解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
111 / 291
5章 必要とされない者

5-16 砦の来訪者 ◆ルイ視点◆

しおりを挟む
◆ルイ視点◆

 どうしようもない。
 私が砦に向かうしかない。
 今回はリアムが釘を刺しに来なかった。

 それは我々を見限ったということなのか。

「やあ、リアム。久々だねー」

「ご無沙汰しております」

 リアムに綺麗なお辞儀をされてしまった。
 リアムの弟アミールの家庭教師がお休みの日。
 砦の三階の玄関にて。

「リアム、」

「ルイ・ミミス様、お買い物でしたら、ごゆっくりとご覧ください」

 完全に他人行儀な対応をいただきました。他人だけど。
 さんが、様になってしまったよ。

 リアムは挨拶が終わると、そのまま去って行こうとした。

「待って、リアムくんっ。話を聞いてくれ」

「こちらには何も話はありません」

 感情のこもってない目を向けられる。
 うわー、ここで挫けてなるものか。

「こんにちはー。あ、リアムくん、お客様ー?」

 元気な女性が入ってきた。上品な衣装だが、この国の者ではない。

「こんにちは。お待ちしておりました。旦那様は?」

「朝まで飲んでいたみたいだから、やっぱり起きられなかったわー」

 もう昼過ぎだが。

「そうでしょうね。ナーヴァルもリージェンも部屋に籠ってますから」

「ホントに困った人たちよねー。際限がなくなるんだから。でも、たまには息抜きも仕方ないのかもね」

「テッチャンさんは理解してくれる素晴らしい奥様をお持ちで幸せですね」

「もー、この子ったらー、口がうまいんだからー」

 ばっしん。
 リアムが背中を強打された。。。
 痛そう。。。
 強いな、この女性。

「あ、そうだ。ラーメンの在庫ってあとどのくらいお持ちなんですか」

「えーと、あと五箱あるわね。残りはすべて味噌ラーメンよ」

「昨日と同じ価格なら、すべて購入しても良いですか?」

 リアムの言葉に、女性がキラキラした瞳になる。

「本当?嬉しいっ。これで旦那の鼻を明かせるわっ。そんなに持っていても売れるわけがないっ、って言われ続けていたから」

「こんな遠くの地で、こんなにクオリティの高いラーメンに会える機会はなかなかないですからねえ。俺はこの地から離れられないでしょうし、昨夜、自分用に買っておいても損はないと思いまして」

 女性が収納鞄から取り出した五箱はかなり大きい。一箱何人前入っているんだ?
 リアムがお金を支払って、自分の収納鞄に詰めた。状態保存の収納鞄だから腐りはしないだろうけど、自分用ってどんだけ食う気なんだ。
 リアムは満足げな表情だ。

「あー、さすがに私たちでもなかなかここまでは来れないわね。ここは大陸の西の果てだから遠いわ。極西の砦の噂を聞いて、この国では醤油も味噌も珍しいものだから取り扱ってもらえないかと来たのだけど」

「、、、あれ?砦での醤油や味噌の仲介も希望だったんですか?」

「ここで大量に売れたから、残念ながら置いてもらう在庫の方が乏しくなっちゃってて。たぶん、旦那の方の在庫ももうそんなにないと思う。もしかしたら、あの幼馴染みたちが買い占めた可能性もあるし。置いてもらえたら嬉しいけど、すぐに在庫切れしちゃうのも悪いし」

「砦の冒険者の人数を考えると、調味料でも大量に必要でしたからねえ。この街の滞在予定は変わらず?」

 買い占めているのは砦じゃないか。。。

「在庫がなくなったら、国に戻るだけなのよ。後は、売れたところで感想を聞きながら帰っていく感じになるわ。感触が良いところならまた来るかもしれないけど、旦那は他の国も回りたいでしょうし、この砦に来るのは随分先の話になるわ」

「そのときにはラーメンの人気が出ていて価格が高騰していると、手が出せなくなっちゃいますねえ」

「リアムくんなら自分で麺ぐらい作れるんじゃない?」

「ラーメンの麺を素人が作るもんじゃない」

 リアムがキッパリと言い切った。女性の方が驚いているぞ。

「まあ、スープの方は長時間煮込めば良い出汁が出るでしょうけど、ここではあっさり醤油かあっさり塩ラーメンが好まれそうなので、とんこつラーメンまで行きつくのは夢のまた夢でしょうね」

「うちの店に来てくれれば、いくらでもご馳走するのに残念」

「転送魔法で配達してくれません?」

「やりたいけど、その魔法は使えないわー」

「じゃあ、ちょっと魔道具をいじりますね。さすがに長距離過ぎますから、数日あれば何とかしますので、滞在日数を変えないでいただけると助かります」

「え?」

「え?」

 女性、魔道具って?
 リアム、魔道具があれば配達やってくれるんじゃないの?
 意思疎通しようぜ。
 たまにリアムは説明を吹っ飛ばすよな。

「リアムは遠い国にある貴方の店に片方の魔道具を置いてもらえれば、砦に置いてある魔道具に届くってことを言いたいのだと思いますよ。その転送の魔道具をリアムが作成すると言ってます」

 私が言葉を付け足した。

「それ、凄いじゃないのー。あ、でもそれじゃあ代金受け取りが難しいわね。取りに来るにも数年ごとになるかしら?」

「それだと困ると思うので、俺が作る場合一つの魔道具で双方向はかなり難しいので、受取用、送出用の物で何とかならないかなあと。在庫がなくなったのならば収納鞄にも余力があるでしょうから転送の魔道具を入れてもらってお帰りになり、その後、醤油や味噌を送ってもらえば仲介もできますし、請求書等を送ってもらえば、この国の通貨で申し訳ないですがお支払いすることもできます」

「も、もしかして、ラーメンの出前もできるってこと?」

「、、、本物のラーメンは砦の冒険者にはまだまだ味が濃いと思うので、出前の需要はナーヴァルたち中心になりそうですが。とんこつラーメンは久々に食べてみたいですね。話していると段々食べたくなってきてしまいます」

 、、、リアム、とんこつラーメン食べたことあるの?

「確かラーメン屋は王都で一軒出店予定があったと思ったけど」

 私は口を挟んだ。

「ええ、うちの商会で出すんですけど。。。ラーメン屋というのは本当は貴族相手の高級店じゃないんですっ。庶民的なソウルフードなんですっ」

「あー、王都じゃ高級店になっちゃったんだー。仕方ないよね。そうしないと元取れそうにないよねー。でも、高級店だとラーメン屋って感じはしないよね」

 リアムは何でそんなことを知っている。

「わかってもらえるー?リアムくん。旦那がさあ、醤油と味噌普及のために、まずは貴族から攻めようってことで予定しているのよ」

「目のつけどころは良いんですけどね。ラーメン屋は屋台でもいいくらいなのに」

 うんうんとリアムくん。

「あ、それとうちの料理人があの後うちの魔物肉でチャーシューを作ってみたんですよ。ちょっと薄味仕様ですが、試食されますか?」

「うちの店のチャーシューと比べたら、可哀想よー。うちのはとっても美味しいのよー、食べさせてあげたいー」

 と言いながら、一階の食堂に降りていこうとする。
 私も一緒についていこうとすると、リアムは(・д・)チッとしたが、私にもプレートを渡してくれた。
 キミ、私の正体気づいているんでしょ?
 取り入ろうとしないところが良いのだけど。それがここメルクイーン男爵領だからこそなんだけど。


 で、厨房にて。

「何、このお味ーっ。美味しいーっ。チャーシューを初めて作って、このハイクオリティって何ーーーっ」

 一口チャーシューを食べると、女性が叫んだ。
 私も食べてみる。うんうん、魔物肉が良い仕事しているな。
 料理人たちが照れている。

「美味いでしょー。うちの料理人は優秀なんですよー。醤油が手に入ればこのぐらいは手早く完成させるんですよ」

「コレなら麺も簡単に作れるんじゃないのーっ」

「ラーメン作りを舐めるんじゃない。麺はスープとの相性が命っ」

 リアムが言うんかい。こだわりが半端ないな。

「うちの魔物肉はチャーシューにも最適なものを豊富にそろえてます。脂身が少ないものでも、赤身と脂身のバランスが良いものでもどちらでも対応しますよ。目玉商品に加えて見たくないですかー?それに魔物肉なら貴族相手でも見劣りしませんよ」

 うわー、商売上手ー。

「魔物肉ってお高いんでしょう」

「お客様ー、醤油や味噌、その他の調味料を現地価格で売っていただけるなら、こちらも勉強しますよー」

「うちの国にいるみたいな気にさせられる営業トークだわー。一応旦那と相談するけど、いいかしら?」

「もちろんです。末永いお付き合いができることを期待してます」

 リアムの営業スマイルも輝いている。。。

「ああ、お嬢さん、本当なら転送の魔道具を作るとなるとそれなりの金額になるから、その点も旦那さんにきちんと言っておいた方が良いと思うよ。リアムは無償貸与で良いと思っているから。それに輸送代もかからないってことだし」

 私が彼女にプラスの面は伝えておこう。
 リアムがうんうん頷いている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...