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3.コンビ解散
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また元気な声がして、扉の向こうから若者が現れた。俺は生を四つと、卵雑炊を注文した。
所長が「あ、僕も」と言った。
麻衣さんはスクリュードライバーを注文した。
「あの二人、別れますかね」と、明子さんが言った。
「それは、嫌だなぁ」と、所長。
「折角、小野さんに遅めの春が訪れたんだから、幸せになって欲しいなぁ」
「けど、小野寺さんが仁美さんの望むものをあげられないなら、幸せではないですよね」
「光川くんは厳しいなぁ」
穏やかな笑顔と口調だが、所長の目だけは穏やかではなかった。
「別れて欲しいの?」
「そんなわけないじゃないですか!」と、明子さんが興奮気味に言った。
「結婚をお勧めはしませんけど、幸せを壊したいなんて思ってませんよ」
「……そうだよね」
「ただ、年齢的にも小野寺さんの決断を待ってあげられる時間がないって悩む仁美ちゃんの気持ちを考えたら、小野寺さんから仁美ちゃんを手放してあげてもいいんじゃないかなとも、思います」
部屋がシンッと静まり返る。
スッと扉が開き、小野寺さんが戻って来た。
「仁美ちゃん、ちょっと具合が悪いみたいだから、僕送って行きますね」
「うん。わかったよ」と所長。
小野寺さんは、自分と仁美さんの荷物を抱える。扉を開けようとして、振り向いた。
「あ、支払いは――」
「今日は、僕の奢りだよ」
「すいません。ご馳走様でした」
「うん。気を付けて」
「はい」
小野寺さんは深々と頭を下げて、帰って行った。
入れ違いで店員が生四つを持って来た。
「小野寺さんの分、私が飲みます!」
普段は二杯がいいところの麻衣さんが、四杯目に口をつけた。
二十分後。
俺は眠ってしまった麻衣さんを送り届けるべく、タクシーに揺られていた。
さらに十五分後。
ドアにもたれて眠っていた麻衣さんが、むくっと起き上がった。
「麻衣さん?」
「……キモチ悪い……」
麻衣さんが口を手で覆い、前屈みになる。
「え!? 大丈夫ですか?」
「お客さん、車内で吐かないでよ!」
バックミラー越しに運転手さんに睨まれる。
「降りてもらうよ」
麻衣さんのマンションまで、直進であと五分ほど。すぐ目の前の交差点を左折すれば、俺のアパートの目の前。
「その交差点を左折してください。一本目の角のアパートで降ります」
余程、早く俺たちを降ろしたかったのだろう。運転手は黄色信号を左折した。
「お釣りはいいです」
六百二十円のお釣りを諦め、俺は麻衣さんを負ぶってタクシーから部屋に運んだ。背中と掌に麻衣さんの柔らかさを感じ、心拍数が上昇する。階段を上り切った時には、違う意味で心拍数がヤバいことになっていたが。
「麻衣さん、着きましたよ」
玄関で麻衣さんを降ろすと、彼女は気持ち良さそうに眠っていた。
「マジか……」
所長が「あ、僕も」と言った。
麻衣さんはスクリュードライバーを注文した。
「あの二人、別れますかね」と、明子さんが言った。
「それは、嫌だなぁ」と、所長。
「折角、小野さんに遅めの春が訪れたんだから、幸せになって欲しいなぁ」
「けど、小野寺さんが仁美さんの望むものをあげられないなら、幸せではないですよね」
「光川くんは厳しいなぁ」
穏やかな笑顔と口調だが、所長の目だけは穏やかではなかった。
「別れて欲しいの?」
「そんなわけないじゃないですか!」と、明子さんが興奮気味に言った。
「結婚をお勧めはしませんけど、幸せを壊したいなんて思ってませんよ」
「……そうだよね」
「ただ、年齢的にも小野寺さんの決断を待ってあげられる時間がないって悩む仁美ちゃんの気持ちを考えたら、小野寺さんから仁美ちゃんを手放してあげてもいいんじゃないかなとも、思います」
部屋がシンッと静まり返る。
スッと扉が開き、小野寺さんが戻って来た。
「仁美ちゃん、ちょっと具合が悪いみたいだから、僕送って行きますね」
「うん。わかったよ」と所長。
小野寺さんは、自分と仁美さんの荷物を抱える。扉を開けようとして、振り向いた。
「あ、支払いは――」
「今日は、僕の奢りだよ」
「すいません。ご馳走様でした」
「うん。気を付けて」
「はい」
小野寺さんは深々と頭を下げて、帰って行った。
入れ違いで店員が生四つを持って来た。
「小野寺さんの分、私が飲みます!」
普段は二杯がいいところの麻衣さんが、四杯目に口をつけた。
二十分後。
俺は眠ってしまった麻衣さんを送り届けるべく、タクシーに揺られていた。
さらに十五分後。
ドアにもたれて眠っていた麻衣さんが、むくっと起き上がった。
「麻衣さん?」
「……キモチ悪い……」
麻衣さんが口を手で覆い、前屈みになる。
「え!? 大丈夫ですか?」
「お客さん、車内で吐かないでよ!」
バックミラー越しに運転手さんに睨まれる。
「降りてもらうよ」
麻衣さんのマンションまで、直進であと五分ほど。すぐ目の前の交差点を左折すれば、俺のアパートの目の前。
「その交差点を左折してください。一本目の角のアパートで降ります」
余程、早く俺たちを降ろしたかったのだろう。運転手は黄色信号を左折した。
「お釣りはいいです」
六百二十円のお釣りを諦め、俺は麻衣さんを負ぶってタクシーから部屋に運んだ。背中と掌に麻衣さんの柔らかさを感じ、心拍数が上昇する。階段を上り切った時には、違う意味で心拍数がヤバいことになっていたが。
「麻衣さん、着きましたよ」
玄関で麻衣さんを降ろすと、彼女は気持ち良さそうに眠っていた。
「マジか……」
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