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12.鎮静

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 声を上げたのは木原きはら常務。林海専務とは現場時代からの友人で、梓ときらりのプレゼンの場にも専務と一緒に来ていた。

「それにしても! カメラ《こんなもの》があるなんて知らされていないぞ」

「木原常務。職場で見られて困るようなことがありますか?」

「――っ!」

 カマをかけただけなのだが、反応からして後ろめたいことがあるようだ。

 後で欣吾に探らせよう。

「視点が低い……?」

 梓が呟き、すぐにハッとして手で口を覆う。

「これはパソコンのカメラの映像です。入社時に交わす雇用契約書と秘密保持契約書には『貸与されるパソコンや携帯電話などのデータ通信機器の使用状況は通信、閲覧履歴及び内臓カメラの録画にて管理する』と記載されています。隠し撮りでも何でもありません」

 契約書の細かい文章をすべて読んでいる社員がどれほどいるかは知らないが、契約書自体は二部ずつ作成され、社員と会社で保管される。

 隠し事でも何でもないのだ。

 むしろ、この規模の会社で、共有スペース以外にカメラがないことを不審に思うべきだ。

 俺が説明している間に、モニターの中でデスクの電話が鳴りだした。

 カメラには人物は映っていない。

 三回目のコール音で、ようやく手が伸びてきた。

『はい! トーウンコーポレーション、広報課です』

 飛び跳ねるような抑揚のある高い声。

『お世話になってまぁす』

 首から下の身体の縦半分だけが映っているが、服装と声だけでも林海きらりだとわかる。

『撮影日の変更ですね。了解でぇす』

 電話応対時まで間延びした話し方はするなと何度注意しても直らないのも、林海きらりだけ。

『はい! 大丈夫です。担当者に伝えます』

 この場にいる誰もが、映像の女性は林海きらりで、広塚家具からの電話を取ったのも林海きらりだとわかっただろう。

 父親が娘だとわかって目を見開いているのだ。疑いようがない。

『はい。メールも確認します』

 そう言った彼女は、すとんと椅子に座り、その顔をカメラが捉える。

 やはり、林海きらり。

『はい。失礼しま――あ、はい。木曽根です。平井に伝えますのでぇ』

 確固たる証拠。

 林海きらりは電話で、広塚家具の担当者に梓の名を騙り、伝えると言った平井に撮影の変更日を伝えなかった。

 受話器を置いたきらりは、メモ紙にペンを走らせるが、ふと何かを思い立ち、メモ紙をくしゃっと丸めた。

 最初は伝える気だったかっも知れないが、気が変わったのか。

 それとも、梓の名を騙った時点で伝えるつもりなどなかったのか。

『あ、メール』

 席を立ち、姿が消える。が、すぐに切り替わってきらりの顔を正面から捉えた。

 平井のパソコンのカメラだ。

 モニター越しに、きらりが俺たちをじっと見ている。

「この時に林海さんが操作しているのは、広塚家具の担当者の平井さんのパソコンです」

 欣吾が説明する。

「操作内容は、メールの受信と削除になります。削除も受信ボックスからゴミ箱へ、ゴミ箱から完全削除の操作を行っており、決して間違いではないことがわかります」

「でっち上げです! 私っ! こんなことしてません!!」

 きらりが叫びながら立ち上がる。

「この動画が取られた日とか、平井さんのパソコンを弄ってるとか、全部でたらめです! だって、栗山課長がそうだって言ってるだけじゃないですか!」
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