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8章 初夏の風が吹く
8-8 すべてが順調 ※クッキィ視点
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◆クッキィ視点◆
涼しい風が頬を撫でた。
隣国と言えどもここまで気候が違うのか。今までゆっくりとした日程で往復していたから気にもしていなかった。気の使える従者たちが気温にあった服装をこまめに準備していてくれていたのだろう。
今回、かなりの強行軍とも言える短い日程で神聖国グルシアに戻るのは、アスア王国に大発生しているダンジョンと溢れる魔物が怖いため、ということにしている。付け加えて、聖都に待たせている協力者へのお金が一日ごとにかなりの額、飛んでいくとも説明している。
お金の方が本音だろ、という視線を新英雄の仲間であるキザスは向ける。騎士団の副団長は熱血バカなのか、魔物が不安なら私がいるから大丈夫ですよ、という根拠のない自信を見せてくれた。副団長がいるなら大丈夫だったら、アスア王国の民は皆、大丈夫なはずだろう。ねえ?
何台もの馬車と馬に乗る騎士たちが連なる。
行きも急いで来たが、帰りもそれ以上のスピードだ。私も行きの馬車の中は、情報収集や分析に明け暮れていた。
御者や従者、馬たちには休憩も最小限で申し訳ないと思うが、今は非常事態だ。無事に終われば、それぞれに休暇を与えようと思う。
違う馬車に乗っているが、英雄の収納鞄は手に入れた。
あとは償い草を取り出すだけ。
冒険者レンの協力があれば、それももうすぐ。
聖都もあと数時間で着く。
連絡が来たときは、返事する声も出なくなった。
魔道具による通信だった。
連絡してきた聖都の薬師ギルドの職員も慌てていた。
薬師ギルドのギルド長が呪いをかけられ、意識がなく、すでに手足が黒くなり壊死しており、徐々に進行しているということ。
ギルド長がいるのがまだ聖都で助かった。
そこにはかなりの数の神官がいる。
大教会に助けを求めろと。とにかく呪いの進行を止め、命をつなげと指示した。
実行犯はすぐに捕まった。
冒険者ギルドにもどこにも所属していない魔術師だった。
発見されたとき、彼はすでに支離滅裂な言葉を発していたそうだ。
呪いがなくなったとしても、壊死した部分は戻らない。そのままでは生きてはいけまい。
ギルド長が死ぬ?
そう思っただけで自分の呼吸がしづらくなった。
あの人にはまだ恩も返し切れていない。
従者がすぐに水を用意して差し出した。
一気に飲み干して、両頬を手で打つ。
今、ここでパニックになってすべてを投げ捨てて聖都に向かっても何も役に立たない。
ギルド長のために何かできることはないかと焦った頭で考える。
ギルド長を助けるために、すぐに思い出したのが償い草。病気だろうと怪我だろうと何でも治す。欠損した部分でさえも生きていれば元に戻る奇跡の薬草。
思いついたら走っていた。従者にとめられ、馬車に乗せられたが。
私は償い草を指名依頼するために冒険者ギルドに向かった。
うとうとしていたようだ。
いつのまにかひざ掛けがしてあった。
従者の一人が気づいて私に言った。
「この馬車はもう聖都の門の列に並んでいます。協力者もすでに旦那様の屋敷に着いているそうです」
「ああ、ありがとう」
従者にも冒険者レンのことは協力者と呼ぶように言ってある。
彼のことはアスア王国に漏れてはならない。レンというキッカケすら与えてはならない。
神聖国グルシアのシアリーの街の冒険者ザット・ノーレン、通称レン。最初、本名を調べさせたとき何の冗談かと思った。別人かもしれないが、本人だったら薬草を見極める能力があるのは当然だろう。彼の納品するすべての薬草を仕入れた。すべての薬草が高品質だった。ついつい冒険者ギルドに色を付けて支払ってしまった。
私がなぜ冒険者ギルドに走ったかというと、英雄を頼ったのだ。
もしも、彼なら。困った人を見捨てないかと。
彼が冒険者レンだと紹介されたとき、ガッカリした自分がいた。
彼は隣国の英雄ではない。自分の知っている姿とはかけ離れている。
やはり、彼は私の依頼を受けなかった。それはそうだ。英雄ではないのだから。
というか、私は馬鹿だった。
英雄はギフトを新英雄に譲ったとされている。それは英雄が生きていたのなら、英雄はギフトを持っていないことを意味する。冒険者になっているとはいえ最凶級ダンジョンに潜ることなどできないだろう。
レンの情報を聞いて、私は確信する。
本人限定の収納鞄の中身を他人が取り出せた試しはない。様々な研究がなされているが、いまだ成功例はない。それを知っていてもなお本人限定の収納鞄を持つということは、そういうことなのである。
彼は英雄ザット・ノーレンだ。
姿形は違えど、どうしてあそこまで違うのかわからないけど、もう一人同席していた冒険者のビスタが言っていた言葉が思い出される。
奪ったものなら犯罪だ、と。
英雄は新英雄にギフトも地位も何もかもを奪われたのだ。
考えているフリをしながらも聞こえていた。
それでいながら、レンは冷静だった。正攻法の方が早いと。
「さて、これからが本番だ」
馬車が屋敷に着いた。
屋敷の者たちが玄関で迎える。
「旦那様、協力者の方がお待ちです」
私は執事長に頷くと、騎士団の隊員たちにはすぐに軽食を出させる。
「では、一緒にこちらへ」
本当はお茶でも飲んで一服してからというのが礼儀かもしれないが、キザスと副団長を案内する。
執事長が部屋を開けると、広い部屋に大きなテーブルで静かに白いマントを目深に被った者が一人だけ座っている。執事長は外に出て、扉を閉めた。
「あちらが、」
国王から掻い摘んで説明を受けたのだろう。もしかしたら、キザスの期待の態度から、収納鞄を開けるのは魔族だとキザスに伝えたかもしれない。
「私はアスア王国の英雄ロイの仲間のキザスです。以後お見知りおきを」
「私はアスア王国騎士団副団長です。今回は護衛として参りました。よろしくお願いします」
二人が深々と礼をして挨拶したにもかかわらず、彼は立ち上がりもしないし、頷きさえも返さない。
「あっ、申し訳ございません。お二人とも。会話を報酬の金額に入れるのを失念しておりました。申し訳ございませんが、私の顔に免じてお許しください」
「どこまでも金か」
キザスは私にしか聞こえないような小さい声で呟いた。本人限定の収納鞄の中身を取り出すところは見たいのだろう。協力者の機嫌を損ねてまで主張しなかった。
「キザス様、収納鞄をテーブルにお出しください」
キザスは英雄の収納鞄をテーブルに置いた。
「どこで見ていてもかまわないのか」
キザスは私に聞く。新英雄よりは頭の出来は良いようだ。
「作業の邪魔にならなければ、ご自由にとのことです」
レンは収納鞄を開けると、すぐに中の物をテーブルに出していく。
「ぅえっ?」
キザスが変な声を上げた。そりゃそうか。何かの魔術も魔法も使っていないように見える。
「はっ、もしや無効化のギフト?いや、空間に関する能力か?」
勝手に何かを考えついている。たぶんキザスが考えているすべてはハズレだと思うけど。
レンは黙々と中の物を取り出していく。しばらくすると、私を見た。
「償い草、」
私は償い草を一本手にした。レンはもう一本をテーブルに置く。普通の人から見たら、これもただの草にしか見えない。
が、これで救われる。
ギルド長は助かる。
一刻も早く駆け出したい気持ちに駆られたが、さすがにこの場を放置していくのも躊躇われる。だからといって部屋の外にいる執事長に持って行くように指示するのも、何かあったときに怒りを抑えきれなくなるだろう。こういうときは自分で行動した方が良い。
生きていれば、間に合うのだ。何かあればすぐに連絡が来るようになっている。大丈夫だ。
広いテーブルだったのだが、収納鞄の中身を床に置き始めた。
それを見て、キザスは結局何もわからなかったのか、自分が持って来た別の収納鞄にテーブルの物を入れる。
テーブルの上に紙を置くとペンが誰も持っていないのに動き始める。キザスが内容物をメモしているらしい。
副団長は私の隣でじっとレンの動きを見ている。怪しい行動をしないか見張るように言われているのだろう。
「白い髪、紫の目、確かに魔族」
副団長が小さい声で呟いた。ほんの少しマントから覗く魔族の象徴。
「名も聞いても?」
私は副団長に首を横に振る。
「そうか、残念だ」
本当ならアスア王国の全国民がこの世で一番感謝しなければならない人物だと思うけど。
涼しい風が頬を撫でた。
隣国と言えどもここまで気候が違うのか。今までゆっくりとした日程で往復していたから気にもしていなかった。気の使える従者たちが気温にあった服装をこまめに準備していてくれていたのだろう。
今回、かなりの強行軍とも言える短い日程で神聖国グルシアに戻るのは、アスア王国に大発生しているダンジョンと溢れる魔物が怖いため、ということにしている。付け加えて、聖都に待たせている協力者へのお金が一日ごとにかなりの額、飛んでいくとも説明している。
お金の方が本音だろ、という視線を新英雄の仲間であるキザスは向ける。騎士団の副団長は熱血バカなのか、魔物が不安なら私がいるから大丈夫ですよ、という根拠のない自信を見せてくれた。副団長がいるなら大丈夫だったら、アスア王国の民は皆、大丈夫なはずだろう。ねえ?
何台もの馬車と馬に乗る騎士たちが連なる。
行きも急いで来たが、帰りもそれ以上のスピードだ。私も行きの馬車の中は、情報収集や分析に明け暮れていた。
御者や従者、馬たちには休憩も最小限で申し訳ないと思うが、今は非常事態だ。無事に終われば、それぞれに休暇を与えようと思う。
違う馬車に乗っているが、英雄の収納鞄は手に入れた。
あとは償い草を取り出すだけ。
冒険者レンの協力があれば、それももうすぐ。
聖都もあと数時間で着く。
連絡が来たときは、返事する声も出なくなった。
魔道具による通信だった。
連絡してきた聖都の薬師ギルドの職員も慌てていた。
薬師ギルドのギルド長が呪いをかけられ、意識がなく、すでに手足が黒くなり壊死しており、徐々に進行しているということ。
ギルド長がいるのがまだ聖都で助かった。
そこにはかなりの数の神官がいる。
大教会に助けを求めろと。とにかく呪いの進行を止め、命をつなげと指示した。
実行犯はすぐに捕まった。
冒険者ギルドにもどこにも所属していない魔術師だった。
発見されたとき、彼はすでに支離滅裂な言葉を発していたそうだ。
呪いがなくなったとしても、壊死した部分は戻らない。そのままでは生きてはいけまい。
ギルド長が死ぬ?
そう思っただけで自分の呼吸がしづらくなった。
あの人にはまだ恩も返し切れていない。
従者がすぐに水を用意して差し出した。
一気に飲み干して、両頬を手で打つ。
今、ここでパニックになってすべてを投げ捨てて聖都に向かっても何も役に立たない。
ギルド長のために何かできることはないかと焦った頭で考える。
ギルド長を助けるために、すぐに思い出したのが償い草。病気だろうと怪我だろうと何でも治す。欠損した部分でさえも生きていれば元に戻る奇跡の薬草。
思いついたら走っていた。従者にとめられ、馬車に乗せられたが。
私は償い草を指名依頼するために冒険者ギルドに向かった。
うとうとしていたようだ。
いつのまにかひざ掛けがしてあった。
従者の一人が気づいて私に言った。
「この馬車はもう聖都の門の列に並んでいます。協力者もすでに旦那様の屋敷に着いているそうです」
「ああ、ありがとう」
従者にも冒険者レンのことは協力者と呼ぶように言ってある。
彼のことはアスア王国に漏れてはならない。レンというキッカケすら与えてはならない。
神聖国グルシアのシアリーの街の冒険者ザット・ノーレン、通称レン。最初、本名を調べさせたとき何の冗談かと思った。別人かもしれないが、本人だったら薬草を見極める能力があるのは当然だろう。彼の納品するすべての薬草を仕入れた。すべての薬草が高品質だった。ついつい冒険者ギルドに色を付けて支払ってしまった。
私がなぜ冒険者ギルドに走ったかというと、英雄を頼ったのだ。
もしも、彼なら。困った人を見捨てないかと。
彼が冒険者レンだと紹介されたとき、ガッカリした自分がいた。
彼は隣国の英雄ではない。自分の知っている姿とはかけ離れている。
やはり、彼は私の依頼を受けなかった。それはそうだ。英雄ではないのだから。
というか、私は馬鹿だった。
英雄はギフトを新英雄に譲ったとされている。それは英雄が生きていたのなら、英雄はギフトを持っていないことを意味する。冒険者になっているとはいえ最凶級ダンジョンに潜ることなどできないだろう。
レンの情報を聞いて、私は確信する。
本人限定の収納鞄の中身を他人が取り出せた試しはない。様々な研究がなされているが、いまだ成功例はない。それを知っていてもなお本人限定の収納鞄を持つということは、そういうことなのである。
彼は英雄ザット・ノーレンだ。
姿形は違えど、どうしてあそこまで違うのかわからないけど、もう一人同席していた冒険者のビスタが言っていた言葉が思い出される。
奪ったものなら犯罪だ、と。
英雄は新英雄にギフトも地位も何もかもを奪われたのだ。
考えているフリをしながらも聞こえていた。
それでいながら、レンは冷静だった。正攻法の方が早いと。
「さて、これからが本番だ」
馬車が屋敷に着いた。
屋敷の者たちが玄関で迎える。
「旦那様、協力者の方がお待ちです」
私は執事長に頷くと、騎士団の隊員たちにはすぐに軽食を出させる。
「では、一緒にこちらへ」
本当はお茶でも飲んで一服してからというのが礼儀かもしれないが、キザスと副団長を案内する。
執事長が部屋を開けると、広い部屋に大きなテーブルで静かに白いマントを目深に被った者が一人だけ座っている。執事長は外に出て、扉を閉めた。
「あちらが、」
国王から掻い摘んで説明を受けたのだろう。もしかしたら、キザスの期待の態度から、収納鞄を開けるのは魔族だとキザスに伝えたかもしれない。
「私はアスア王国の英雄ロイの仲間のキザスです。以後お見知りおきを」
「私はアスア王国騎士団副団長です。今回は護衛として参りました。よろしくお願いします」
二人が深々と礼をして挨拶したにもかかわらず、彼は立ち上がりもしないし、頷きさえも返さない。
「あっ、申し訳ございません。お二人とも。会話を報酬の金額に入れるのを失念しておりました。申し訳ございませんが、私の顔に免じてお許しください」
「どこまでも金か」
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「キザス様、収納鞄をテーブルにお出しください」
キザスは英雄の収納鞄をテーブルに置いた。
「どこで見ていてもかまわないのか」
キザスは私に聞く。新英雄よりは頭の出来は良いようだ。
「作業の邪魔にならなければ、ご自由にとのことです」
レンは収納鞄を開けると、すぐに中の物をテーブルに出していく。
「ぅえっ?」
キザスが変な声を上げた。そりゃそうか。何かの魔術も魔法も使っていないように見える。
「はっ、もしや無効化のギフト?いや、空間に関する能力か?」
勝手に何かを考えついている。たぶんキザスが考えているすべてはハズレだと思うけど。
レンは黙々と中の物を取り出していく。しばらくすると、私を見た。
「償い草、」
私は償い草を一本手にした。レンはもう一本をテーブルに置く。普通の人から見たら、これもただの草にしか見えない。
が、これで救われる。
ギルド長は助かる。
一刻も早く駆け出したい気持ちに駆られたが、さすがにこの場を放置していくのも躊躇われる。だからといって部屋の外にいる執事長に持って行くように指示するのも、何かあったときに怒りを抑えきれなくなるだろう。こういうときは自分で行動した方が良い。
生きていれば、間に合うのだ。何かあればすぐに連絡が来るようになっている。大丈夫だ。
広いテーブルだったのだが、収納鞄の中身を床に置き始めた。
それを見て、キザスは結局何もわからなかったのか、自分が持って来た別の収納鞄にテーブルの物を入れる。
テーブルの上に紙を置くとペンが誰も持っていないのに動き始める。キザスが内容物をメモしているらしい。
副団長は私の隣でじっとレンの動きを見ている。怪しい行動をしないか見張るように言われているのだろう。
「白い髪、紫の目、確かに魔族」
副団長が小さい声で呟いた。ほんの少しマントから覗く魔族の象徴。
「名も聞いても?」
私は副団長に首を横に振る。
「そうか、残念だ」
本当ならアスア王国の全国民がこの世で一番感謝しなければならない人物だと思うけど。
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