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13.ずっと好きだった男性《ひと》
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誰も言わないけれど、誰かに言われたらものすごいダメージを受ける言葉。
龍也が自分を諦めるなんて、きっとあきらは考えても、望んでもいない。
「あきらも、好きな人を諦めないで?」
「麻衣……」
「私も……諦めないから」
「……っ!」
「どうせ苦しいなら、好きな人と一緒がいいよ」
「ふ……っ……」
瞼の堰に押し留められていた涙が、洪水の如く溢れ出す。
「それに、あきらが前の彼と別れたのは、子供が産めなくなったことが関係しているんでしょ? もし、そうなっていなかったら、あきらは今頃その彼と結婚して、その彼の子供を産んでいたかもしれないんだよね? それはそれで幸せだったと思うけど……、現実は、あきらがそうなってしまったことで、龍也との関係が始まったのなら、きっと、あきらと龍也が結ばれるためには必要なことだったんだよ」
あきらが子供を産めなくなかったことを喜ぶつもりは毛頭ない。
けれど、あきらが龍也を受け入れられないのは、自分が子供を産めない事実を受け入れたくないからならば、認めるしかない。
子供が産めなくなったのは、龍也を手に入れるためには必要な過程だったのだ、と。
「ごめんね? あきらが子供を産めないのはすごく残念だし、私も悲しいけど。でも、私はあきらと龍也が結ばれてくれたらすごく嬉しいから、あきらにはツラいことも、龍也と結ばれるために必要なことだったんだって、思いたい」
正直な気持ちを、言った。
あきらには酷だろう。
けれど、あきらは子供の代わりに龍也を手に入れられるのだ。
子供を産めない苦しみより、龍也に愛される喜びで満たされて欲しい。
「麻衣も同じだよ?」
「え?」
「私と龍也の関係が必然なら、麻衣と鶴本くん、麻衣と陸さんの関係も同じ。麻衣がどちらを選んでも、選ばなくても、きっと麻衣には必要なことだったんだよ」
「……うん」
「私としては、鶴本くん押しなんだけど」
手の甲で涙を拭いながら、あきらが言った。
「そうなの?」と言って、私はティッシュの箱を差し出す。
あきらは二枚引き抜いて、濡れた頬に当てた。
私も、ティッシュで涙を拭う。
「私は、やっぱり陸さんは勝手だと思う。麻衣を抱いたことも、結婚したことも、イギリス行きが決まって離婚したからって麻衣を鶴本くんから奪おうとするのも、全部陸さんの勝手じゃない。陸さんが言ってた通り、奥さんとの仲が冷めていたならもっと早く離婚して麻衣に気持ちを伝えることもできたでしょ? 結局、鶴本くんっていう存在に焦っただけじゃない。そんなの、ずるいでしょ」
『ずるい』という言葉が胸にストンと落ちてきて、笑えた。
そうだよ、ずるいよ。
それから、あきらがわずかに唇を尖らせてムスッとしているのにも笑ってしまった。
「陸、随分嫌われちゃったねぇ」
「友達としては好きだよ。けど、麻衣のことに関しては、やり方が気に食わない」
「そうかも」
「ん?」
「確かに、勝手だよね」
だけど、それも愛情なのだとわかっている。
龍也が自分を諦めるなんて、きっとあきらは考えても、望んでもいない。
「あきらも、好きな人を諦めないで?」
「麻衣……」
「私も……諦めないから」
「……っ!」
「どうせ苦しいなら、好きな人と一緒がいいよ」
「ふ……っ……」
瞼の堰に押し留められていた涙が、洪水の如く溢れ出す。
「それに、あきらが前の彼と別れたのは、子供が産めなくなったことが関係しているんでしょ? もし、そうなっていなかったら、あきらは今頃その彼と結婚して、その彼の子供を産んでいたかもしれないんだよね? それはそれで幸せだったと思うけど……、現実は、あきらがそうなってしまったことで、龍也との関係が始まったのなら、きっと、あきらと龍也が結ばれるためには必要なことだったんだよ」
あきらが子供を産めなくなかったことを喜ぶつもりは毛頭ない。
けれど、あきらが龍也を受け入れられないのは、自分が子供を産めない事実を受け入れたくないからならば、認めるしかない。
子供が産めなくなったのは、龍也を手に入れるためには必要な過程だったのだ、と。
「ごめんね? あきらが子供を産めないのはすごく残念だし、私も悲しいけど。でも、私はあきらと龍也が結ばれてくれたらすごく嬉しいから、あきらにはツラいことも、龍也と結ばれるために必要なことだったんだって、思いたい」
正直な気持ちを、言った。
あきらには酷だろう。
けれど、あきらは子供の代わりに龍也を手に入れられるのだ。
子供を産めない苦しみより、龍也に愛される喜びで満たされて欲しい。
「麻衣も同じだよ?」
「え?」
「私と龍也の関係が必然なら、麻衣と鶴本くん、麻衣と陸さんの関係も同じ。麻衣がどちらを選んでも、選ばなくても、きっと麻衣には必要なことだったんだよ」
「……うん」
「私としては、鶴本くん押しなんだけど」
手の甲で涙を拭いながら、あきらが言った。
「そうなの?」と言って、私はティッシュの箱を差し出す。
あきらは二枚引き抜いて、濡れた頬に当てた。
私も、ティッシュで涙を拭う。
「私は、やっぱり陸さんは勝手だと思う。麻衣を抱いたことも、結婚したことも、イギリス行きが決まって離婚したからって麻衣を鶴本くんから奪おうとするのも、全部陸さんの勝手じゃない。陸さんが言ってた通り、奥さんとの仲が冷めていたならもっと早く離婚して麻衣に気持ちを伝えることもできたでしょ? 結局、鶴本くんっていう存在に焦っただけじゃない。そんなの、ずるいでしょ」
『ずるい』という言葉が胸にストンと落ちてきて、笑えた。
そうだよ、ずるいよ。
それから、あきらがわずかに唇を尖らせてムスッとしているのにも笑ってしまった。
「陸、随分嫌われちゃったねぇ」
「友達としては好きだよ。けど、麻衣のことに関しては、やり方が気に食わない」
「そうかも」
「ん?」
「確かに、勝手だよね」
だけど、それも愛情なのだとわかっている。
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