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8.彼の嫉妬と元カノとの再会

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 背を向け続ける彼の背に、私は背中を合わせてもたれかかった。私を支えようと、彼の背に力がこもる。

「懐かしーなぁ。私、サードを守ってたんだけどね? 今よりももっと太ってたし、必死になると顔が怖くなるみたいで、二塁ランナーに怯えられてたんだよね」

「麻衣さんが?」

「うん。走塁妨害で、よく注意されたし。相手チームから、『デブスが邪魔でベースが見えない』って舌打ちされたりもしたな」

「はっ!?」

 思いがけないところで、鶴本くんが振り返った。背中を預けていた私は、反動でソファに突っ伏した。

「わっ!」

「え!? あ、ごめん」

「もう……」

 私がぶつけた鼻の頭を押さえながら体を起こすと、真顔の鶴本くんがずいっと顔を寄せて来た。

「麻衣さんはデブスじゃないよ」

「……ふふっ――」

 無意識に、口元が綻んだ。

「昔の話だよ」

「そうだとしてもっ!」

「……ありがと」

「麻衣さん」

 鶴本くんがフワッと私を包み込んだ。

「ごめん」

「なにが?」

 鶴本くんの腕に力がこもり、私はグイッと抱き寄せられた。

「不破さんに、嫉妬した」

「……どうして?」

「不破さんと麻衣さんはいいコンビだ、って聞いて……」

 事務所で、からかわれたのだろう。

 私がしばらく南事務所に行くとわかって、みんな口々に『浮気しちゃダメよ』なんて言っていたし。

 私は彼の背中に腕を回した。

「変なの」

「何が?」

「鶴本くんが嫉妬するとか」

「……どうして」

 顔を見なくても、ムッとしたのがわかった。

「だって――」

 私は彼の腕の中で俯いた。

「誰が見たって不自然じゃない。鶴本くんみたいな若いイケメンが、私みたいな――」

「そういうこと言うな!」

 グイッと両手で肩を掴まれ、身体が引き離された。三十センチほどの距離で私を見る鶴本くんは、ムッとしたのを通り越して、怒っていた。

「他の奴なんか関係ない! 俺は……、俺が! 麻衣さんを好きなんだから!」

 こんな風に愛されて、揺るがない女がいるだろうか。

「ありがとう」と、私は微笑んだ。

 その夜、鶴本くんは私の部屋に泊まった。

 狭いベッドで抱き合って、眠った。

 仕事の話をしていると、鶴本くんが私の身体を撫で始め、ふっと手を離して天気の話を始めた。二日前の強風で、事務所近くのポプラの木の枝が折れて歩道を塞いだ、とか。それから、今度は服の上から私の身体を唇でなぞる。また離れては、公開されたばかりの映画の話を始める。

 何がしたいのかわからなかった。わからなかったけれど、触れられるのは気持ち良かったし、やめられると少しがっかりした。

 それをわかってか、鶴本くんは心地良い眠りに誘われて目を閉じた私に言った。

「早くれさせてね」

 太腿にカレを感じて、脚の間がむず痒くなった。
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