最後の男

深冬 芽以

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10 女の闘い

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「年下の上司なんて、いいカモですよね。おばさんの年じゃ、年上の男なんて介護目前だもんね」

 自分が『おばさん』なのは自負している。子供たちの友達には『おばさん』と呼ばれるし、逆もそうだ。

 けれど、職場で、しかも、一回りと少ししか年の違わない女に言われる筋合いはない。

「お子さんのために仕事をしに来ているのかと思ったら、お子さんのパパ探しに来てたんですね」

 彼女たちは、地雷を踏んだ。

 本人はまだ、それに気づいていないが。

「千堂課長がダメなら、溝口課長ですか?」

「――だったら?」

「え?」

「そうだったら、どうなんですか?」

 開き直った私に、彼女たちは少し驚いて、けれどすぐにそれを隠した。

「やっぱりそうなんだ。身の程知らず、ですね。子供と一緒に旦那に捨てられるようなばばあにちょっと優しくしただけで狙われるなんて、課長たちが可哀想」

 プツン、と頭の中で糸が切れるような音がした。糸、いや、ゴムかもしれない。

「何が言いたいのかわからないんですけど」

「ばばあは子供のために、仕事だけしてればいいのよ」

 それをあんたたちが言うか、と思った。

 勤務時間中にわざわざ嫌がらせに出向く人間に、仕事をしろだなんて言われたくない。

「課長たちがばばあに優しくするのは痛々しくて可哀想だからよ。勘違いしないで」

 近藤さんが泣きそうな顔で私を見ていた。

 今朝の、溝口課長とのやり取りを見ていて、知らせたのは近藤さんだろう。それを後悔しているのか、私を可哀想に思っているのかはわからない。

「年下の男に色目を使ってる母親なんて、子供たちも可哀想よね」と言って、京本さんが豊沢さんとクスクス笑った。

 無視スルーするのがいいことはわかっている。この手の嫌がらせは、相手にすればするほど増長する。



 けれど……。



 私にも、絶対に無視スルー出来ないことがある。

『言われっ放しになるなよ』

 智也の言葉を思い出す。



 言われなくても――!



「さっきから可哀想、可哀想って……何が?」

「は?」

「誰が可哀想? 何が可哀想?」

「――――」

 私は沸点が高い。滅多なことでは本気で怒らない。けれど、沸点に達してしまったら、言葉通り人格ひとが変わる。それは、自覚している。

 だから、私の声色で子供たちはそれを見極め、早々に泣きだすか謝る。

 見極められなかったのは元夫くらいなものだ。

 さて、目の前の女たちは見極められるのか。
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