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「大斗くんて保育園に行ってるんだっけ?」

 私が聞いた。

「うん。毎日じゃないけどね」

「そんな、都合よく通えるの?」と、千尋が聞く。

「うん。無認可だから、融通が利くの。きっちり時間と日数を決めて通ってる人もいれば、週ごとに申請して通ってる人もいるの」

「へぇ」と、私と千尋が同時に言った。

 店員さんが二人、飲み物を運んできた。三十代に見える男性の店員さんはトレーを置くとすぐにいなくなった。二十代前半に見える女性の店員さんが、トレーからテーブルにビールを移す。近くに座っていた千尋とあきらが手伝う。

「すぐにお料理もお持ちします」

 女性の店員さんはそう言って、襖を締めた。

 幹事である陸と千尋が、先に何品か注文しておいたのだろう。

 後は、各自で追加注文する。

 以前はコース料理を注文していたが、飲むばっかりで料理を残しがちになり、やめた。

「んじゃ、とりあえず乾杯すっか」

 陸が、ビールを持って肘より高く上げた。

「今回は全員揃って良かったよ。次の幹事は龍也とあきら、な。大斗の風邪が早く治ることを願って、乾杯!」

「なにそれー」と、さなえが笑う。

「大斗くん、今頃くしゃみしてるよ」と、私。

「帰れコール来たら、陸のせいだな」と、大和。

「え!? マジで?」

「ほら! 早く始めないと、ホントに電話きちゃうよ」と、千尋が言い、なかなか乾杯にならない男たちを放って、あきらのグラスに乾杯した。

「だな! 乾杯!」

 カチャンッとグラスがぶつかる音。それから、ゴクッゴクッと喉を鳴らしてビールを流し込む音。

 私はこの瞬間が好きだ。

 大学時代に戻ったように思える。



 ただ、ひたすらに楽しかった、あの毎日に――。




「そういえば、麻衣。あれからどうだ?」

 ジョッキ半分のビールを胃に溜めて、陸が聞いた。

「一度打ち合わせで会ったけど、何も言われなかった」と、私は答えた。

「ホント、助かったよ」

「何の話だ?」と、大和が聞いた。

「それがさ――」

 失礼します、と声が聞こえて、襖が開く。店員が料理を運んできた。

 大根サラダとシーザーサラダ、焼き鳥のアラカルトと、チーズの盛り合わせ、フライドポテトと鶏の唐揚げ、たこわさ、エイヒレ……。

 ひとまず、テーブルいっぱいに皿が並んだ。

 陸がビールを注文する。

 私とさなえで揚げ物を取り分けて千尋とあきらに回し、千尋とあきらはサラダを取り分けて回してくれた。

「――で? 麻衣がなんだって?」と、大和が途中になった話の続きを催促した。

「顧客に誘われて陸のホテルで食事したの」と、私はレタスを噛みながら答えた。

「ちょっとしつこかったから、陸に助けてもらったってだけ」

「陸のホテルって高級たかいだろ!? そりゃ、男は期待するわ」

「金持ってんのねー」と、千尋が大根を噛みながら言った。

「好みじゃなかったの?」

「なんか……嫌な予感はしてたんだよね」

 ははは、と笑って見せた。

「もしかして、また?」

「……」

 返す言葉もない。

「麻衣ちゃん、何もされなかった!?」と、さなえが心配そうに聞いてくれた。
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