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16.復讐の終わり
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「私が保有している我が社の株式の五十パーセントと、マンションを梓さん名義にいたします」
正座する皇丞の言葉に、私たち三人は目を丸くした。
「必要であれば、婚前契約書を作成しても構いません」
「皇丞!」
「婚約解消の原因と、解消から今日までの期間、私の立場からして、ご両親の心配はご尤もです。それは、私が梓さんを大切にするとお約束して解消されるものではないのも、わかっています。ですから、目に見える形に――」
「――それにしたって!」
私の実家に来て十五分。
皇丞はずっと正座で両親に頭を下げている。
反対されているわけじゃない。
ただ、天谷との婚約解消から半年程度での結婚は早すぎではないかと言われた。
天谷とは婚約半年で解消となった。
だからと言うわけではないが、婚約期間を一年程度設けて、結婚式の準備を進めつつ、本当に結婚してやって行けるかを見極めたらどうだと言うのだ。
皇丞が言うように、両親の心配は尤もだ。
だが、それにしても、皇丞がそこまでする必要はない。
「あの、課長さん?」
お母さんの声に、皇丞が顔を上げる。
「梓からね? 前から梓を好きでいてくれたと聞いたんですが」
「はい」
「いつから?」
「え?」
「お母さん!」
「だって、こんなに急ぐって、よっぽどじゃないかと思って」
だからって、いつから娘を好きだったのか、なんて聞く!?
玄関先で皇丞を見たお母さんが、目つきを変えたのには気づいていた。
『あら、イイ男』とか思ったに違いない。
皇丞は、お母さんの好みど真ん中。
最近のお母さんの会話に出てくる俳優のタイプから推測して、だが。
しかも、タイミングがいいのか悪いのか、お母さんがハマっているドラマのシチュエーションが、御曹司と婚約者に捨てられた平社員という、私と皇丞の関係を反映させたようなものなのだ。
ドラマでは、御曹司の両親が結婚に反対し、あの手この手で二人を引き離そうとする。
この前の電話で、ドラマのストーリーを延々説明された。
そのドラマの御曹司役が、皇丞と雰囲気が似ていると思う。
「課長さんのご両親は? 反対していない? 反対されたらどうします? 実は、親が決めた婚約者とかいたりしないです?」
「お母さん! ドラマじゃないんだから――」
「――私の両親は諸手を挙げて喜んでいます。親に決められた婚約者もいません」
真剣に答える皇丞に、なぜかお母さんが頬を赤らめている。
そのお母さんを横目で見るお父さんは、眉間の皺がどこまでも深くなる。
「でもねぇ、梓に課長さんのお相手が務まるかしら。料理もダンスもできないですよ?」
「ダンス?」
さすがに話の方向がおかしいと気づいた皇丞が、首を傾げる。
「お母さん、ドラマじゃないんだから……」
「え? ないの? パーティーとか」
「あってもダンスなんて踊らないでしょ」
「なぁ~んだ」
どれだけドラマにハマっているのか。
私は思わずため息を漏らした。
「私が――」と、皇丞がお母さんではなくお父さんに向かって言った。
「――長く梓さんに好意を持っていたのは事実です。ですから、時期尚早とわかってながら、婚約を解消したばかりで傷心の梓さんの気持ちにつけ込むような真似をしました。結婚を急ぐのも同じです。交際期間は短いですが、私には梓さんしかいません。どうか――」
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