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【番外編1】千堂隼の恋
恋の終わりと始まり-3
しおりを挟む真君とは、メッセージの交換を続けていた。
直接勉強を見てあげられなくなったから、電話やメッセージでだけでもと、俺が彩さんに頼んだ。
『お母さんに内緒で会えませんか?』
真君からメッセージが届いた時、迷った。
彩さんはいい顔をしないだろう。
『お母さんの誕生日プレゼントを買いたいから』
誕生日?
真君が言うには、一か月後は彩さんの三十九歳の誕生日で、プレゼントを買いに行きたいけれど、彩さんには内緒にして驚かせたいということだった。
俺は、彩さんに、テスト前に真君の勉強を見てあげる、という口実を告げて、許可をもらった。
俺は真君と亮君を迎えに行き、俺の家ではなく、近くのショッピングモールに向かった。
二人は貯めていたお小遣い、三千四百円を握り締めていた。
「ねぇ、千堂さん」
とりあえず一通りの店を見てみよう、と歩いている時に、亮君が言った。
「釧路ってどうやったら行けるの? 飛行機? 電車?」
釧路……って――。
「亮! もうその話はしちゃダメだって言ったろ」と、真君が強い口調で言った。
「だって! 智くんに――」
「亮!」
「ストップ!」
一触即発の二人の間に割って入り、二人に深呼吸をするように言った。
それから、二人を俺の家に連れて行った。昼飯の弁当と、お菓子とジュースを買って。
「釧路って、溝口さんのところに行きたいの?」
「うん!」
亮君はポテトチップスを頬張りながら、言った。真君は眉間に皺を寄せて、コーラを飲んでいる。
「亮君が行きたいの?」
「ううん! お母さん!」
「お母さんが行きたいって言ったの?」
「ううん! でも、行きたいって」
俺が首を傾げていると、真君が口を開いた。
「溝口さんが転勤になったことは聞きました。亮が遊びに行きたいって言ったら、もう会えないって」
「理由は聞いた?」
「結婚出来ないからって!」
亮君の口から、ポテトチップスの破片がこぼれる。
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真君に言われて、亮君が口を押えた。
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胸が痛んだ。少しだけ。
「どうして結婚出来ないの?」と、亮君が聞いた。
「お母さんが溝口さんと結婚したら、溝口さんが俺たちのお父さんになるんだぞ」
「いいじゃん!」
「また、転校するんだぞ。名字も変わるし」
真君の言葉に、亮君がしゅんと俯いた。
真君は、両親が離婚した経緯を知っているのだろうか。
父親が母親を怒鳴りつけるのを、見たことがあるのだろうか。
もし、あるのなら、彼にとって母親の再婚は、亮君ほど手放しで喜べることではないだろう。相手が誰であっても。
亮君は『智くん』と呼んでも、真君がそう呼ばないのは、彼なりの抵抗なのかもしれない。
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