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15.罠の真相
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しおりを挟む「直の浮気を私に告げ口したら、その女たちと同じことをすることになると思った?」
「まぁ……、そんなとこ」
首の後ろに掻きながら、バツが悪そうにそっぽを向く。
「恋人の浮気を知らせてきた男に口説かれたって、不信感しかないだろ」
そういう状況の経験がないからわからないが、経験者の彼がそう言うならそうなのだろう。
「林海のことは……前に話した通りだ」
「チャンスだと思った?」
「ああ」
「ねぇ」
「……?」
「直が林海さんの誘いに乗らなかったら、どうするつもりだったの?」
前にも聞いた。
あの時、皇丞は『自信があった』と言った。
彼の思惑通りに事が運んだのはなんだか悔しいが、じゃあそうなっていなければどうしていたのか。
今更だ。
皇丞の気持ちを疑うつもりはない。
それでも、言葉にしてほしい。
「正直に言っていいか?」
「うん」
皇丞のカップを持つ手に力がこもったのがわかった。
私から視線を逸らし、カップを見つめる。
「わからない」
「え?」
「今の俺なら、何をしてでも諦めなかった、って言える。それは、梓と一緒にいることの幸せを知ったからで、それを知らない頃の俺が、俺に気のない梓を口説けたか……はわからない」
もっと上手いこと言えばいいのに……。
私を喜ばせる言葉を、きっとわかっているはず。
「ただ、天谷との結婚は阻止していたと思う。調査会社でもなんでも使って、天谷の浮気の証拠を揃えて、結婚しないように説得したかもしれない。俺とのことはともかく、天谷は梓に相応しくない。だから……、でも――」
「――そうね。状況が違えばどうしたかなんて、わからないわね」
「どうしていたかは、わからない。でも、どうしたかったかは、わかってる」
「え?」
皇丞がゆっくりと視線を上げた。
シャワーを浴びた後で前髪が下りていて、会社での彼より幼く見える。
「俺は、梓が欲しかった。諦めたくなかった」
心臓がきゅうっと収縮して痛い。
漫画なら『ドキッ』と文字が浮かぶだろう。
何度も愛を囁かれ、甘い言葉で蕩かされてきたのに、まだ慣れない。
いつか、慣れるのだろうか。
できればずっと、慣れたくない。
いつでも、いつまででも、皇丞の言葉にドキドキして喜んでいたい。
「天谷のように、梓に愛されたかった」
不安そうに私の反応を窺う彼は、本当に御曹司様形無しで、少し可愛いと思える。
もう少しその表情を見ていたい気もするけれど、そんな意地悪もする気が起きないほど彼は疲れ切っていた。
「次は問答無用でバツを書くから」
私の言葉に皇丞がふっと表情を緩めた。
「一生、言われそうだな」
そうね。
一生、言うわ。
一生……。
次にオムライスを作った時はハートを書いてあげようかな、なんて柄にもないことを思った。
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