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9.火種
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しおりを挟む本当だろうか。
本当に、皇丞の取締役就任が危ういのだろうか。
明らかに動揺し、心臓はバクバクいっているけれど、それをきらりに悟られたくないというわずかな意地で、私はきらりと向き合った。
「あなたもあなたのパパも、秘密保持契約書にサインしているでしょうに」と言いながら大袈裟にため息をつくと、きらりが苦虫を潰したように顔を歪めた。
「余裕でいられるのも今のうちなんだから! 社長があんたみたいなスキャンダル塗れの女を、課長の相手として認めるわけないんだから!」
キーッと甲高い声でまくし立てる彼女に、私は真顔で言う。
「同僚といえども先輩に対する言葉遣いを学び直した方がいいと思うわ。天谷さんに恥をかかせたくはないでしょう?」
「なによ! 電話の対応もできないくせに、エラそうに言わないでよ! それに! 直くんの名前を出さないで! 慰謝料とか言ってたけど、本当は私と直くんの結婚を邪魔したいんでしょ!? 直くんが私の分の慰謝料も自分が払うって言うのわかってて吹っ掛けるつもりなんでしょう!」
「林海さん。あなたと天谷さんに対する慰謝料は正当な請求よ。心から反省して生まれてくる子供のためにと言うならともかく、自分のしたことを棚に上げて吹っ掛けるだなんて言い方、到底許せないわ」
「直くんが簡単に堕ちたのは、あんたに不満があったからよ! 私のせいにしないでよ! 課長も意味わかんない。私の方が絶対いいのに。若くて可愛くて、絶対私の方が勝ってるのに! 意味わかんない!!」
そう言い捨てると、きらりはつかつかと足早に出て行った。
意味がわからないのは、私もだ。
皇丞は自分の立場が危ういなんて、きっと私には絶対に言わない。
謝罪に父親を連れて行ったことも言わなかった。
父親である社長にしてみれば、直々に謝罪に出向く羽目になった原因が息子の恋人にあると知れば、落胆するだろう。
印象最悪だ。
頭が痛い。
慰謝料なんてもうどうでも良くなっていたのに、あんな風に言われたら意地悪だろうがなんだろうが、いくらだろうがむしり取ってやりたくなる。
私はテーブルの、会議中自分が座っていた席にいくと、資料と一緒に置いてあるレコーダーのスイッチに触れた。〈Rec〉のランプが赤から緑に変わる。
こんなことに使うハメになるとは……。
私はレコーダーをギュッと握ると、ジャケットのポケットに忍ばせた。
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