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2章 そして、地獄がはじまった
2-7 心の闇
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クトフが専属の料理人見習いとして砦に雇われる、ということは誰からも反対の声も聞こえなかった。
クトフが料理当番にいるときの料理が美味しいというのは周知の事実だったから、好意的に受け取られた。
安堵の声が大きかった。
素材が美味しいのにマズくできるのも一種の才能だが、そんな食事を食べたくない。
確かに冒険者は魔物討伐でお腹が空いている。が、たとえ空腹が最大の調味料だとはいえ、できれば美味しいものが食べたいのだ。
E級、F級冒険者の手伝いは続くが、管理指導役がいることによって味のバラツキが減るのは冒険者たちにとっても望ましいことだ。
ただ、他にも料理人になりたい者はいたようだ。
どうしたら料理人になれるのか、俺よりもほんの少し年上の冒険者が聞きに来た。
それは料理が上手く作れた上で、E級、F級冒険者に適切な指導ができることが最低条件になる。
クトフはD級に昇級していた。たとえ一番下に名札があったとしても。
E級、F級冒険者を実質的に抑えるのにもちょうど良いのだ。そして、クトフの今の年齢なら兄のような存在として慕うこともできるだろう。
この砦には料理人になるために来るのではないので、その席に座れる者はごく僅かだろう。
ただ料理が上手いだけでなれるわけではないのが砦での特徴なのだろう。
「先生、ここがわかりません」
「、、、クトフ、先生呼びはやめろって言っただろ」
「師匠、このページが」
料理人統括責任者必読マニュアルを持って、俺に質問しに来た。熱心なのは良いけど、読むのが早いよ。ちゃんと寝てる?メモ書きができるように、数枚の紙を渡しておいたが、あっという間に使ってしまっていた。これぐらい本気だと嬉しいが、最初に飛ばし過ぎると疲弊する。まだ見習いの立場なのだから、睡眠時間は削らないように念を押した。
「お前の師匠でもねえ。お前はつい先日まで普通に俺のことをリアムって呼んでいたじゃねえか」
「それは師匠の凄さを自覚していなかったからさ。自分がこういう状況になって、ようやくリーメルさんや師匠の凄さを理解したわけだ。呼び捨てにしていたことを許してほしい」
「先生とか師匠とかじゃなく、せめて俺も母上同様、さん呼びで良いんだが」
「さん呼びでは凄さを表していないような気がする。凄いことを伝えたい」
「兄上、すごーい」
ほら、ごらん。キョトンとしていた弟アミールがワケがわからないまま、すごーいと言い始めてしまったぞ。
「凄さは表さなくていいぞー。そもそも何の凄さだ」
「え?説明いる?七歳でこんなマニュアルを仕上げるなんて、男爵家の教育って凄いんだな。それをしっかりものにしているリアムが凄いのだろうけど」
クトフの何気ない言葉に俺の表情は曇ったらしい。クトフが俺の顔をじっと見ている。だからこそ、クトフが料理人統括責任者として相応しいんじゃないかと、俺は母上に提案していたのだ。ささやかな変化を見逃さない。
アミールまでが俺の手をギュッと握った。
「男爵家が俺にした教育なんて一つもない」
「それは、」
「砦にあった本で俺が勝手に学んだだけだ。アイツらが俺に何かしてくれたことはない」
「あー、そうか。うん、だから、お前は母上至上主義なのか」
「だから、ではない。母上は母上として最高だから、母上なんだ。クズどもなんか俺は知らん」
「そっかー、けど、今の男爵家で冒険者はお前一人なんだろ。だとしたら、将来、砦の管理者をリーメルさんから受け継ぐのはお前だ。呼び捨てにできるわけないだろ」
そうだろうか?
あのクソ兄貴どもは何も知らずにのっこのこと管理者として砦に出てきそうだ。
国や冒険者ギルド等への書類の書き方も知らず、冒険者ギルドとの交渉の仕方も知らず、業者や地域住民への対応も知らずに、何もかも知らないのに勝手に仕事が回ると信じて。
どちらの兄が管理者として出てきても、俺はこの砦を出ていこう。母上がいなくなれば、特にこの砦にも興味はない。母上が楽になるからこそ、この砦を円滑に管理できるように俺はしたいのだ。その後は責任を持たない。
もし母上が何事もなく引退して俺に砦の管理者を譲るのなら、見守ってくれる母上に心配をかけないようにせっせと管理者をするのだろうが。
「、、、だとしても、今の俺はただのE級冒険者だ。リアムでいい」
「うーん、、、わかった、今は妥協するよ、リアム」
妥協なのか。
ああ、俺も考えが甘かった。
将来どうするか。
俺が冒険者をしている間、母上がずっと冒険者をし続けてくれるわけではない。
C級以上の冒険者になれば、この砦に居続ける必要はない。俺はどこでも冒険者として生きていけるが、母上がいなくなれば、俺は生ける屍として生きるだけなのだろう。
この世に母上以上の希望があるだろうか。
母上は俺より先に亡くなるだろう。俺が病気や怪我などで先に死なない限りは。冒険者なのでその可能性は皆無とは言えないが、年齢からすると母が先に亡くなる。
俺は母上がいなくなった闇をどう生き抜いていけばいいのだろう。この世界で生きていく必要さえないような気がしてくる。
弟にぎゅううううっと手を握られていた。
まるで、俺の考えが悟られているかのように。
頭ではわかっていたことだが、心が理解していなかった。
クトフとの会話は、俺にも心の整理が必要だということを示していた。
俺は前世でも家族には恵まれていない。
名目上の父、母、兄がいただけだ。
家族なのか、と問われたら、血縁関係があるだけだと言えてしまう。
相続放棄をしたとき、彼らとの縁はようやく消えてなくなったと思えた。
親が不倫していた相手から、うちの子供にも相続権がー、といういざこざが持ち込まれたが、財産があると思っていたのだろうか。すでに放棄している旨を伝えたら、すぐに去っていった。
アイツらの借りていた家の後始末をして、俺は大学を卒業するとさっさと引っ越して、携帯番号も変えた。
相続放棄しなければ、借金も相続される。認知された子にも。
彼らが後でどうなろうと知らない。彼らは親に愛されていたのだろうから。
今世でも俺の父親はクズだった。クズに育てられた兄二人はクソだった。
まあ、誤解のないように言っておこう。
俺に対しては、である。
領民とか、ご近所とか、貴族同士の付き合いとか、その辺は知らない。
けれど、俺には関係ない。
どんなに他人にとって良い人間だろうと、俺にとってはクズだし、クソだ。
俺は壊滅的に家族運がないのかもしれない。
だから、あの役所の職員風神様がオマケとして、母上を授けてくれたのかもしれない。
神様のオマケでもなければ、俺にはあんな素晴らしい母上などいなかったに違いない。
母上がいなければ、この世界も早々に絶望していた。
退場していたに違いない。
勉強ができたとしても、仕事ができたとしても、俺は何かが欠けている。
人間としての厚みがない。
俺は無条件に愛せる人が欲しかった。無条件に愛してくれる人が欲しかった。
望んでも、望めない。
だって、そもそも無条件と考えている時点で、無条件ではないのだから。
母上の笑顔が俺に向いたとき、泣いた。
赤ん坊だから、母上は単にミルクだと思ったのだろうが、俺に対して何の思惑もない笑顔を向けてくれることが嬉しかった。
ただそれだけのことではない。
その何の思惑もない笑顔がひたすら嬉しかった。
ひたすら眩しかった。
この世の光だと思うほどに。
母上が笑顔で俺の名前を呼んでくれるだけで、俺は幸せだ。
今世の弟であるアミールにも母上の凄さを語っている。
俺の方が一緒にいる時間が長いのでお兄ちゃん子だが、母上の凄さも身に染みてわかっていることだろう。
あの家での食卓で、アミールも家族の会話に入れる。
俺だけがいない者として扱われている。
それでも、母上がいる限り、俺はこの家にいるだろう。
クトフが料理当番にいるときの料理が美味しいというのは周知の事実だったから、好意的に受け取られた。
安堵の声が大きかった。
素材が美味しいのにマズくできるのも一種の才能だが、そんな食事を食べたくない。
確かに冒険者は魔物討伐でお腹が空いている。が、たとえ空腹が最大の調味料だとはいえ、できれば美味しいものが食べたいのだ。
E級、F級冒険者の手伝いは続くが、管理指導役がいることによって味のバラツキが減るのは冒険者たちにとっても望ましいことだ。
ただ、他にも料理人になりたい者はいたようだ。
どうしたら料理人になれるのか、俺よりもほんの少し年上の冒険者が聞きに来た。
それは料理が上手く作れた上で、E級、F級冒険者に適切な指導ができることが最低条件になる。
クトフはD級に昇級していた。たとえ一番下に名札があったとしても。
E級、F級冒険者を実質的に抑えるのにもちょうど良いのだ。そして、クトフの今の年齢なら兄のような存在として慕うこともできるだろう。
この砦には料理人になるために来るのではないので、その席に座れる者はごく僅かだろう。
ただ料理が上手いだけでなれるわけではないのが砦での特徴なのだろう。
「先生、ここがわかりません」
「、、、クトフ、先生呼びはやめろって言っただろ」
「師匠、このページが」
料理人統括責任者必読マニュアルを持って、俺に質問しに来た。熱心なのは良いけど、読むのが早いよ。ちゃんと寝てる?メモ書きができるように、数枚の紙を渡しておいたが、あっという間に使ってしまっていた。これぐらい本気だと嬉しいが、最初に飛ばし過ぎると疲弊する。まだ見習いの立場なのだから、睡眠時間は削らないように念を押した。
「お前の師匠でもねえ。お前はつい先日まで普通に俺のことをリアムって呼んでいたじゃねえか」
「それは師匠の凄さを自覚していなかったからさ。自分がこういう状況になって、ようやくリーメルさんや師匠の凄さを理解したわけだ。呼び捨てにしていたことを許してほしい」
「先生とか師匠とかじゃなく、せめて俺も母上同様、さん呼びで良いんだが」
「さん呼びでは凄さを表していないような気がする。凄いことを伝えたい」
「兄上、すごーい」
ほら、ごらん。キョトンとしていた弟アミールがワケがわからないまま、すごーいと言い始めてしまったぞ。
「凄さは表さなくていいぞー。そもそも何の凄さだ」
「え?説明いる?七歳でこんなマニュアルを仕上げるなんて、男爵家の教育って凄いんだな。それをしっかりものにしているリアムが凄いのだろうけど」
クトフの何気ない言葉に俺の表情は曇ったらしい。クトフが俺の顔をじっと見ている。だからこそ、クトフが料理人統括責任者として相応しいんじゃないかと、俺は母上に提案していたのだ。ささやかな変化を見逃さない。
アミールまでが俺の手をギュッと握った。
「男爵家が俺にした教育なんて一つもない」
「それは、」
「砦にあった本で俺が勝手に学んだだけだ。アイツらが俺に何かしてくれたことはない」
「あー、そうか。うん、だから、お前は母上至上主義なのか」
「だから、ではない。母上は母上として最高だから、母上なんだ。クズどもなんか俺は知らん」
「そっかー、けど、今の男爵家で冒険者はお前一人なんだろ。だとしたら、将来、砦の管理者をリーメルさんから受け継ぐのはお前だ。呼び捨てにできるわけないだろ」
そうだろうか?
あのクソ兄貴どもは何も知らずにのっこのこと管理者として砦に出てきそうだ。
国や冒険者ギルド等への書類の書き方も知らず、冒険者ギルドとの交渉の仕方も知らず、業者や地域住民への対応も知らずに、何もかも知らないのに勝手に仕事が回ると信じて。
どちらの兄が管理者として出てきても、俺はこの砦を出ていこう。母上がいなくなれば、特にこの砦にも興味はない。母上が楽になるからこそ、この砦を円滑に管理できるように俺はしたいのだ。その後は責任を持たない。
もし母上が何事もなく引退して俺に砦の管理者を譲るのなら、見守ってくれる母上に心配をかけないようにせっせと管理者をするのだろうが。
「、、、だとしても、今の俺はただのE級冒険者だ。リアムでいい」
「うーん、、、わかった、今は妥協するよ、リアム」
妥協なのか。
ああ、俺も考えが甘かった。
将来どうするか。
俺が冒険者をしている間、母上がずっと冒険者をし続けてくれるわけではない。
C級以上の冒険者になれば、この砦に居続ける必要はない。俺はどこでも冒険者として生きていけるが、母上がいなくなれば、俺は生ける屍として生きるだけなのだろう。
この世に母上以上の希望があるだろうか。
母上は俺より先に亡くなるだろう。俺が病気や怪我などで先に死なない限りは。冒険者なのでその可能性は皆無とは言えないが、年齢からすると母が先に亡くなる。
俺は母上がいなくなった闇をどう生き抜いていけばいいのだろう。この世界で生きていく必要さえないような気がしてくる。
弟にぎゅううううっと手を握られていた。
まるで、俺の考えが悟られているかのように。
頭ではわかっていたことだが、心が理解していなかった。
クトフとの会話は、俺にも心の整理が必要だということを示していた。
俺は前世でも家族には恵まれていない。
名目上の父、母、兄がいただけだ。
家族なのか、と問われたら、血縁関係があるだけだと言えてしまう。
相続放棄をしたとき、彼らとの縁はようやく消えてなくなったと思えた。
親が不倫していた相手から、うちの子供にも相続権がー、といういざこざが持ち込まれたが、財産があると思っていたのだろうか。すでに放棄している旨を伝えたら、すぐに去っていった。
アイツらの借りていた家の後始末をして、俺は大学を卒業するとさっさと引っ越して、携帯番号も変えた。
相続放棄しなければ、借金も相続される。認知された子にも。
彼らが後でどうなろうと知らない。彼らは親に愛されていたのだろうから。
今世でも俺の父親はクズだった。クズに育てられた兄二人はクソだった。
まあ、誤解のないように言っておこう。
俺に対しては、である。
領民とか、ご近所とか、貴族同士の付き合いとか、その辺は知らない。
けれど、俺には関係ない。
どんなに他人にとって良い人間だろうと、俺にとってはクズだし、クソだ。
俺は壊滅的に家族運がないのかもしれない。
だから、あの役所の職員風神様がオマケとして、母上を授けてくれたのかもしれない。
神様のオマケでもなければ、俺にはあんな素晴らしい母上などいなかったに違いない。
母上がいなければ、この世界も早々に絶望していた。
退場していたに違いない。
勉強ができたとしても、仕事ができたとしても、俺は何かが欠けている。
人間としての厚みがない。
俺は無条件に愛せる人が欲しかった。無条件に愛してくれる人が欲しかった。
望んでも、望めない。
だって、そもそも無条件と考えている時点で、無条件ではないのだから。
母上の笑顔が俺に向いたとき、泣いた。
赤ん坊だから、母上は単にミルクだと思ったのだろうが、俺に対して何の思惑もない笑顔を向けてくれることが嬉しかった。
ただそれだけのことではない。
その何の思惑もない笑顔がひたすら嬉しかった。
ひたすら眩しかった。
この世の光だと思うほどに。
母上が笑顔で俺の名前を呼んでくれるだけで、俺は幸せだ。
今世の弟であるアミールにも母上の凄さを語っている。
俺の方が一緒にいる時間が長いのでお兄ちゃん子だが、母上の凄さも身に染みてわかっていることだろう。
あの家での食卓で、アミールも家族の会話に入れる。
俺だけがいない者として扱われている。
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