58 / 179
8.彼の嫉妬と元カノとの再会
6
しおりを挟む
背を向け続ける彼の背に、私は背中を合わせてもたれかかった。私を支えようと、彼の背に力がこもる。
「懐かしーなぁ。私、サードを守ってたんだけどね? 今よりももっと太ってたし、必死になると顔が怖くなるみたいで、二塁ランナーに怯えられてたんだよね」
「麻衣さんが?」
「うん。走塁妨害で、よく注意されたし。相手チームから、『デブスが邪魔でベースが見えない』って舌打ちされたりもしたな」
「はっ!?」
思いがけないところで、鶴本くんが振り返った。背中を預けていた私は、反動でソファに突っ伏した。
「わっ!」
「え!? あ、ごめん」
「もう……」
私がぶつけた鼻の頭を押さえながら体を起こすと、真顔の鶴本くんがずいっと顔を寄せて来た。
「麻衣さんはデブスじゃないよ」
「……ふふっ――」
無意識に、口元が綻んだ。
「昔の話だよ」
「そうだとしてもっ!」
「……ありがと」
「麻衣さん」
鶴本くんがフワッと私を包み込んだ。
「ごめん」
「なにが?」
鶴本くんの腕に力がこもり、私はグイッと抱き寄せられた。
「不破さんに、嫉妬した」
「……どうして?」
「不破さんと麻衣さんはいいコンビだ、って聞いて……」
事務所で、からかわれたのだろう。
私がしばらく南事務所に行くとわかって、みんな口々に『浮気しちゃダメよ』なんて言っていたし。
私は彼の背中に腕を回した。
「変なの」
「何が?」
「鶴本くんが嫉妬するとか」
「……どうして」
顔を見なくても、ムッとしたのがわかった。
「だって――」
私は彼の腕の中で俯いた。
「誰が見たって不自然じゃない。鶴本くんみたいな若いイケメンが、私みたいな――」
「そういうこと言うな!」
グイッと両手で肩を掴まれ、身体が引き離された。三十センチほどの距離で私を見る鶴本くんは、ムッとしたのを通り越して、怒っていた。
「他の奴なんか関係ない! 俺は……、俺が! 麻衣さんを好きなんだから!」
こんな風に愛されて、揺るがない女がいるだろうか。
「ありがとう」と、私は微笑んだ。
その夜、鶴本くんは私の部屋に泊まった。
狭いベッドで抱き合って、眠った。
仕事の話をしていると、鶴本くんが私の身体を撫で始め、ふっと手を離して天気の話を始めた。二日前の強風で、事務所近くのポプラの木の枝が折れて歩道を塞いだ、とか。それから、今度は服の上から私の身体を唇でなぞる。また離れては、公開されたばかりの映画の話を始める。
何がしたいのかわからなかった。わからなかったけれど、触れられるのは気持ち良かったし、やめられると少しがっかりした。
それをわかってか、鶴本くんは心地良い眠りに誘われて目を閉じた私に言った。
「早く挿れさせてね」
太腿にカレを感じて、脚の間がむず痒くなった。
「懐かしーなぁ。私、サードを守ってたんだけどね? 今よりももっと太ってたし、必死になると顔が怖くなるみたいで、二塁ランナーに怯えられてたんだよね」
「麻衣さんが?」
「うん。走塁妨害で、よく注意されたし。相手チームから、『デブスが邪魔でベースが見えない』って舌打ちされたりもしたな」
「はっ!?」
思いがけないところで、鶴本くんが振り返った。背中を預けていた私は、反動でソファに突っ伏した。
「わっ!」
「え!? あ、ごめん」
「もう……」
私がぶつけた鼻の頭を押さえながら体を起こすと、真顔の鶴本くんがずいっと顔を寄せて来た。
「麻衣さんはデブスじゃないよ」
「……ふふっ――」
無意識に、口元が綻んだ。
「昔の話だよ」
「そうだとしてもっ!」
「……ありがと」
「麻衣さん」
鶴本くんがフワッと私を包み込んだ。
「ごめん」
「なにが?」
鶴本くんの腕に力がこもり、私はグイッと抱き寄せられた。
「不破さんに、嫉妬した」
「……どうして?」
「不破さんと麻衣さんはいいコンビだ、って聞いて……」
事務所で、からかわれたのだろう。
私がしばらく南事務所に行くとわかって、みんな口々に『浮気しちゃダメよ』なんて言っていたし。
私は彼の背中に腕を回した。
「変なの」
「何が?」
「鶴本くんが嫉妬するとか」
「……どうして」
顔を見なくても、ムッとしたのがわかった。
「だって――」
私は彼の腕の中で俯いた。
「誰が見たって不自然じゃない。鶴本くんみたいな若いイケメンが、私みたいな――」
「そういうこと言うな!」
グイッと両手で肩を掴まれ、身体が引き離された。三十センチほどの距離で私を見る鶴本くんは、ムッとしたのを通り越して、怒っていた。
「他の奴なんか関係ない! 俺は……、俺が! 麻衣さんを好きなんだから!」
こんな風に愛されて、揺るがない女がいるだろうか。
「ありがとう」と、私は微笑んだ。
その夜、鶴本くんは私の部屋に泊まった。
狭いベッドで抱き合って、眠った。
仕事の話をしていると、鶴本くんが私の身体を撫で始め、ふっと手を離して天気の話を始めた。二日前の強風で、事務所近くのポプラの木の枝が折れて歩道を塞いだ、とか。それから、今度は服の上から私の身体を唇でなぞる。また離れては、公開されたばかりの映画の話を始める。
何がしたいのかわからなかった。わからなかったけれど、触れられるのは気持ち良かったし、やめられると少しがっかりした。
それをわかってか、鶴本くんは心地良い眠りに誘われて目を閉じた私に言った。
「早く挿れさせてね」
太腿にカレを感じて、脚の間がむず痒くなった。
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
アリアドネが見た長い夢
桃井すもも
恋愛
ある夏の夕暮れ、侯爵令嬢アリアドネは長い夢から目が覚めた。
二日ほど高熱で臥せっている間に夢を見ていたらしい。
まるで、現実の中にいるような体感を伴った夢に、それが夢であるのか現実であるのか迷う程であった。
アリアドネは夢の世界を思い出す。
そこは王太子殿下の通う学園で、アリアドネの婚約者ハデスもいた。
それから、噂のふわ髪令嬢。ふわふわのミルクティーブラウンの髪を揺らして大きな翠色の瞳を潤ませながら男子生徒の心を虜にする子爵令嬢ファニーも...。
❇王道の学園あるある不思議令嬢パターンを書いてみました。不思議な感性をお持ちの方って案外実在するものですよね。あるある〜と思われる方々にお楽しみ頂けますと嬉しいです。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。
❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
孤高の王は異世界からの落ち人に愛を乞う
夏目みや
恋愛
二年前、気づけば見知らぬ森の中にいた。
稀に出現する『異世界からの落ち人』だと聞かされ、それ以来恩人のサーラと森でひっそりと暮らしていたリンネ。
ある日、神殿の神託があったと告げる使者がやってきて、強引に王の目前に連れ出される。
威圧感を放つ金髪碧眼の美形なる王は、冷めた侮蔑の眼差しを向けてきた。
気性の激しさをぶつけられ、暴言を吐き抗ってしまう。
そしたら――逃げられなくなった。
難しい設定なしの、よくある話の異世界トリップ。
なかなかくっつかない、不器用な二人のお話。プライドの塊のような男がのちに溺愛するまで。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
「承知しました。」~業務命令により今夜もトロトロに焦らされています〜
スケキヨ
恋愛
咲坂琴子、27歳。真面目で大人しくて地味な琴子には彼氏がいない、ずっと。そのせいで会社の後輩にもバカにされる始末だ。――ただし、琴子には婚約者がいる。子供の頃から決められた婚約者が。
「はやく……ベッド行こ」
誘うのはもちろん婚約者……ではなく、名前もろくに知らない男。彼との関係は身体だけのはずだった。なのに、その男が新しい上司として琴子の会社に現れて……!?
セフレ上司と御曹司の婚約者の間で振りまわされるアラサーOLのお話。
※他サイトにも掲載しています。
【本編完結】【R18】体から始まる恋、始めました
四葉るり猫
恋愛
離婚した母親に育児放棄され、胸が大きいせいで痴漢や変質者に遭いやすく、男性不信で人付き合いが苦手だった花耶。
会社でも高卒のせいで会社も居心地が悪く、極力目立たないように過ごしていた。
ある時花耶は、社内のプロジェクトのメンバーに選ばれる。だが、そのリーダーの奥野はイケメンではあるが目つきが鋭く威圧感満載で、花耶は苦手意識から引き気味だった。
ある日電車の運休で帰宅難民になった。途方に暮れる花耶に声をかけたのは、苦手意識が抜けない奥野で…
仕事が出来るのに自己評価が低く恋愛偏差値ゼロの花耶と、そんな彼女に惚れて可愛がりたくて仕方がない奥野。
無理やりから始まったせいで拗らせまくった二人の、グダグダしまくりの恋愛話。
主人公は後ろ向きです、ご注意ください。
アルファポリス初投稿です。どうぞよろしくお願いします。
他サイトにも投稿しています。
かなり目が悪いので、誤字脱字が多数あると思われます。予めご了承ください。
展開はありがちな上、遅めです。タグ追加可能性あります。
7/8、第一章を終えました。
7/15、第二章開始しました。
10/2 第二章完結しました。残り番外編?を書いて終わる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる