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8.甘い夜、甘くない理由

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「くそっ」

 思わずそう口をついたのは、自分の忍耐力のなさを呪ってだ。

 初めて味わう梓の身体は、想像していたより柔らかくて、敏感だった。

 梓のマンションで初めて彼女を抱きしめた時、見た目より肉付きが良くて柔らかく、胸の大きさに驚いたと言ったら怒るだろう。

 ゆったりとしたシャツにワイドパンツか膝丈のスカートを穿いている格好が多い梓は、華奢に見えた。

 それがどうというわけではない。

 ただ、嬉しい誤算だった。

 天谷が先に触れた事実には大いにかなりムカつくが、もう二度と俺以外の男が触れることはないと思えば、調教し甲斐もあるものだ。

 実際、俺の与える刺激に驚き、盛大に達したところを見ると、まだまだ知らないことがあるだろう。

 俺だってさほど経験が多いわけじゃない。

 人並みに恋人と呼べる女性はいた。が、理性を崩壊させられるほど夢中になれる女はいなかった。

 今だって、そうだ。

 もっとじっくりゆっくり梓を揺さぶっていたいのに、身体がもう限界だと悲鳴を上げる。

 イキたい。

 俺史上、最大値まで膨らんだ欲望は、言葉通り痛いほどの熱だった。

 キモチイイ、イタイ、キモチイイ。

 俺は梓の腰を両手でしっかり掴むと、これ以上は挿入はいらないという限界まで深く彼女の膣内《なか》に埋め、やっと痛みから解放された。

 引き換えに増す快感に、目を閉じ、身震いする。



 耳たぶが……マズかったな。



 誰にも知られていない、俺の弱点。

 学生の頃、欣吾に言われた。

『皇丞って、耳たぶ触るの癖だよな?』

 自覚がなかった。

 だが、そう言われればそうなんだなと思う程度のことだった。

 ふざけた欣吾に耳たぶを撫でられるまでは。

『ふぉっ』

 変な声が出てびっくりしたのは欣吾以上に俺自身だった。

 それからしばらくは、欣吾から耳たぶを死守するのが大変だった。

 セックスの最中に耳たぶを咥えた女は今までいなかったし、完全に油断していた。

 まさか、あのタイミングで耳を攻められるとは。しかも、俺が耳が弱いとわかってなおもやめなかった。



 あれがなかったら、もう少し冷静に時間をかけられたのに。



 そんなことを思いながら、俺は粛々と処理をする。

 その間にも、梓に耳たぶを食まれた感触を思い出し、また興奮する。

 が、見れば梓は、既にくたりと脱力して、瞼が重そうだ。

 全然足りない。

 だが、焦ることはない。

 これからは、抱きたい時に抱ける。

 最初から無理をさせて嫌がられたくない。

 俺はベッド下に放ったボクサーパンツに足を通すと、やはりベッド下に落ちている布団を引き上げ、梓の身体にかけた。

 彼女の唇が微かに開いたように見えたが、目が慣れたとはいえ薄暗いから、気のせいかもしれない。

 俺は洗面所でタオルをお湯で温め、梓の汗を簡単に拭いた。

 それから、俺のTシャツを着せる。



 よし!



 明日の朝が楽しみだ。

 そっと寝室のドアを閉め、シャワーでまだ冷めやらぬ興奮を静める。

 さっきまでの、梓の身体を引き裂かんばかりの熱杭は、今もわずかに主張しているが、それでも余韻が残っているだけ。

 あの、爆発しそうなほどの膨張と痛みも治まった。



 あんなになるもんなんだな。



 自分の身体とはいえ、あんなに興奮したのは初めてだった。



 俺、どんだけ我慢してたんだよ。



 昨日、梓に言った『日々忍耐』は伊達じゃなかった。

 シャワーを頭からかぶりながら、壁に手をついてふぅっと息を吐く。

 気を緩めると艶めかしい梓の身体や表情を思い出し、身体が反応しそうだ。

 明日はまだ金曜日だから、これ以上はダメだ。
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