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20 最後の男
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しおりを挟む俺は箸を置いた。ちゃんと彩の目を見て言うべきだが、その勇気はなかった。
「好きだ」
「……何が?」
「はっ!?」
思わず、彩を直視してしまった。
目に、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ちゃんと……言って」
もう、逃げられない。
逃げちゃいけない。
逃げるわけにはいかない。
「彩が好きだ。結婚とか、子供の父親になるとか、正直自信ないけど、とりあえずお前と一緒にいたい」
彩の目から涙がこぼれる。同時に、彩がフッと笑った。
「とりあえず、とか……ひどくない?」
どれだけテンパってるんだか、恥ずかしくなる。
「それはっ――」
「亮がね、『とりあえず彼氏になってもらったら?』って」
「は?」
「私が智也とはもう会わないって話したら、どうしてって聞かれて――」
彩の涙が次々と頬を伝い、顎から彼女の足に落ちる。
「『結婚できないから』って答えたの。そしたら、『とりあえず、彼氏になってもらったら?』って言われた」
「亮君が?」
「そ」
「意味、わかってんのか?」
とりあえず、の意味もそうだが、母親に彼氏が出来ることの意味も。
「どうだろ。でも、真もいいって」
「何が?」
「『とりあえず、彼氏ならいいよ』だって」
さすがに六年生なら、わかるはずだ。
子供たちのお許しが出たってことか……?
「自分で言っといてなんだけど、とりあえずって結構ひどいな」
「ホント、それ言う?」
「いや……、うん」
何となく、沈黙。
俺の気持ちは伝えた。ひどく、格好がつかなかったけれど。
子供たちのお許しも、出た。手放しで喜んでいいのかわからないけれど。
あとは、彩の気持ちだけだ。
今更だけど、『恋人ごっこ』の『ごっこ』が外れても、札幌と釧路の遠距離恋愛になる。
互いに仕事があって、彩には子供もいるから、毎週末のように行き来も出来ない。
そんな状態で、二人の関係に名前を付けても、束縛し合うだけかもしれない。
それでも、俺は、彩を縛りたい――。
「彩――」
「好きよ」
「え!?」
不意打ちで、ちゃんと聞こえなかった。
いや、なんて言ったのかは『わかる』けれど。
「智也のこと、好きよ」
今度はハッキリ、聞こえた。
「とりあえず、彼氏になって」
「……根に持ってるな」
「全然?」
彩がにっこり笑って、それから、両手を膝の前について身を乗り出し、俺の頬に口づけた。
「とりあえず、暫定同率一位にしてあげるから」
色気のない、告白。
とりあえずの上に、暫定となれば、一位と言えどもランクインしてる気がしない。
だが、きっと、今の俺達にはちょうど良いのだろう。
「手作りのザンギ、食わせろよ」
「え!?」
「それで、我慢してやる」
スウェットやビールと一緒に買って来たらしい、スーパーのお惣菜感たっぷりのザンギは、衣はふにゃふにゃで、脂身が多く、ハッキリ言って不味い。
「美味い出来立てザンギを食わしてくれたら、とりあえず暫定『最後の男』で我慢してやるよ」
そう言って、俺は彩を抱き寄せた。
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