最後の男

深冬 芽以

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7 彼女の素顔

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 彩はぐったりとベッドに身体を預け、呼吸を整えようとするが、なかなか身体に酸素を取り込めない様子。

 俺が枕元のコンドームに手を伸ばすのにも気づかない。着けるのにも。

 彼女の足の間に蹲り、抵抗される前に顔を埋めた。

「なにっ――! や――!! やめて!」

「で? どうする?」

「なに――がっ……」

「晩飯」

「あ……、ああ……――」

 恥ずかしいなどと考える余裕がなくなるまで、感じさせたかった。

 我慢なんてするだけ無駄だとわかるまで、喘がせたかった。



 他の何も見えなくなるほど、俺を求めさせたい――。



「やめ……て……」

「喋ってたいんだろ?」

「そう……だけどっ――! ソコで喋らないで!」

「ワガママだな」

「そん……なっ――!!」

 言葉とは裏腹に、身体は快感に従順。イキ慣れた身体に、わずかな理性などないも同然で、彩が酸素を求めて口を開くたび、甘く甲高い声が漏れる。

「もうっ――! む……りぃ……」

 彩の身体が大きく跳ね、ベッドが軋む。

 顔を上げて、彼女の太腿を持ち上げ、待たされ続けて今にもはち切れそうなモノを、赤く濡れた入り口に押し当てた。

 指二本分ではまだ狭い。

 けれど、もう、我慢できない。

「力抜け」

「え……?」

 ゆっくりと押し込むと、彼女が下唇を噛んだ。

 切れる、と思った。

 キスしようと身を乗り出すと、彼女の熱を感じた。あまりの熱さに、奥に届く前にイキそうだ。

「ん……」

 彩の腕が俺の首に絡まり、強く引き寄せる。

「ひと思いにっ――やって!」

「は……?」

「大丈夫だから!」

 必死に俺にしがみつく彩の言葉に、思わず笑いがこみ上げる。

「くくく……」

「……?」

「ひと思いって……。雰囲気も何もねーな」

「だって!」

「お前、格好良すぎだろ」

「そんなこと――――っ!!」

 グンッと最奥まで一気に突き上げる。彩はその衝撃に声すら出せずに、目を見開いた。

 思わず目を閉じたのは、俺。

 熱く、キツく、柔らかく包まれて、身震いするほどの快感。

 むやみに動けば、すぐにイキそうだ。

 俺はゆっくりと息を吐き、目を開けた。

 彩と視線が交わる。

「大丈夫か?」

「ん……」

 ゆっくりと腰を引き、ゆっくりと突き上げ、ゆっくりと腰を引く。

 ヤバイ、と思った。



 やみつきになりそうだ――。



「痛くないか?」

「だいじょ……ぶ……」

「気持ちいいか?」

「聞かな……ぃで……」

 俺の方こそ、喋ってないとイキそうだ。

 こんな、ゆっくり、じっくりなんて、したことない。

 擦れる度に、彩が息を漏らす。

「彩……?」

「ん……」

「感想は?」

「え……?」

「元夫が『最後の男』でなくなった感想は?」

 彼女の最奥で動きを止めた。

 イク前に聞いておきたかった。

 彩は少し驚いた顔をして、それから笑った。

「サイコー」

 後はもう、イクまでのわずかな時間、夢中で腰を振った。

 喘ぐ彼女を見下ろしながら、ふと思った。



 彼女は『最後の男』に誰を選ぶのだろう。



 俺は最初でも、最後でもないかもしれない。



『途中の男』なんて、一番半端だな――。



 そう思うと、無性に腹が立った。
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