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7.つながる想い

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 格好悪い。

 涙でぐしょぐしょの顔。

 掠れた声。

 でも、今更だ。

 直との別れに泣く姿を、生理がきてしまったと泣く姿を、見せた。

 きっと、あの時、皇丞は笑ってなかった。

「あなたを、愛してるわ」

 私の言葉に、皇丞の笑みが消える。

 笑って欲しいのに。

 首を回し、私の手を握る彼の手に、口づけた。

 なんだか照れくさくて、そのまま横目で彼を見上げる。

「最後の女に、なりたい」

 皇丞の手が私の掌をさわりと撫でて、彼の指が私の指の間にぴたりとはまる。

 絶対離さない、と言われているよう。

「やっと、聞けた――」

 皇丞が、笑う。

 私も、笑った。

 彼の指が、少し痛いくらい私の手を握る。

 私も、強く握り返した。

 皇丞の顔が近づいてきて、鼻先同士が触れた。

「忍耐力が底をつく前で、助かったよ」

「待てって言ったら待つんじゃなかった?」

「言わせるわけないだろ」

 片方だけ口角を上げ、自信満々に微笑むと同時に、皇丞が目を閉じた。

 だから、私も目を閉じた。

 唇がほんの少し触れただけで、かあっと身体が熱くなる。

 ゆっくりと、しっかり唇が押し付けられ、下唇が食まれる。

「ん……っ」と声が漏れた時には、本当に微かに開いた唇の隙間を、こじ開けられた。

 もう、なされるがままだ。

 無意識に奥に引っ込めた舌を包まれる。

 温かくて柔らかい彼の感触に導かれ、自らそれに自身を絡ませる。

「はっ……ん」

 鼻から抜ける甘い声は、自分のものではないよう。

 場所を忘れて身体を捻ると、片足がソファから落ちた。

「あぶね……」

 唇がわずかに触れ合ったまま、皇丞が言った。

 はぁ、と解放された唇で酸素を取り込む。

 以前から思っていたが、皇丞はキスがうまい。

 経験値の違いなのだろう。

 そう思うとすごく嫌なのに、ひとたび唇が触れてしまえば、そんなことを考える余裕なんてなくなる。

「ベッド行こう」

 手が離れ、腰を抱き起こされる。

 私はその勢いのまま、彼の胸に顔を押し付けた。

「お風呂」

「無理」

 思わずふっと笑ってしまう。

「綺麗にしたい」

「必要ない」

「ひどっ」

 うなじを掴まれ、私の顔を覗き込むように身を屈めた皇丞の唇が私の唇を捉え、すくい上げられる。

「初めてがソファじゃヤだろ?」

「初めてじゃなくてもイヤ」

「そのうち、気に入るかも?」

「ない!」

 チュッチュッとリップ音を立てながら、くすぐるように繰り返されるキス。

 唇、頬、鼻、瞼。

「ね、お風呂……」

「初めてが風呂?」

「違う」

「じゃ、無理」

「どっちがわがまま!」

 皇丞が、笑う。

 私は、むくれる。

「顔、洗いたい」

「今、綺麗にしてる」

「犬や猫じゃないんだから」

「後ろからがいいのか?」

「もうっ! ちゃんと――」

「――愛してる」

 目を細め、心底嬉しそうに微笑まれると、何も言えない。

「ずるい」

「知ってる」

 いたずらっ子のように顔をくしゃっとさせて笑う皇丞に、愛おしさがこみ上げる。

「私も愛してる」

「それも、知ってる」

 もう、敵わない。

 私は彼に身を任せた。

 皇丞は私の手を引いてベッドに移動した。

 灯りは点けなかった。

 リビングから漏れ入る灯りだけでも、皇丞の瞳に滾る情欲が見て取れた。

 身体が疼く。

 彼に手を伸ばす。

 再び唇が触れる一瞬前、甘い雰囲気に似つかわしくない甲高い機械音に静寂を切り裂かれ、伸ばしたその手は無情にも空を切った。

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