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14.揺れる心

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 翌日の日曜日は、ひたすら悶々と過ごした。

 何をしていても、ふと思い出す陸の甘い言葉と、駿介への罪悪感で落ち着かない。

 お試し期間であろうと、今の私は駿介の彼女だ。

 二年前の、基弘のように、駿介を傷つけたくない。

 陸への気持ちは、二年前に捨てた。

 今更だ。

 その上、全てを捨ててイギリスだなんて、有り得ない。



 有り得ないんだから……。



 例え一緒に行っても、足手まといにしかならない。

 遠い異国の地で、ひたすら陸の帰りだけを待って過ごすなんて、私には出来ない。

 好きだって気持ちだけで、海を越えられるほど、私は世間知らずでもないし、怖いもの知らずでもない。



 ネックレス、返そう。



 私はブサかわ猫相手に、うんうん、と頷いて見せた。

 ネックレスは陸に返し、駿介には正直に陸とのことを話そうと、決めた。

 なのに、どうして。

 狂い始めた歯車は、完全に動きを止めるか、バラバラに砕けるまで狂い続けるのか。

 翌週、私と駿介は最高に険悪なムードに包まれていた。

「真綾とは、バッタリ会ったから一緒に飯食っただけです」

 最近は使わなくなっていた駿介の敬語が、余計に癇に障る。

「元カノったって、今はただの友達だし、別に――」

「――そ! わかった」

 私は、吐き捨てるように言うと、プイッと顔を背けた。

 今日は、久し振りに二人でのんびり過ごすつもりだった。折を見て陸とのことを話し、今は駿介が好きだから陸とイギリスに行ったりはしない、と告げるつもりだった。

 それなのに、私の問いに嘘をついた駿介に、私は苛立ちを押さえられなかった。

 事の発端は、昨日の仁美さんの言葉。

「仁美さんは、駿介と遠藤さんの様子を見て、ただの友達には見えなかったって言ってたけど! 駿介がそう言うなら、信じるよ」

 微塵も信じていないと主張するような、投げやりな言い方。

「なんだよ、その言い方。全然信じてないじゃん」

 駿介もまた、語尾を強めて苛立ちを主張する。

「言いたいことがあるならハッキリ言えよ」

 珍しく強気。

 駿介の様子がいつもと違うことは、駿介が部屋に来た時からわかっていたのに、今の私はそれを気遣う余裕がなかった。

 日曜に駿介が女と二人きりで食事していたと、昨日、仁美さんから聞いた。

 私は、自分でも驚くほど驚き、ショックを受けた。それが、一晩経つと怒りに変わり、部屋を訪ねて来た彼に詰め寄る結果となった。

「私の誘いを断って元カノと会ってたとか、疑っちゃうの当たり前でしょ? この前まで顔を合わせるのも嫌だって言ってたのに、急に二人きりで食事なんて、焼け木杭になんとやらって――」

「――先に! 俺の誘いを断って元カレと会ったのは麻衣だろ!」

 そう言った駿介の表情は、怒っているようにも、泣きだしそうにも見える。

「何言って――」

「――麻衣が濡れた相手って、あの男だろ」

「え――?」

「陸……さん」

 俯きがちに、すごく嫌そうに、『さん』をつけて、駿介は大きくため息をついた。

「くそ――っ!」

 ドサッと床に座る。

 私は、完全に言葉を見失っていた。

 確かに以前、一度だけセックスで感じたことがあると話した。が、相手については一切触れなかったはず。
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