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12章 昨年とは違う夏
12-4 会議
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ギバ共和国の首都巡りの最中。
武器屋と酒屋の場所は徒歩で五分の距離だった。
この辺りは高級店が並ぶ通りだったらしい。
観光地のお土産店がずらりと並ぶ通りから一本ズレただけでも店の雰囲気が変わっていたのだが、何も知らない観光客は目的地に最短で行こうとするから横切ろうとした道である。
俺たちが武器屋の店主の案内で酒屋に行っている間に、従業員たちが急いで武器屋の荷物をまとめていっている。奥の部屋に飾られている武器は、素早く布に包み箱に入れて積み上げられていく。
出社していなかった近所に住む従業員たちにも声をかけて、総動員で作業をしていく。
酒屋に行ったら、お礼の酒は快諾された。よく連れてきてくれたと武器屋の店主が感謝されていた。
酒屋も高級店だった。店内はものすごく煌びやかで、試飲できるスペースも高級なソファが並んでいる。酒のボトルは棚に並んでいるが、この店は客が店内を歩いて酒を探すのではなく、店の者が客の要望を聞いて、座っている客に持って行くのである。
荷物としては酒屋の方が多かった。地下に酒樽が非常に多く並んでいる。
俺の好みがエルク教国の酒だと知った酒屋の店主は、その辺りの酒をククーが説明する俺の好みを聞きながらお礼の酒を追加してきた。
酒屋としては大量の樽の酒を馬車で運ぶことができずに、大部分は廃棄するしかないのかと落ち込んでいたようだ。地下とはいえ、最凶級ダンジョンが発生してしまったら無事とは思えない。だが、高級酒を無料で振舞うには惜しいのだ。
偶然、転送ができる冒険者に会える可能性はかなり低い。
冒険者ギルドに転送ができる冒険者を今から依頼しても間に合わないだろう。
役人である魔術師は貴重な文書を他都市に転送するために奮闘中であるため、住民が依頼することはできない。
一か月というのは多少のゆとりがあるように見えて、思ったよりも短い。
武器屋と酒屋の荷物の転送が無事に終了し、酒のお礼も大量に手に入れ、ほこほこ顔で冒険者ギルドに戻ってみると。
「レン、楽しそうで何よりだ」
玄関でギルド長が出迎えてくれた。怒りの感情をできるだけ表に出さないようにしているが、ダダ漏れだ。
「意外と来るのが早かったな」
「チッ、こうなるのがわかっていたのか。大会議室に来ている」
今、ここも俺のダンジョンと化しているからね。彼らが移動しているのもこちらに筒抜けだ。
俺とククーは冒険者ギルドの大会議室に連れて行かれる。ここの冒険者ギルドの建物はさすがに本部だけあって広いし、豪華な造りである。
大会議室にはギバ共和国の大統領、多くの長官が座っている。後ろには護衛も大勢立っていて壮観である。
大統領が立ち上がった。他の長官たちも立ち上がる。
「アスア王国の英雄よ、よくぞ我が国に参られた。今回のことは深く感謝する」
「今の俺は神聖国グルシアの冒険者レンだ。あなた方の英断を歓迎する」
大統領と握手した。
本当なら、彼らがここまで来ることは滅多にないだろう。普通なら自分たちのところに呼びつける。
俺たちはアスア王国の時間で午前中から三時くらいまで遊んでいた。
こちらはすでに夜である。
だが、通常業務から避難までやらなければならないことが山積みの者たちが、予定も入っていないのに当日中に動いただけでも、俺に質問をする機会を逃したくない気持ちが伺える。
俺としては接触してこなければこないままでも良かったのだが。
ククーは表情を消している。
基本的に大神官長のときもククーはそばに立っているだけだ。表立って発言しない。
俺は冒険者ギルドのギルド長の隣に座った。
「早速だが、いろいろと聞きたいことがある。レンが答えられない質問は答えなくてもいい。よろしく頼む」
「夕方には帰りたいので、手短に頼む」
そういう言葉が火に油を注ぐって?ククーの視線が言っている。でも、ヴィンセントには門限を決められてしまっているからなー。心配かけるのも何だし、あまり破りたくない。夕食は角ウサギと王子で作れてしまうだろうけど。
非常事態に陥っている彼らは帰りたくても帰れない。その感情を俺に向けるのはお門違いだが。
夕方という発言で、俺が神聖国グルシアの時間で言っていることを気づいた者は気づいている。
さすがは国の上の人間たち。何にも表情には出さない。
隣のギルド長は顔に出ているけど。この人、元からこうなのかな?組織のトップの態度としてはどうかな、と思うけど、血気盛んな冒険者ギルドのトップと見るならば、こういう人の方が好感が持てるだろう。
「そうか、うん、わかった。まずは我々の首都機能を移転させる先に、複数の候補が上がっている。一応三つには絞っているが、他にもどこか安全で良い場所があればご教授願いたい」
テーブルの上に事務官が大きな地図を広げる。
資料もそれぞれに配っているのだが。
「三つの都市というのが」
説明を始めようとした大統領を手で制止する。
「今のギバ共和国で首都機能移転で安全なのは、ギバ共和国前身のギバ王国の王都一択しかない」
「しかし、、、今の旧王都はただの観光地だ。レン、なぜ一択かという説明を頼めるか」
大統領が候補にあげようとした都市の三つに旧王都は入っていない。
「旧王都は城塞都市だ。ギバ共和国の他の都市よりも守りに強い。そして、まだ結界が生きている。むやみやたらに最凶級ダンジョンが発生しないのが選択する理由だ。多少不便な土地であろうとも、長期的に考えると何度も首都機能移転をするよりは、一回で済ませた方が良い。あそこは観光客が激減している今、ある程度の土地や建物が空いている」
「その話を聞くと、他の都市でも最凶級ダンジョンが発生すると聞こえるのだが?」
「発生するだろうな。今後、大国だろうと小国だろうと関係なく。神聖国グルシアは国自体に強固な結界がはってあるが、そういう国は少ない。せいぜい都市や街単位だろう。話を戻すが、ギバ共和国で耐えられる結界があるのは旧王都だけだ」
「いや、まだ話を戻さないでほしいのだが、今後、ギバ共和国で最凶級ダンジョンが他の都市で発生する場合、教えてもらえるか」
大統領が俺に問う。
問うてはいるが、彼らにとっては俺の返答は決まっていたのだろう。でも。
「なぜ?」
「え、うん、今回の首都での発生を教えてもらえたので、できれば今後も同じ付き合いをしてもらえればと」
「思い違いをしてもらっては困るな。俺はギバ共和国には何のつながりもない。今回、俺が冒険者ギルドのビスタ・リングランドに助言したのは、冒険者ギルド本部がまだこの地にあり、神聖国グルシアへの本部移転には時間がかかりそうだったからだ。ここが聖教国エルバノーンの王位継承まで持つと思っていたが、俺の読みが甘かったからこそ教えたのだ」
俺の言葉の後、長い沈黙が支配した。
「つまり今回の件は、我々ギバ共和国ではなく、冒険者ギルド本部に恩を売るためと?」
「今回、神聖国グルシアはギバ共和国と冒険者ギルド本部に恩を売ったのだろう。けれど、俺自身は冒険者ギルド本部が問題なく動いて、シアリーの街のビスタ・リングランドを呼び戻さなければそれで良い。今、俺はアスア王国の英雄ではない。自分が望むように動く」
「レンの望みとは」
俺は一つ間を置いてから答える。
「俺はアスア王国の英雄時代、国王に自分の大切な者たちをすべて遠ざけられてきた。英雄のギフトを持っていた当時は甘んじていたが、英雄ではない今、俺は友人を大切にする。ビスタもいつかは本部に帰ることになるだろう。けれど、しばらくは、、、数年ぐらいは俺も夢を見ていてもいいだろう」
自分勝手な望みだ。理解を得られるとは思っていない。
友人と共にいられる時間は非常に短いだろうが、それでも長く同じ街にいられるなら。
けれど、この俺の発言で、何かここにいる人間の感情が緩んだ気がする。
「たとえ、それが多少残念なところのある人間であっても」
「レン、こんな場でオチを作るな。さすがにビスタが可哀想だ」
横にいるギルド長が俺に言った。
可哀想?
ククーまで頷いている。
武器屋と酒屋の場所は徒歩で五分の距離だった。
この辺りは高級店が並ぶ通りだったらしい。
観光地のお土産店がずらりと並ぶ通りから一本ズレただけでも店の雰囲気が変わっていたのだが、何も知らない観光客は目的地に最短で行こうとするから横切ろうとした道である。
俺たちが武器屋の店主の案内で酒屋に行っている間に、従業員たちが急いで武器屋の荷物をまとめていっている。奥の部屋に飾られている武器は、素早く布に包み箱に入れて積み上げられていく。
出社していなかった近所に住む従業員たちにも声をかけて、総動員で作業をしていく。
酒屋に行ったら、お礼の酒は快諾された。よく連れてきてくれたと武器屋の店主が感謝されていた。
酒屋も高級店だった。店内はものすごく煌びやかで、試飲できるスペースも高級なソファが並んでいる。酒のボトルは棚に並んでいるが、この店は客が店内を歩いて酒を探すのではなく、店の者が客の要望を聞いて、座っている客に持って行くのである。
荷物としては酒屋の方が多かった。地下に酒樽が非常に多く並んでいる。
俺の好みがエルク教国の酒だと知った酒屋の店主は、その辺りの酒をククーが説明する俺の好みを聞きながらお礼の酒を追加してきた。
酒屋としては大量の樽の酒を馬車で運ぶことができずに、大部分は廃棄するしかないのかと落ち込んでいたようだ。地下とはいえ、最凶級ダンジョンが発生してしまったら無事とは思えない。だが、高級酒を無料で振舞うには惜しいのだ。
偶然、転送ができる冒険者に会える可能性はかなり低い。
冒険者ギルドに転送ができる冒険者を今から依頼しても間に合わないだろう。
役人である魔術師は貴重な文書を他都市に転送するために奮闘中であるため、住民が依頼することはできない。
一か月というのは多少のゆとりがあるように見えて、思ったよりも短い。
武器屋と酒屋の荷物の転送が無事に終了し、酒のお礼も大量に手に入れ、ほこほこ顔で冒険者ギルドに戻ってみると。
「レン、楽しそうで何よりだ」
玄関でギルド長が出迎えてくれた。怒りの感情をできるだけ表に出さないようにしているが、ダダ漏れだ。
「意外と来るのが早かったな」
「チッ、こうなるのがわかっていたのか。大会議室に来ている」
今、ここも俺のダンジョンと化しているからね。彼らが移動しているのもこちらに筒抜けだ。
俺とククーは冒険者ギルドの大会議室に連れて行かれる。ここの冒険者ギルドの建物はさすがに本部だけあって広いし、豪華な造りである。
大会議室にはギバ共和国の大統領、多くの長官が座っている。後ろには護衛も大勢立っていて壮観である。
大統領が立ち上がった。他の長官たちも立ち上がる。
「アスア王国の英雄よ、よくぞ我が国に参られた。今回のことは深く感謝する」
「今の俺は神聖国グルシアの冒険者レンだ。あなた方の英断を歓迎する」
大統領と握手した。
本当なら、彼らがここまで来ることは滅多にないだろう。普通なら自分たちのところに呼びつける。
俺たちはアスア王国の時間で午前中から三時くらいまで遊んでいた。
こちらはすでに夜である。
だが、通常業務から避難までやらなければならないことが山積みの者たちが、予定も入っていないのに当日中に動いただけでも、俺に質問をする機会を逃したくない気持ちが伺える。
俺としては接触してこなければこないままでも良かったのだが。
ククーは表情を消している。
基本的に大神官長のときもククーはそばに立っているだけだ。表立って発言しない。
俺は冒険者ギルドのギルド長の隣に座った。
「早速だが、いろいろと聞きたいことがある。レンが答えられない質問は答えなくてもいい。よろしく頼む」
「夕方には帰りたいので、手短に頼む」
そういう言葉が火に油を注ぐって?ククーの視線が言っている。でも、ヴィンセントには門限を決められてしまっているからなー。心配かけるのも何だし、あまり破りたくない。夕食は角ウサギと王子で作れてしまうだろうけど。
非常事態に陥っている彼らは帰りたくても帰れない。その感情を俺に向けるのはお門違いだが。
夕方という発言で、俺が神聖国グルシアの時間で言っていることを気づいた者は気づいている。
さすがは国の上の人間たち。何にも表情には出さない。
隣のギルド長は顔に出ているけど。この人、元からこうなのかな?組織のトップの態度としてはどうかな、と思うけど、血気盛んな冒険者ギルドのトップと見るならば、こういう人の方が好感が持てるだろう。
「そうか、うん、わかった。まずは我々の首都機能を移転させる先に、複数の候補が上がっている。一応三つには絞っているが、他にもどこか安全で良い場所があればご教授願いたい」
テーブルの上に事務官が大きな地図を広げる。
資料もそれぞれに配っているのだが。
「三つの都市というのが」
説明を始めようとした大統領を手で制止する。
「今のギバ共和国で首都機能移転で安全なのは、ギバ共和国前身のギバ王国の王都一択しかない」
「しかし、、、今の旧王都はただの観光地だ。レン、なぜ一択かという説明を頼めるか」
大統領が候補にあげようとした都市の三つに旧王都は入っていない。
「旧王都は城塞都市だ。ギバ共和国の他の都市よりも守りに強い。そして、まだ結界が生きている。むやみやたらに最凶級ダンジョンが発生しないのが選択する理由だ。多少不便な土地であろうとも、長期的に考えると何度も首都機能移転をするよりは、一回で済ませた方が良い。あそこは観光客が激減している今、ある程度の土地や建物が空いている」
「その話を聞くと、他の都市でも最凶級ダンジョンが発生すると聞こえるのだが?」
「発生するだろうな。今後、大国だろうと小国だろうと関係なく。神聖国グルシアは国自体に強固な結界がはってあるが、そういう国は少ない。せいぜい都市や街単位だろう。話を戻すが、ギバ共和国で耐えられる結界があるのは旧王都だけだ」
「いや、まだ話を戻さないでほしいのだが、今後、ギバ共和国で最凶級ダンジョンが他の都市で発生する場合、教えてもらえるか」
大統領が俺に問う。
問うてはいるが、彼らにとっては俺の返答は決まっていたのだろう。でも。
「なぜ?」
「え、うん、今回の首都での発生を教えてもらえたので、できれば今後も同じ付き合いをしてもらえればと」
「思い違いをしてもらっては困るな。俺はギバ共和国には何のつながりもない。今回、俺が冒険者ギルドのビスタ・リングランドに助言したのは、冒険者ギルド本部がまだこの地にあり、神聖国グルシアへの本部移転には時間がかかりそうだったからだ。ここが聖教国エルバノーンの王位継承まで持つと思っていたが、俺の読みが甘かったからこそ教えたのだ」
俺の言葉の後、長い沈黙が支配した。
「つまり今回の件は、我々ギバ共和国ではなく、冒険者ギルド本部に恩を売るためと?」
「今回、神聖国グルシアはギバ共和国と冒険者ギルド本部に恩を売ったのだろう。けれど、俺自身は冒険者ギルド本部が問題なく動いて、シアリーの街のビスタ・リングランドを呼び戻さなければそれで良い。今、俺はアスア王国の英雄ではない。自分が望むように動く」
「レンの望みとは」
俺は一つ間を置いてから答える。
「俺はアスア王国の英雄時代、国王に自分の大切な者たちをすべて遠ざけられてきた。英雄のギフトを持っていた当時は甘んじていたが、英雄ではない今、俺は友人を大切にする。ビスタもいつかは本部に帰ることになるだろう。けれど、しばらくは、、、数年ぐらいは俺も夢を見ていてもいいだろう」
自分勝手な望みだ。理解を得られるとは思っていない。
友人と共にいられる時間は非常に短いだろうが、それでも長く同じ街にいられるなら。
けれど、この俺の発言で、何かここにいる人間の感情が緩んだ気がする。
「たとえ、それが多少残念なところのある人間であっても」
「レン、こんな場でオチを作るな。さすがにビスタが可哀想だ」
横にいるギルド長が俺に言った。
可哀想?
ククーまで頷いている。
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