最後の男

深冬 芽以

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【番外編1】千堂隼の恋

苦悩-7

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「で、何食べます?」

「んーーー……」

 ハッキリ言って、飯どころじゃない。

 やっぱり、気になる。



 だが、どうする? 



 結局、今日は中華料理になった。

 会社近くの、ビルの地下。

「担々麺食いてーけど、熱いよなぁ」と、風間がメニューを見て言った。

 数か月前、彩さんを食事に誘った時、中華料理と韓国料理で迷って、韓国料理の店に行ったことを思い出した。

 あの時は、まだ望みがあると本気で思っていた。

「堀藤さん?」



 そうそう、彩さんが俺を見てくれるって――。

 ん!?



「風間さん」

 振り返ると、彩さんが立っていた。若い男も一緒に。堺さん、だろう。

 谷が言ったように、三十そこそこに見えた。百九十センチはありそうな長身で、胸板が厚く、ワイシャツのボタンがようやく引っ掛かっているように見えた。髪は刈り上げている。

TSSトータル システム サービスの堺さんです」と、彩さんが俺たちに彼を紹介した。

 俺と風間は立ち上がり、挨拶をした。

「お世話になっております。営業一課の千堂です」

 営業マンの悲しいさがで、どんな場所でもとりあえず名刺を渡してしまう。

 風間も同様に、名刺を差し出した。

「風間です」

「堺です。お世話になっております」



 主任、か。



 俺は瞬時に名刺を見て、内ポケットに入れた。

「ご一緒しませんか?」

 俺は、言った。

 どうせ、気になるんだ。

 彩さんと二人きりにさせるより、目の前にいてくれた方が安心だ。

 彩さんが、訝し気に俺を見ている。

 この前、彩さんに対して挑戦的な態度を取ったのは俺だから、仕方がない。

「ありがとうございます」

 堺さんは迷うことなく、言った。

 邪推だったか。

 仮に堺さんが彩さんを好きなら、適当な理由をつけて断るだろう。

 風間が俺の隣に移動して、彩さんと堺さんが座った。俺の正面に、堺さん。

 とりあえず注文をしようと、俺たちはメニューを見た。

 韓国料理の店で、彩さんが優柔不断だと言っていたことを思い出した。メニュー越しに様子を窺ってみると、今日も迷っているよう。

「お決まりですか?」

 店員が聞いた。

「俺、あんかけ焼きそばにします」と、風間が言った。

「俺は麻婆豆腐のランチセットで」

「堀藤さん、今日はどれで迷ってるんですか?」と、俺は聞いた。

 彩さんがメニューから顔を上げる。

 この前のことがあってから、仕事以外では話していなかった。

「早く決めないと、昼休み終わっちゃいますよ」

 わざと、意地悪な言い方をした。

「酢豚と蟹玉チャーハン」

 彼女もまた、少し不機嫌そうに答えた。

 彩さんは彩さんで、俺に怒っているのかもしれない。

 当然か。

 本気じゃなかったとはいえ、溝口さんの後釜に座ろうとしたのだから。

「酢豚のランチセットと蟹玉チャーハンと小籠包六個のを」と、俺は店員に言った。

 店員は注文を復唱し、メニューを持って行った。

「課長と堀藤さんて、やっぱ付き合ってるんですか?」
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