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3 食事の後の緊急事態
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しおりを挟むさすが二児の母。
少し人見知りをする真心が、顔を合わせて三十分しか経っていない人と風呂に入っていた。
『ベッドを貸してくれ』なんて言われた時は怪訝な表情をした彼女だったが、事情を説明すると快く承諾してくれた。
今の姉さんには事情を説明されて冷静に聞く余裕はないだろうから、彼女のことは言わなかった。
ホテル前に停まった義兄の車から、今にも泣きだしそうな真心と真心の荷物を受け取り、病院へ急ぐ車を見送った。
真心は何も言わなかったが、苦しむ母親を見て不安でたまらなかったようだった。
「大丈夫。赤ちゃんを産む時は、誰でも痛くて苦しいの。けど、ちゃんと赤ちゃんは生れてくるから」と、彼女は真心の前に膝をついて、言った。
「赤ちゃんが生まれたら、お母さん痛くなくなる?」
「うん。すぐにいつもよりたくさんご飯が食べられるくらい、元気になるよ」
「どうして真心は一緒に行っちゃいけないの?」
涙を堪えていた真心の瞳が、じわりと濡れる。
「お母さんが苦しそうなのを見ると、真心ちゃんは心配になるでしょう? お母さんを心配する真心ちゃんを見ると、お母さんはもっと心配になっちゃって、赤ちゃんを産むのを頑張れなくなっちゃうの。だから、お母さんが安心して元気な赤ちゃんを産めるように、真心ちゃんはおじちゃんとおばちゃんと一緒にいよう」
真心が小さく頷いた。
彼女はゆっくりと真心の脇の下に手を伸ばすと、ゆっくりと膝にのせた。
「泣いてもいいよ? お母さんには内緒にしてあげるから」
真心は小さな手で彼女の胸にしがみつき、声を上げて泣いた。
愛おしそうに真心を抱き締める彼女は、『母親の顔』をしていた。
十分ほどして、泣き止んだ真心は安心しきって彼女と風呂に入ることを快諾した。
俺は彼女から、近くのコンビニで水とプリンとチョコパンを買ってくるように言われた。
部屋に戻ると、風呂から楽しいそうな声が聞こえてきた。
正直助かったが、真心が一緒とはいえ彼女とホテルに泊まることになるなんて、意識しないはずがない。
後々、真心から今夜のことを聞いた姉さんに、彼女のことをどう説明するかも考えものだ。
「あ! おじちゃんが帰って来てる!」
真心がパジャマ姿で洗面所から飛び出してきた。まだ髪が濡れている。
俺は真心に『おじちゃん』と呼ばれたくなかったが、姉さんがそう教えたもんだからどうしようもない。
「真心ちゃん、髪を乾かさなきゃ」
真心を追いかけて出て来た彼女もパジャマ姿で、すっぴんだった。濡れた髪を頭の上でまとめていて、こぼれた毛先から水が滴っている。
彼女は持っていたタオルで真心の頭を拭いた。その間も、彼女の髪から落ちた雫がパジャマの肩を濡らしていた。
「風邪ひいちゃうから、ちゃんと乾かそうね」
彼女に促された真心は、洗面所に戻って行く。
「課長もお風呂使いますよね。お湯を取り替えますから――」
立ち上がった彼女の髪から大粒の雫がこぼれ、肩の染みを広げた。俺は彼女のタオルを奪い、毛先と肩を拭いた。
「あんたも風邪ひくぞ」
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