上 下
90 / 179
12. 湧き上がる不安

しおりを挟む
「いーねー。駿介、って感じ」

「もうっ! 大和、何言ってんの!?」と、麻衣が大和さんの背中をペシッと叩く。

「あはは! わり、飲み過ぎた」

 大和さんは笑いながら、ガシガシと頭を掻く。

「へぇ。まともだな、見た目は」

 女性を抱えた方の男に、好戦的な目つきで全身見回された。

「で? 君の性癖は?」

「ちょ――、陸! やめてよ」

「そうだぞ、陸。聞き方がストレートすぎるぞ?」と言いながら、大和さんが陸さんの肩にポンと手をのせた。

「せめて、ご趣味は? って聞いてやんないと、答えにくいだろ」



 麻衣の男運の悪さって、どんだけだよ……。



 初めて龍也さんと会った時もそうだった。麻衣のそばにいる男はみんな変態だと決めてかかるあたり、よほど麻衣の男を見る目は信用できないらしい。

 麻衣は慌てて俺と、大和さんと陸さんの間に割って入る。

「大和! 陸も! ホント、やめて。駿介はそんなんじゃ――」

「あ!」

 あきらさんが麻衣の言葉を遮った。こちらへ歩いてくる男性を見ながら。

「比呂……さんですよね? 千尋の彼の」

「はい。有川比呂といいます」

 その男性は、静かに名乗った。

「ありかわひろ? すげー、千尋の名字って相川だよな? 名前、そっくりじゃん」

 有川さんがジロリ、と大和さんを睨みつけた。けれど、すぐに口角を上げて微笑む。

 かなり、胡散臭い作り笑顔。

「千尋を連れて帰りますね」

 そう言うと、有川さんは陸さんの腕を払い除けるようにして、千尋さんを抱き寄せた。

「歩けるか?」

 有川さんの問いに、千尋さんが瞼を上げた。

「比呂?」

「飲み過ぎだろ」

「ん……」

「帰るぞ」

「ん……」

 有川さんは千尋さんを抱きかかえ、彼女の耳元で優しく声をかけた。千尋さんも安心しきったように身体を預ける。



 なんか、ドラマみてぇ。



 俺には持ち合わせていない、大人の包容力、みたいなものを見せられ、格好いいと思った。が、次の瞬間、千尋さんの口に入った髪を払おうとした左手に、目をパチクリさせて
しまった。



 指輪……?



 きっと、気づいたのは俺だけじゃない。

 有川さんの左手の薬指。

 どう見ても、結婚指輪だ。

 けれど、千尋さんは指輪をしてない。



 それって、つまり――。



「おい! あんた――」

「――大和さん!」

 興奮気味に有川さんを呼び止めた時大和さんを、あきらさんが止めた。

 どうやら、この場のみんなが有川さんの指輪に驚いているよう。

 有川さんは俺たちに何か言おうと口を開いたが、迷って、やめて、また口を開いた。

「じゃ、俺たちはこれで」

 そう言って、有川さんはタクシーを拾おうと大通に目を向け、千尋さんは彼の腰に腕を回した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

アリアドネが見た長い夢

桃井すもも
恋愛
ある夏の夕暮れ、侯爵令嬢アリアドネは長い夢から目が覚めた。 二日ほど高熱で臥せっている間に夢を見ていたらしい。 まるで、現実の中にいるような体感を伴った夢に、それが夢であるのか現実であるのか迷う程であった。 アリアドネは夢の世界を思い出す。 そこは王太子殿下の通う学園で、アリアドネの婚約者ハデスもいた。 それから、噂のふわ髪令嬢。ふわふわのミルクティーブラウンの髪を揺らして大きな翠色の瞳を潤ませながら男子生徒の心を虜にする子爵令嬢ファニーも...。 ❇王道の学園あるある不思議令嬢パターンを書いてみました。不思議な感性をお持ちの方って案外実在するものですよね。あるある〜と思われる方々にお楽しみ頂けますと嬉しいです。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

孤高の王は異世界からの落ち人に愛を乞う

夏目みや
恋愛
二年前、気づけば見知らぬ森の中にいた。 稀に出現する『異世界からの落ち人』だと聞かされ、それ以来恩人のサーラと森でひっそりと暮らしていたリンネ。 ある日、神殿の神託があったと告げる使者がやってきて、強引に王の目前に連れ出される。 威圧感を放つ金髪碧眼の美形なる王は、冷めた侮蔑の眼差しを向けてきた。 気性の激しさをぶつけられ、暴言を吐き抗ってしまう。 そしたら――逃げられなくなった。 難しい設定なしの、よくある話の異世界トリップ。 なかなかくっつかない、不器用な二人のお話。プライドの塊のような男がのちに溺愛するまで。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

「承知しました。」~業務命令により今夜もトロトロに焦らされています〜

スケキヨ
恋愛
咲坂琴子、27歳。真面目で大人しくて地味な琴子には彼氏がいない、ずっと。そのせいで会社の後輩にもバカにされる始末だ。――ただし、琴子には婚約者がいる。子供の頃から決められた婚約者が。 「はやく……ベッド行こ」 誘うのはもちろん婚約者……ではなく、名前もろくに知らない男。彼との関係は身体だけのはずだった。なのに、その男が新しい上司として琴子の会社に現れて……!? セフレ上司と御曹司の婚約者の間で振りまわされるアラサーOLのお話。 ※他サイトにも掲載しています。

【本編完結】【R18】体から始まる恋、始めました

四葉るり猫
恋愛
離婚した母親に育児放棄され、胸が大きいせいで痴漢や変質者に遭いやすく、男性不信で人付き合いが苦手だった花耶。 会社でも高卒のせいで会社も居心地が悪く、極力目立たないように過ごしていた。 ある時花耶は、社内のプロジェクトのメンバーに選ばれる。だが、そのリーダーの奥野はイケメンではあるが目つきが鋭く威圧感満載で、花耶は苦手意識から引き気味だった。 ある日電車の運休で帰宅難民になった。途方に暮れる花耶に声をかけたのは、苦手意識が抜けない奥野で… 仕事が出来るのに自己評価が低く恋愛偏差値ゼロの花耶と、そんな彼女に惚れて可愛がりたくて仕方がない奥野。 無理やりから始まったせいで拗らせまくった二人の、グダグダしまくりの恋愛話。 主人公は後ろ向きです、ご注意ください。 アルファポリス初投稿です。どうぞよろしくお願いします。 他サイトにも投稿しています。 かなり目が悪いので、誤字脱字が多数あると思われます。予めご了承ください。 展開はありがちな上、遅めです。タグ追加可能性あります。 7/8、第一章を終えました。 7/15、第二章開始しました。 10/2 第二章完結しました。残り番外編?を書いて終わる予定です。

処理中です...