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18.私の身体が濡れたから
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しおりを挟む「麻衣さん」
龍也とあきらが出て行くと、駿介が耳打ちした。
「有川さん、帯広にいるって」
「えっ!?」
たった今、千尋の居場所を知った私は、驚きで思わず声を上げてしまった。駿介が慌てて私の口を手で塞ぐ。
「千尋さんと連絡が取れたこと、伝えた方が良くない?」
私は口を塞がれたまま、コクコクと頷く。
「鶴本くん?」と、さなえが小声で言った。
「ちょっと、こっち」
私と駿介は、さなえの後に続いてリビングを出た。
残った大和と陸が、千尋と何やら話している。
廊下の先、ちょうどトイレの前で、三人で向かい合った。
「鶴本くん、有川さんに電話して? 私が話すから」
「あ、はい」と言って、駿介がスマホを操作して、さなえに渡す。
すぐに応答があり、さなえは簡単な自己紹介の後で、千尋と電話が繋がっている状況を説明した。私たちの説得で、札幌に帰って来ることを約束させたことも。
それから、深刻そうな表情で有川さんの言葉に耳を傾けていたさなえが、スマホを持ってリビングへと入って行った。
私と駿介も後に続く。
「有川さん、どうぞ」
さなえは駿介のスマホを、私のスマホの隣に置いた。
『千尋?』
スピーカーにしたようで、駿介のスマホから有川さんの声が響いた。
『比呂? そこにいたの?』
『いや、今、帯広駅にいる』
『はっ!?』
『これから六○亭の西三条店に行く。きっかり三十分後に、サクサ○パイを注文する。そのパイの賞味期限三時間だけ、待ってるよ』
サク○クパイ?
私たちは顔を見合わせた。
『なに、言って――』
『――前にテレビを見て食べたいって言ったろ? 一緒に食べよう』
『……』
『三時間待ってお前が来なかったら、食べずに帰る。もう、お前を追わない。諦めるよ』
えっ!?
諦めちゃうの!??
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『パイくらいで何を――』
『千尋はお母さんの生き方をどう思う?』
『おか……さん?』
『俺は、お前を、お前のお母さんのようにしたくない。いくら純愛でも、三十年も離れ離れなんて、俺には耐えられない。だから、俺は、三時間だ』
「みじかっ!」
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『ははっ』と、有川さんの笑い声。
『俺達にはちょうどいいだろ。帯広は雪が少ないな。これなら、十五分後には店につきそ――』
プツッと、有川さんの声が途切れた。
「千尋……?」
『なんなのよ……、もう』
千尋の、今にも泣きそうな震える声。
「千尋。有川さんには、妊娠のことは言ってないから」と、さなえが言った。
『……』
「千尋がどんな決断をしても、私たちは千尋の味方だからね」
『さなえ……』
「そうだよ! そうだよ!! 有川さんとの関係がどうなっても、私たちがいるよ! 千尋も千尋の子供も、私たちが守ってあげる!」
そう言った私は、無意識に駿介の腕にしがみついていた。そうしていないと、私の方が泣いてしまいそうだった。
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