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番外編*甘いお仕置き
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しおりを挟む……ふぅ~ん。
恐らく送り主であろう男に目を向けると、意外にも険しい表情で倉木社長を見ていた。
そして、倉木社長も皇丞をじっと見ている。
その瞳に、私が不安を覚えるような熱は感じない。
値踏み……に呼ばれたわけじゃない?
「お客様へのご挨拶もひと通り済んだから、ひと息つきたいと思っていたの。奥に席を用意してあるので、話し相手になってくださらないかしら」
挑むような、拒否はさせないと言わんばかりの強気な声色。
「私からもお聞きしたいことがありましたので、ぜひ」
皇丞もまた、受けて立つぞとでも言うような強い口調。
「秘書がご案内いたします。お飲み物はいかがいたします? ご主人は……私と同じシャンパンでいいかしら?」
社長がフルートグラスを軽く揺らす。
グラスの中には金色に輝くシャンパン。
いかにも、私は皇丞の好みを知っているのよ、なんて安っぽい挑発。
過去の女に妬くのなら、きっとムッとしていただろう。
だが、私は自分でも驚くほどなんとも思わない。
元カノに会ったら、もっと気持ちが乱されると思っていた。
皇丞が愛した、俵さんにも靡かなかった女性だ。
姫さんがインパクト強すぎて感情がマヒしてる?
「いえ、私はノンアルコールのものをいただきます」
皇丞の言葉に、社長が目を伏せた。
が、それは一瞬で、すぐににこやかに私を見る。
「奥様は?」
「社長と同じものをいただきます」
隣で皇丞がギョッとしているのが、見なくてもわかる。
対照的に、社長は楽しそうだ。
「お持ちいたします」
「ご案内いたします」
社長の背後から現れた女性が、一礼する。
秘書だろう。
ベージュのセレモニースーツに、緩く結った髪、ノンフレームの眼鏡。あまり高くないヒール、控えめな化粧。
年は恐らく、皇丞と同じくらい。
雰囲気が俵さんに似ている気がした。
いや、秘書とはそういうものかもしれない。
私たちは彼女の後に続いて、ステージ横の扉から会場を出て、すぐ脇のドアに進む。
主催者用の控室だろう。内部はホテルの一室と同じ。
「すぐにお食事をお運びいたします。お座りになってお待ちください」
秘書はドアの前に立ったまま、一礼し、出て行った。
部屋の窓際のテーブルに、カトラリーが用意されている。
言われた通りに座っていようとしたら、皇丞に腰を抱かれた。
「悪い。こんなとこまで連れてきて」
全然悪いと思っていなさそうな表情に、思わずフッと笑ってしまう。
「社長に聞きたいことがあるんでしょう?」
「ああ」
「社長も私たちに話があるみたいだし、あなたと二人きりにさせるよりずっとマシよ」
「普通は元カノと嫁と一緒に食事なんて地獄なんだろうけどな? 二人きりの方がずっと地獄だ」
「ひどい言い草ね」
チュッと、本当に軽く唇同士が触れる。
「やっぱ、泊って行こうぜ」
「しつこい」
「梓」
「だ~――」
「――すげー綺麗だ」
ずるい。
本当に幸せそうに微笑まれたら、私の方が我慢できなくなる。
キス、したい……。
いつ開くかわからないドアの前で、夫の胸に手を置き、履きなれない草履で精いっぱい背伸びをした。
夫の下唇を軽く食む。
「皇丞も、すごく素敵」
実はずっとドキドキしている。
いつもより細身のネイビーのスリーピースにグレーのデザインシャツ、ワインレッドのネクタイ。
着る人によってはホストかと思うような装いだが、ちゃんと紳士に見えるのは育ちの良さだろう。
「マジで早く帰りたい……」
「そうね」
そんなことを言いながらも、皇丞は私の手を取ってテーブルまでエスコートしてくれた。
椅子を引いてもらうなんて慣れる日がくるのだろうかと思ったけれど、今ではすっかり板についた。
こうやって、少しずつ、皇丞に見合う女性になりたい。
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