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16.復讐の終わり
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「梓、本当に大丈夫か!?」
「大丈夫だってば」
「けど――」
「――くどい!」
一蹴されて、皇丞があからさまに肩を落とす。
晴れの日の朝だというのに、私たちは険悪だ。
「やっぱり、今日は――」
「――皇丞!」
今日は私と皇丞の結婚式。
入籍から半年という早業が成せたのは、ひとえにお義母さまのお陰。
正確には、お義母さまから指示を受けた俵さんのお陰なのだが。
それなりの人数が入れる会場と、かなりの知名度があり、最高の評判を誇る結婚式場。
それを見つけ出し、尚且つ、最短での日程を押さえるのが、ミッション。
私は、一年は先になると踏んでいたのだが、さすがと言うかまさかと言うか、俵さんは半年後を押さえた。
で、それが、今日。
皇丞は、それはもう楽しみにしていた。
楽しみにし過ぎて熱を出すのではと思うくらい、子供みたいにはしゃいで。
その彼が、会場に行くのを渋っている。
「ホントに大丈夫だし、まだわからないんだから。ね?」
「やっぱり、先に病院――」
「――皇丞!」
「だって! デキてたらどうするんだよ!? 腹を締め付けるようなドレスを着て、踵の高い靴を履くんだぞ!? そのせいで――」
「――デキてるかどうかもわからないうちは、むしろ大丈夫だから」
事の発端は、今朝。
私は、生理が十日遅れていることに気づいていたが、皇丞には言わずにいた。
結婚式前で少なからず緊張していたし、興奮もしていた。慣れないエステにも通っていたし、それなりにダイエットもしていた。
そのせいで遅れている可能性もあったし、妊娠しているとなると皇丞が式を延期すると言い出しかねなかったから。
だから、妊娠検査薬を買っておきながら、まだ確かめていなかった。
見つからないはずだった。
浮かれまくった皇丞が私のバッグを蹴飛ばして中身をばらまき、飛び出た茶色い紙袋を不審に思って中を見るだなんて、予想できなかった。
その瞬間、皇丞のテンションはだだ下がり。いや、違う意味でMAX。
今すぐに確かめろ。病院に行こう。結婚式は延期だ。ドレスでお腹を締め付けるなんてダメだ。
皇丞の言葉ひとつひとつに大丈夫だと言い続け、気づけば出発予定時刻の三十分前。
本当に妊娠していたら、ベッドから出してもらえなくなるんじゃ……?
心配してくれるのはありがたいが、ここまでとなると正直ウザい。
「結婚式の後で検査するから」
「絶対だぞ」
「ホントにまだわかんないんだから、親にも言っちゃだめだからね」
「……わかった」
「ホントに!?」
「わかったよ!」
私は勢いよくソファから立ち上がった。
「なら、この話はおしまい! 早く準備して――」
「――走るな!」
部屋中に響く声でぴしゃりと言われ、さすがに驚いた。
皇丞が立ち上がり、私をじっと見下ろす。
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彼の両手が私を包む。
その手は、まるでガラス細工に触れるように優しい。
「大きい声、出してごめん」
「ううん」
今更だが、皇丞はどこまで私のことを好きなのか。
天谷との婚約解消まで、私は彼が完璧すぎて苦手だった。
なのに、今は完璧とは程遠い。
ちょっと寄り道して帰りが遅いだけで、十分おきに着信が入る。
取引先の担当者が若い男性だと不機嫌になるし、接待だと言っても食事は絶対だめ。
旦那は大きな子供だって美嘉さんが言ってたの、本当だ。
「私、結婚式を楽しみにしてたの」
彼の背中に腕を回す。
「皇丞が綺麗だって言ってくれたドレスだし」
顎を上げて耳元で囁く。
「皇丞のタキシードも、楽しみだし」
舌を伸ばして、彼の耳たぶにちょんと触れる。
「んっ……」
皇丞の可愛い声が漏れる。
「早く、イこ?」
皇丞が私の肩を掴んで自分から引き離す。
赤い顔なだけでなく、涙目だ。
「梓! 俺は真面目に――」
「――私だって真面目です! しっかりしてよ、パパ!」
皇丞が目を丸くする。
「ぱっ――!?」
しまった。
「やっぱり、そうなのか? 妊娠してるのか!?」
「言葉のあやよ」
「いや、でも、やっぱり、先に病院に――」
「――くどい! うだうだ言うなら、ドレス着てあげないわよ」
「……?」
「脱がせたいんじゃなかったの?」
皇丞は、ドレスはオーダーメイドにすると言って譲らなかった。
東雲家の嫁がレンタルドレスでは格好がつかないとか、そんな理由なのだと思っていたら、なんと二人きりの時に着てほしいからだと白状した。
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「今夜、ベッドで着てあげるわ。だから、早く行こう」
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が、すぐに輝きは失せた。
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「ひどい……」
私は面倒くさくも愛おしい旦那様を引っ張って式場に向かった。
皇丞が今夜、ベッドで私のドレスを脱がせるかどうかがわかるまで、あと十三時間。
ーーーーー END ーーーーー
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