56 / 179
8.彼の嫉妬と元カノとの再会
4
しおりを挟む
額をぐりぐりと肩に押し付けたり、耳朶を軽く噛んだりしながら、聞かれた。
けれど、その内容は全く頭に入ってこない。
「いつ帰って来れんの」
「鶴本くん」
「南事務所の方が居心地良くなっちゃった?」
「鶴本くん!」
「なに?」
「押し付けないで……」
腰のあたりで存在感を現し、それを私に知らしめんと押し付け、擦りつけられ、ソコに意識が集中する。
「ごめん」
そうは言っても、鶴本くんは腰を揺らすのをやめない。
「ちょ……まっ――」
身体が火照り、このまま流されてもいいんじゃないかと思えた時、唐突に解放された。
「ごめん!」
「え?」
「調子に乗り過ぎました」と言うと、くるりと背を向けた。
「トイレ、借ります」
あのままでは食事どころではないだろう。
私はパタパタとキッチンに行き、さっきまで火にかけていた鍋に、再び点火した。
身体が熱いのは、火のそばにいるせい。鶴本くんに触れられて、興奮したからじゃない。
鍋の水がコポコポと音を立て始めた時、リビングのドアが開いた。
「ちゃんと、手、洗って」
「はい……」
鶴本くんはキッチンの横のドアをスライドし、洗面所で手を洗う。
私は鶴本くんに座っているように言い、パスタを茹で、サラダと一緒にテーブルに運んだ。鶴本くんは、いつものように猫のぬいぐるみを抱き締めている。よほど気に入ったらしい。
「これ、ホントに缶詰?」
パスタをフォークに絡めながら、聞いた。
「うん」
「俺も缶詰使ってパスタ作るけど、こんなに具沢山の缶詰なんてある?」
「ああ。缶詰にひき肉と野菜を足してるから」
「へぇ……」
鶴本くんはフォークに巻き付けたパスタが落ちないように、素早く口に運んだ。
「んまい」
「そ? 良かった」
「ほれ、んにはいってんの?」
口をもごもごさせながら、聞く。
「ひき肉と、玉ねぎと人参とピーマンのみじん切り」
「へ、ほんれるね」
「なに、言ってるの?」と、私は笑った。
子供みたい、と思うことが多い。
そして、そんな彼を見ていると、穏やかな気持ちになれる。
「缶詰をこんなに美味くできるとか、すごいね」と、鶴本くんがアイスコーヒーを一口飲んでから言った。
ビールがあると言ったけれど、鶴本くんは断った。
「ありがと」
鶴本くんの口に合ったようで、二人前をぺろりと食べた。
私はいつも多めにパスタを茹でて、翌日の朝にも食べる。およそ二人前のミート缶に肉や野菜、ケチャップと茹で汁を足すと、どうしても三人分のソースが出来上がる。
次からは、四人前のミート缶を買わなきゃ。
私は翌日のパスタに、とろけるチーズをのせてオーブンで焼くのが好きだった。
鶴本くんも気に入ってくれると思う。
食べながら、鶴本くんは南事務所の様子を聞いた。余程気になっているらしく、細かく。
「南にいる方が、仕事しやすい?」
ごちそうさま、の後で、そう聞かれた。
さっきも言っていた。
『南事務所の方が居心地良くなっちゃった?』
けれど、その内容は全く頭に入ってこない。
「いつ帰って来れんの」
「鶴本くん」
「南事務所の方が居心地良くなっちゃった?」
「鶴本くん!」
「なに?」
「押し付けないで……」
腰のあたりで存在感を現し、それを私に知らしめんと押し付け、擦りつけられ、ソコに意識が集中する。
「ごめん」
そうは言っても、鶴本くんは腰を揺らすのをやめない。
「ちょ……まっ――」
身体が火照り、このまま流されてもいいんじゃないかと思えた時、唐突に解放された。
「ごめん!」
「え?」
「調子に乗り過ぎました」と言うと、くるりと背を向けた。
「トイレ、借ります」
あのままでは食事どころではないだろう。
私はパタパタとキッチンに行き、さっきまで火にかけていた鍋に、再び点火した。
身体が熱いのは、火のそばにいるせい。鶴本くんに触れられて、興奮したからじゃない。
鍋の水がコポコポと音を立て始めた時、リビングのドアが開いた。
「ちゃんと、手、洗って」
「はい……」
鶴本くんはキッチンの横のドアをスライドし、洗面所で手を洗う。
私は鶴本くんに座っているように言い、パスタを茹で、サラダと一緒にテーブルに運んだ。鶴本くんは、いつものように猫のぬいぐるみを抱き締めている。よほど気に入ったらしい。
「これ、ホントに缶詰?」
パスタをフォークに絡めながら、聞いた。
「うん」
「俺も缶詰使ってパスタ作るけど、こんなに具沢山の缶詰なんてある?」
「ああ。缶詰にひき肉と野菜を足してるから」
「へぇ……」
鶴本くんはフォークに巻き付けたパスタが落ちないように、素早く口に運んだ。
「んまい」
「そ? 良かった」
「ほれ、んにはいってんの?」
口をもごもごさせながら、聞く。
「ひき肉と、玉ねぎと人参とピーマンのみじん切り」
「へ、ほんれるね」
「なに、言ってるの?」と、私は笑った。
子供みたい、と思うことが多い。
そして、そんな彼を見ていると、穏やかな気持ちになれる。
「缶詰をこんなに美味くできるとか、すごいね」と、鶴本くんがアイスコーヒーを一口飲んでから言った。
ビールがあると言ったけれど、鶴本くんは断った。
「ありがと」
鶴本くんの口に合ったようで、二人前をぺろりと食べた。
私はいつも多めにパスタを茹でて、翌日の朝にも食べる。およそ二人前のミート缶に肉や野菜、ケチャップと茹で汁を足すと、どうしても三人分のソースが出来上がる。
次からは、四人前のミート缶を買わなきゃ。
私は翌日のパスタに、とろけるチーズをのせてオーブンで焼くのが好きだった。
鶴本くんも気に入ってくれると思う。
食べながら、鶴本くんは南事務所の様子を聞いた。余程気になっているらしく、細かく。
「南にいる方が、仕事しやすい?」
ごちそうさま、の後で、そう聞かれた。
さっきも言っていた。
『南事務所の方が居心地良くなっちゃった?』
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
アリアドネが見た長い夢
桃井すもも
恋愛
ある夏の夕暮れ、侯爵令嬢アリアドネは長い夢から目が覚めた。
二日ほど高熱で臥せっている間に夢を見ていたらしい。
まるで、現実の中にいるような体感を伴った夢に、それが夢であるのか現実であるのか迷う程であった。
アリアドネは夢の世界を思い出す。
そこは王太子殿下の通う学園で、アリアドネの婚約者ハデスもいた。
それから、噂のふわ髪令嬢。ふわふわのミルクティーブラウンの髪を揺らして大きな翠色の瞳を潤ませながら男子生徒の心を虜にする子爵令嬢ファニーも...。
❇王道の学園あるある不思議令嬢パターンを書いてみました。不思議な感性をお持ちの方って案外実在するものですよね。あるある〜と思われる方々にお楽しみ頂けますと嬉しいです。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。
❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
孤高の王は異世界からの落ち人に愛を乞う
夏目みや
恋愛
二年前、気づけば見知らぬ森の中にいた。
稀に出現する『異世界からの落ち人』だと聞かされ、それ以来恩人のサーラと森でひっそりと暮らしていたリンネ。
ある日、神殿の神託があったと告げる使者がやってきて、強引に王の目前に連れ出される。
威圧感を放つ金髪碧眼の美形なる王は、冷めた侮蔑の眼差しを向けてきた。
気性の激しさをぶつけられ、暴言を吐き抗ってしまう。
そしたら――逃げられなくなった。
難しい設定なしの、よくある話の異世界トリップ。
なかなかくっつかない、不器用な二人のお話。プライドの塊のような男がのちに溺愛するまで。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
「承知しました。」~業務命令により今夜もトロトロに焦らされています〜
スケキヨ
恋愛
咲坂琴子、27歳。真面目で大人しくて地味な琴子には彼氏がいない、ずっと。そのせいで会社の後輩にもバカにされる始末だ。――ただし、琴子には婚約者がいる。子供の頃から決められた婚約者が。
「はやく……ベッド行こ」
誘うのはもちろん婚約者……ではなく、名前もろくに知らない男。彼との関係は身体だけのはずだった。なのに、その男が新しい上司として琴子の会社に現れて……!?
セフレ上司と御曹司の婚約者の間で振りまわされるアラサーOLのお話。
※他サイトにも掲載しています。
【本編完結】【R18】体から始まる恋、始めました
四葉るり猫
恋愛
離婚した母親に育児放棄され、胸が大きいせいで痴漢や変質者に遭いやすく、男性不信で人付き合いが苦手だった花耶。
会社でも高卒のせいで会社も居心地が悪く、極力目立たないように過ごしていた。
ある時花耶は、社内のプロジェクトのメンバーに選ばれる。だが、そのリーダーの奥野はイケメンではあるが目つきが鋭く威圧感満載で、花耶は苦手意識から引き気味だった。
ある日電車の運休で帰宅難民になった。途方に暮れる花耶に声をかけたのは、苦手意識が抜けない奥野で…
仕事が出来るのに自己評価が低く恋愛偏差値ゼロの花耶と、そんな彼女に惚れて可愛がりたくて仕方がない奥野。
無理やりから始まったせいで拗らせまくった二人の、グダグダしまくりの恋愛話。
主人公は後ろ向きです、ご注意ください。
アルファポリス初投稿です。どうぞよろしくお願いします。
他サイトにも投稿しています。
かなり目が悪いので、誤字脱字が多数あると思われます。予めご了承ください。
展開はありがちな上、遅めです。タグ追加可能性あります。
7/8、第一章を終えました。
7/15、第二章開始しました。
10/2 第二章完結しました。残り番外編?を書いて終わる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる