解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
上 下
89 / 291
4章 闇夜を彷徨う

4-22 弄ばれた者たち ◆ビッシュ視点◆

しおりを挟む
◆ビッシュ視点◆

 優しく耳元で囁かれる。

「お前のカラダは最高だ、他の四人よりも。だから俺のためにもっと激しく腰を振ってくれ」

 甘い言葉も愛撫も、彼らのカラダを満足させるために紡がれるものだとしても、彼らに従う。
 他の四人も俺と同じような考えで、この場で抱かれているのだろう。
 自分が愚かなことをしているのは自覚している。




 一週間前に、B級冒険者であるルー、レイ、ロウ、ラア、リズの五人組が砦にやって来た。
 砦には今までいなかったタイプだ。砦にもイケメンは少なからずいるが、挨拶のように他人を口説く人間はいない。
 俺の元にもルーが来た。

「綺麗な目をしているな。一緒に冒険がしてみたいよ」

 それは俺にとって甘い囁きだった。
 B級冒険者の仲間になることができれば、討伐ポイントは嫌でもたまる。C級冒険者として終わる可能性が高かった俺でも機会が回ってきたのかと。

「じょ、冗談だろ」

「可愛いな。俺のことはルーと呼んでくれ」

 ルーは俺の髪の毛の一筋を手に取り、口づけをした。そして、ルーは俺の首に下がっている冒険者プレートを見る。

「キミはC級冒険者だね。ビッシュ、素敵な名だ。キミは俺の仲間になりたい?」

 俺はルーの言葉に頷いてしまった。
 ルーに甘く微笑まれる。
 小さく、耳元で囁かれる。

「俺は恋愛でも肉体関係がないと成り立たないと思っている。カラダの関係を許してくれるのなら、今夜、俺の部屋を訪ねてくれないか?」

 出会ってすぐに肉体関係を迫られる。
 つまりはカラダ目当てだ。
 けれど、カラダを差し出せば、B級冒険者の仲間になれるのなら。
 そんな考えを持った者が俺の他に四人もいた。

 俺たちはルーの仲間たちに快楽を与えられた。
 ほんの少しだけ正気に戻ると、他の四人も快楽に溺れているのを見た。
 大きく股を開き、口を開き、彼らを淫らに受け入れている。
 この部屋にいる十人が全員全裸でベッドでも床でもソファでもテーブルでも繰り広げている。

 爛れた関係とも言えるが、五人が五人とも仲間になれるのなら何の問題もなかった。
 いや、五人の中で誰かが仲間になれるのなら、まだ良かった。




 甘い夢から覚めたのはすぐだった。
 ルーたちが一か月の遠征に連れていくと言ったC級冒険者はベイだった。ベイはネームプレート板のC級冒険者の中でトップに並んでいる。
 カラダを差し出した俺たち五人の中にはいなかった人物だ。

「何で、俺たちは」

「最初に言っていただろ。俺たち五人全員を満足させられる奴を連れていくと。五人で話し合っても、お前ら今一つだったんだよな。もう少しそっちの腕も磨けよ」

 ルーは俺たちに言い放った。
 普通に実力で連れていく仲間を決めたのなら、俺たちは何だったんだ。
 甘い餌をちらつかされて、寄って行った馬鹿みたいだ。いや、本当の馬鹿だ。

「砦の管理者のリアムがC級冒険者だったならなー」

「まだ言っているのか、ルー」

「だって、あの冷たい目、良いよなー。屈服させたくなるじゃねえか」

「変態め」

「お前が言うかー、レイ」

 コイツらは何を言っているんだ。
 リアムにまで手を伸ばそうとしているのか?

「リアムなら一人で五人全員満足させてくれそうな気がしねえ?」

「、、、まあ、実際、一人で五人満足させてくれる人間がいるのが一番良いんだけどな。魔の大平原では見張りも睡眠も必要だから、ヤれるのは結局一人ずつだろうし」

「お待たせしましたー。あれ?この五人もついていくんですか?」

 元気な声が響いた。
 C級冒険者のベイが走って魔の大平原への出入口にやって来た。

「いや、俺たちの見送りに来てくれただけだ」

「ああ、そうなんですね。一週間でそれほどの人望を集めるなんて凄いですね」

 ベイは何も知らない。
 俺たちがどんなことをされてきたのかを。

 そして、俺たちは戻れない。
 強い快楽を与えられたカラダは疼くことしかしない。




 俺たちは五人で食堂にいた。
 すでに朝食の時間は終わっている。
 誰も何も話さないが、話し合った方が良いのだけはわかる。

 料理長が温かいお茶を出してくれた。それだけで、すぐに厨房に引っ込む。
 それだけが、ありがたい。

「なあ、ビッシュ。このことを上に話した方が良いんじゃねえか」

「、、、そうだな。彼らの仲間にはなれなかったんだから、もう信頼関係とかいう話じゃないな」

「けど、確かにアイツらは俺たちに条件を言っていた。それを俺たちができなかったというだけで、、、」

「報告するだけ報告しておこう。上がどうするかは、上の判断に任せるということでいいんじゃないか。俺たちがB級冒険者に何か言ってもどうにもならない」

「、、、なあ、上の誰に言うんだ?」

「、、、」

 皆、黙ってしまった。
 砦の上というと、ナーヴァル砦長、リージェン副砦長、補佐三人、砦の管理者リアムの六人である。
 冒険者の管理という点では、本当ならリアムは除かれるのだが、実質、冒険者の管理もリアムがしているのは、砦にいる冒険者は知っている。あのネームプレート板を見るだけでも、彼が冒険者を観察しているのは嫌というほどわかるのだ。
 俺はリアムがあのネームプレート板をサクサクと並び替えているのを見たことがある。
 砦にいる大量の冒険者全員の実力を、彼は頭に入っているのだ。

 その基準は彼の、母上にとって利益がある順番じゃねえの?という裏の噂が存在するが。。。実際、ただの実力だけならちょっと疑問符が浮かぶ順番もある。総合的に考えるとそれもアリなのかなと考えることもできるので、誰もリアムに尋ねたりすることはないが。尋ねたら最後、コマゴマと長時間にわたり説明されることになるので、本人も聞きたくないようだ。
 説明できる分だけ、彼はすべての冒険者を見ているのだ。

 リアムの母親はすでに亡くなっている。砦を守れという最後の言葉をリアムが守っているというのは砦内では有名な話だ。

 新しく砦に入った者以外、誰もがわかっている。
 D級冒険者なのに、討伐ポイントも少ない壁際に来る小さい魔物を一人でプチプチと倒していることを。
 外壁の修繕を魔法でやっていたり、砦のいろいろな修理も勝手にやっている。
 誰かがやらなければならないことを誰にも言わずにコッソリやっている。
 本来ならば、砦の管理者、つまりはメルクイーン男爵家の人間がやることではない。
 リアムは指示することは指示しているが、自分ができることはさっさと自分でしてしまう。
 すべて指示すれば良いだけの人間が。

 愚かな者以外、皆が感謝している。
 この砦で冒険者として生きていくことが、どれほど大変なことなのか。
 魔の大平原の魔物はどこのダンジョンよりも強い。
 昔の冒険者の死者数を見ていればわかる。
 彼が砦の改革を始めて、どれほどの数が減ったのか。

 アーミーのときの泣き叫ぶ冒険者がいるのを皆が覚えている。

 それが今、この砦では当たり前のようになっている。
 当時、誰も死んでいった冒険者のことなんか覚えていないくらい感覚が麻痺していた。
 俺は十歳頃にこの砦に来たが、彼が改革を始める前は当然のように冒険者が亡くなっていた。
 冒険者は死ぬのが当たり前だと思うくらいには。
 死者がいない日の方が少ないくらいだった。

 砦が決定的に変わったのは、砦長と副砦長が誕生してからだ。
 目に見えて死亡者が激減した。
 冒険者の環境も良くなった。

 母上ー、母上ーとリーメルさんを笑顔で追いかけるリアムが、その母上のために動いていたことで、どれだけ冒険者が救われ出したことか。
 最初は極度のマザコンだと皆が嘲笑していた。
 笑顔が失われて、はじめてあの子は本当に母親だけのために生きていたのだと、皆が知った。
 そして、今も母親のためだけに生きている。


「、、、リアムが成人していれば、リアムなんだろうけど」

 あの六人の中でこのことを相談しやすいのは誰かというと、そうなるのだが。

「、、、そうだな」

「コレがせめて三年後だったら良かったな」

「、、、今、このことを詳細にリアムに説明したら、砦長から殺される気がする」

 全員が頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...