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9.火種
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皇丞が捕まえて一緒に謝罪に言った『誰か』は社長だった。
私がそれを知ったのは、彼の言葉ではなく、よりにもよって林海きらりからだった。
「社長にまで頭を下げさせるなんて、大変なことをしちゃいましたね?」
挑戦的な口調で彼女がそう言ったのは、別件の会議終了後。
珍しく片づけを手伝うと言ったら、私を挑発、貶めたかったらしい。
「大変なことって?」
先週の金曜日、広塚家具との一件は隠された。いや、トラブルがあったことは課内で周知されたが、その場にきらりはいなかった。
謝罪に行った皇丞は、定時もすっかり過ぎた頃に社に戻り、残していた仕事をしてから帰った。日付が変わるギリギリ。
疲れている彼に美味しい食事でも用意してあげられたら良いのだが、私の作るものではお腹を壊しかねない。
結局、ご飯だけ炊いて、お惣菜は買ってきた。
疲れすぎていて食欲がないと言う彼は、軽くお茶漬けを食べて寝た。
「大丈夫だ。白紙にはならずに済みそうだ」
ベッドで私を腕に抱き、彼はそれだけ言った。
土曜日は出社し、遅くに帰ってきて、日曜日は週末の睡眠不足を取り戻すように眠り続けた。
私の担当でもないし、疲れ切っている皇丞にあれこれ聞くのも申し訳なく、週末はため息ばかりついていた。
そして月曜日の今日は、皇丞と平井さんで先方に出向いている。
「社内の噂ですよ? 御曹司に色目を使うのが忙しくて、仕事の手を抜いているって」
「あなたは噂話に夢中になり過ぎて、仕事に身が入らないのかしら」
きらりが持っていたクリアファイルをバシッとテーブルに叩きつけた。
「課長は、恋人可愛さに父親にまで頭を下げさせた、なんて言われてるんですよ!? どうして平気な顔してられるんですか!」
噂を流したのはあなたでしょう、と言いたかったがやめた。
憶測でしかない。
今日のきらりは、膝下丈のワンピース。
私になにか言われまいとしているのか、お腹が苦しくなってきているのかはわからない。
直の様子がおかしいと感じたのは別れるふた月ほど前だから、五か月くらいだろうか。
「パパが教えてくれたんですけどね? 取締役の中で問題になっているそうですよ。今回の件は課長の管理下でのことで、処罰の対象が課長の恋人なもんだから、課長の責任能力を問われているって。取締役に就任できなかったら、木曽根さんのせいですね」
皇丞が捕まえて一緒に謝罪に言った『誰か』は社長だった。
私がそれを知ったのは、彼の言葉ではなく、よりにもよって林海きらりからだった。
「社長にまで頭を下げさせるなんて、大変なことをしちゃいましたね?」
挑戦的な口調で彼女がそう言ったのは、別件の会議終了後。
珍しく片づけを手伝うと言ったら、私を挑発、貶めたかったらしい。
「大変なことって?」
先週の金曜日、広塚家具との一件は隠された。いや、トラブルがあったことは課内で周知されたが、その場にきらりはいなかった。
謝罪に行った皇丞は、定時もすっかり過ぎた頃に社に戻り、残していた仕事をしてから帰った。日付が変わるギリギリ。
疲れている彼に美味しい食事でも用意してあげられたら良いのだが、私の作るものではお腹を壊しかねない。
結局、ご飯だけ炊いて、お惣菜は買ってきた。
疲れすぎていて食欲がないと言う彼は、軽くお茶漬けを食べて寝た。
「大丈夫だ。白紙にはならずに済みそうだ」
ベッドで私を腕に抱き、彼はそれだけ言った。
土曜日は出社し、遅くに帰ってきて、日曜日は週末の睡眠不足を取り戻すように眠り続けた。
私の担当でもないし、疲れ切っている皇丞にあれこれ聞くのも申し訳なく、週末はため息ばかりついていた。
そして月曜日の今日は、皇丞と平井さんで先方に出向いている。
「社内の噂ですよ? 御曹司に色目を使うのが忙しくて、仕事の手を抜いているって」
「あなたは噂話に夢中になり過ぎて、仕事に身が入らないのかしら」
きらりが持っていたクリアファイルをバシッとテーブルに叩きつけた。
「課長は、恋人可愛さに父親にまで頭を下げさせた、なんて言われてるんですよ!? どうして平気な顔してられるんですか!」
噂を流したのはあなたでしょう、と言いたかったがやめた。
憶測でしかない。
今日のきらりは、膝下丈のワンピース。
私になにか言われまいとしているのか、お腹が苦しくなってきているのかはわからない。
直の様子がおかしいと感じたのは別れるふた月ほど前だから、五か月くらいだろうか。
「パパが教えてくれたんですけどね? 取締役の中で問題になっているそうですよ。今回の件は課長の管理下でのことで、処罰の対象が課長の恋人なもんだから、課長の責任能力を問われているって。取締役に就任できなかったら、木曽根さんのせいですね」
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