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4.秘密の関係

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 私の服はお風呂場に掛かっていた。

 よく見ると、ジャケットの襟が濡れている。ワイシャツは洗濯機で洗われたのか、皺々になっていた。



 どうしよう……。



 私は洗面台の鏡に映る自分のみっともない姿に、ため息をついた。



 酔っていたとはいえ、なんてことを……。



 そして、気がついた。



 え!? すっぴん!??



 メイクを落とした記憶はない。

 着替えた記憶もないけれど。



 最悪――。



 仕方なく部屋に戻ると、鶴本くんがベッドに上がっていた。まだ、眠っている。

 今度は私がベッドの下に座り、膝を抱えた。



 なにやってんだろ……。



「ま……い……さ……」

 背後で呼ばれた気がして、振り返った。

 鶴本くんが布団半分を抱き締めている。



 寝顔は格好いいって言うより、可愛いだな……。



 昨日、鶴本くんに告白されて、驚いた。

 散々、それらしいことは言われていたけれど、冗談だと思っていたから。

 だけど、OLCの飲み会で鶴本くんのことを聞かれてから、少し意識していたのも事実。

 だとしても、鶴本くんの気持ちを受け入れることは出来ない。

 私は鶴本くんの寝顔を眺めながら、無意識に手を伸ばした。目にかかる髪を、人差し指ですくう。

 柔らかい。

 こんなに穏やかな気持ちで男の人の髪に触れるのは、初めてかもしれない。

 執拗に攻められて、抵抗したりしがみついたりして髪に触れるというより鷲掴みにすることはあったけれど。



 どうして好きだなんて言ったの……?



 仕事がしにくくなることは、わかっていたろう。いくら取り繕っても、毎日顔を合わせるのは気まずいに決まっている。

「麻衣さん……?」

 瞼がゆっくりと開き、目が合った。

 私は慌てて鶴本くんの髪から手を離した。

「すいません!」

 鶴本くんが飛び起き、言った。

「寝惚けてただけなんです!」

「はい?」

「え!?」

 三秒ほど顔を見合わせ、鶴本くんから視線を逸らした。

「夢……?」

 彼は布団を剥ぐって自分の身体を見た。というより、確認していた。

「良かったぁ……」と、安堵の声を漏らす。

「どんな夢、見てたの」

「え!?」

「Hな夢でしょ」

 私は冷ややかな目で彼を見た。

 布団を剥ぐったのは、間違いだ。

 鶴本くんの足の間にある膨らみが見えてしまった。鶴本くんも、私に見られたことに気づいた。

「不可抗力です!」と言って、布団を掛け直す。

「わかってるわよ」

「え?」

「朝の生理現象だってことくらい、知ってるわよ」

 私はくるっと身体の向きを変え、鶴本くんに背を向けた。

「私のことは気にしないで」

「はい?」

「ソレ! 何とかしてきて」
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