぐらいだ。僕たちに頼むなんて、切羽詰まっているんだねー」

「今、残っている神獣が神獣らしくない海竜、蠍とくれば、この世界はそういう運命だったのだろう。我々は獣ではないからなあ」

 そういやクロとシロ様は何に分類されているんだ?オコジョ?オコジョとは違うよなあ、耳ないし。ハムスター?耳ないから違うけど、ちっこい姿は一番近そうだが。
 あ、いや、耳はあるんだけど、イヤーカフがついている辺りにきっと。俺には見えないだけで毛に埋もれているんだろう。
 他の神獣がどんな姿かわからないから、海竜がいるのだから別に伝説上の動物だろうと生き物だろうと、前世で知らないものであろうとも関係ないのだが。

「大平原の横に海がくっついたところで、何の問題もないだろ」

 海産物が手に入る?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

待てない忠犬チワワ 〜私のご主人は隙だらけ〜

初昔 茶ノ介
ファンタジー
かつて、この者に敵うものなしと囁かれた最強の魔法使いがいた。 魔法使いは最強の称号を得てもなお、研鑽し、研究し、魔法のみならずありとあらゆる技や術などの習得に生涯を注ぎこんだ。 しかし、永遠の命を得ることはできなかった。 彼は文字通り自己の研鑽のみに時間を割いていたため、弟子や子はいなかった。 彼の元にいたのは気まぐれで飼っていた1匹の犬のみ。だが、その愛くるしさは彼にとって研究合間の休憩になっていた。 死の間際に彼は犬を呼び、頭を撫でた。 「君を一人残していくことを…許しておくれ…。私の力は…君に託そう。君の力と記憶は…君の魂に刻まれ、輪廻の渦に晒されても失われないだろう…。どうか、こんな私のような物好きではなく…次は素敵なご主人に…拾われて、守ってあげて…」 魔法使いが最後の命を振り絞って犬に魔法をかけたところで、頭を撫でていた手が力なく滑り落ちた。 犬は主人の元を離れず、数日のうちに犬も命尽きた。 命尽きた後、転生を果たした犬はある人間と出会う。 そして、新しい飼い主となる人間と犬は伝説と呼ばれる偉業を成し遂げるのだった。 これは、犬と飼い主が伝説と呼ばれるまでの話…。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

処理中です...