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4.秘密の関係

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「麻衣さん?」

「私、帰るから――」

「麻衣さん!」

「放して!!」

 これ以上、二年前のことを思い出したくなかった。

 惨めになるから。

 寂しくなるから。

「俺、本気で――」

「やめて!」

 泣きそうだった。けれど、鶴本くんの前では泣きたくなかった。

「あれだ! 欲求不満?」

「は?」

 頭が、痛い。

 身体が、ふわふわする。

「仕事が忙しくて彼女を作る暇もなかった?」

「なに、言って――」

「シてあげよっか」

 自分が何を言っているのか、よくわからない。

「私は感じないけどさ、感じさせてあげるだけなら――」

「麻衣さん、なに言ってんですか!」

 軽蔑でも何でもされて嫌われてしまえば、いい。

「手でも口でもいいよ? あ、胸で挟んで――」

「やめろ!!」

 頭のてっぺんから身体を突き抜けるような、尖った声。

 鶴本くんがこんな風に大声を出すのを、初めて聞いた。

 恐る恐る見上げて、罪悪感が込み上げてきた。

 泣いてない。

 泣いてないのに、鶴本くんが泣いているように見えた。

「俺を、今までの男と一緒にすんな」

 酷く、傷ついた表情。

 鶴本くんを侮辱するつもりはなかったけれど、結果的にそうなってしまった。

「ごめん……なさ……」

 頭が、痛い。

 胃が、ムカムカする。

「俺、本気で麻衣さんが好きです」

 ぎゅうっと抱き締められた。苦しいくらい、力強く。

「好きだ」

 苦しい。

「他の男とは違うって、証明させて」

「しょう……めい……?」

「絶対、麻衣さんを傷つけたりしない」

 鶴本くんの声が、急に遠くに聞こえた。

「大事にするから」

 頭に霧がかかったように、ふわふわする。

「だから――」

 喉の奥が酸っぱい。

「鶴本くん」

 胃が激しく収縮する。

「吐きそう」

 その後のことは何も、覚えていない。

 ただ、鶴本くんが無防備な私を前にして、紳士でいてくれたことだけはわかる。

 スーツは脱いでいて、鶴本くんのものであろうTシャツを着ていたけれど。

 目が覚めた時、私は一人で眠っていた。

 頭が重い。

 身体が痛い。

 徐に起き上がり、見慣れない部屋を見回す。

 ベッド、テレビ、テーブル、鶴本くん。

 鶴本くんはTシャツにスエット姿で、ベッドの下で丸くなっていた。

 犬みたいだな、と思った。

 グレーのカーテン越しに日差しを浴びてボーっとしていると、段々記憶がよみがえってきた。



 そうだ。

 飲み過ぎて、鶴本くんの家に……。



『好きだ!』

 突然、かなりリアルに鶴本くんの声を思い出し、ハッとした。

『いつから不感症?』



 私……。



 酔っていたとはいえ、自分の言葉が恥ずかしくなる。

 そして、犬みたいだなんて呑気に眺めていた鶴本くんは、私がベッドを占領したために寒くて丸くなっているのだとわかった。

 私は慌てて、けれど静かにベッドを出て、布団を鶴本くんの身体に被せた。

 鶴本くんが、笑ったように見える。

 それから、自分の服を探したけれど、見当たらない。私はちょうどお尻が隠れるくらいの丈のTシャツをグイッと伸ばした。
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