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15 女の顔、母親の顔
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彩が京本と対峙した時、俺は出て行って彼女の前に立とうとは思わなかった。彩は弱い女じゃない。男の後ろで守られて喜ぶ女じゃない。
勝手に、そう思っていた。
だから、千堂が出て行った時、格好つけちゃって、と小馬鹿にすらした。
けれど、馬鹿なのは俺だった。
『あんな風に恥ずかしいくらい堂々と想われたら、揺らぎますよ』
宮野に言われて、ハッとした。
けれど、それに気づかない振りをした。
千堂相手に焦っていると、不安になっていると認めたくなかった。
俺が千堂に負けるはずがない――。
そんな、くだらない虚栄心のために、俺は手を拱いた。
仕事に託けて、彩に電話することも、メッセージを送ることもしなかった。
あの時、千堂より先に俺が場を収めていたら……。
気持ちのどこかで、傲りがあった。
彩は千堂には靡かない。
『恋人ごっこ』を始めてから、彩も俺といることを楽しんでくれていると思い込んでいた。俺が楽しんでいたように。
だから、彩が千堂に抱かれたと認めた時、裏切られた気にすらなった。
『彩に好きな男が出来たら終わり』と言ったのは、俺なのに。
「なに、やってんだろうな」
「ホントに、ね」
肩の重みが消えたと思ったら、柔らかい無数の絲が頬をくすぐった。
唇を覆う柔らかさはそれとは別のもので、甘くさえ感じた。
なぜか下唇だけを咥え、舐められて、それがやけにもどかしかった。
中途半端な愛撫は、今の俺たちを表しているよう。
未来はないのに、離れられない。
『恋人ごっこ』なんて遊びを仕掛けた俺が、その遊びにハマって抜けられなくなっている。
セックスはしなかった。
ただ、キスをしただけ。
何回も何十回も。
千堂の感触が微塵も残らないように。
俺の感触を忘れられないように。
きっと、俺は、彩を愛している――。
勝手に、そう思っていた。
だから、千堂が出て行った時、格好つけちゃって、と小馬鹿にすらした。
けれど、馬鹿なのは俺だった。
『あんな風に恥ずかしいくらい堂々と想われたら、揺らぎますよ』
宮野に言われて、ハッとした。
けれど、それに気づかない振りをした。
千堂相手に焦っていると、不安になっていると認めたくなかった。
俺が千堂に負けるはずがない――。
そんな、くだらない虚栄心のために、俺は手を拱いた。
仕事に託けて、彩に電話することも、メッセージを送ることもしなかった。
あの時、千堂より先に俺が場を収めていたら……。
気持ちのどこかで、傲りがあった。
彩は千堂には靡かない。
『恋人ごっこ』を始めてから、彩も俺といることを楽しんでくれていると思い込んでいた。俺が楽しんでいたように。
だから、彩が千堂に抱かれたと認めた時、裏切られた気にすらなった。
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「なに、やってんだろうな」
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なぜか下唇だけを咥え、舐められて、それがやけにもどかしかった。
中途半端な愛撫は、今の俺たちを表しているよう。
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セックスはしなかった。
ただ、キスをしただけ。
何回も何十回も。
千堂の感触が微塵も残らないように。
俺の感触を忘れられないように。
きっと、俺は、彩を愛している――。
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