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5.月夜

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「赤かなぁ。いや、黄色も捨てがたい……」

 その二色に絞ったのは、きっと皇丞が紺か緑を選ぶと思ったから。

「この四色で一番好きな色は?」

「え?」

 少し言い方が変わっただけなのだが、なにか意図があってのことかと深読みしてしまって即答できない。

 それを察したのか、皇丞が言い直した。

「自分が使うのじゃなくて、一番綺麗だなと思う色」

 四つのグラスを見比べる。

「紺……が綺麗」

「俺は緑が綺麗だし好きかな。主張しすぎない濃さがいい具合で」

 確かに緑も綺麗だ。紺ほど色濃くないけれど、見る角度や光加減で浮き出るようだ。

「じゃ、これにしよう」

 皇丞がそばにいた店員さんに声をかけ、紺と緑のグラス、手に持っていた雑誌を渡した。

「マグカップもいるよな?」

 やはり手を引かれてグラスの背面に並ぶカップを見に行く。

「どれがいい?」

 マグカップもやはり大きさや形が様々で、パッと見てコレと思うものがない。

「梓って優柔不断じゃないよな?」

「え? はい」

「だよな。仕事でも、割と即断即決なとこあるし」

「え、それ、突っ走ってるって言いたい?」

「いや?」

 くすっと笑われて、少しだけムッとする。

「コレに関して言ってるなら――」とカップたちを指さす。

「――どれも可愛くて迷っちゃう、とかじゃないですよ? 正直、どれでもいいというか?」

「へぇ? 女ってこういうの選ぶの好きかと思ってた」

 更にムッとした。

「そういう女と付き合ってきたんですね、課長は!」

 ぷいっと顔を背け、ついでに手も離そうとしたが、しっかりと指を絡まれてしまっていて、それはできなかった。

「妬いてんの?」

「妬いてません!」

「てか、なんで課長呼び?」

「知りません」

 我ながら子供染みた怒り方をしてしまった。

 皇丞はククッと喉を鳴らして肩を揺すり、それから単色に格子状のラインが入ったマグカップを指さす。

「これは?」

「素敵ですけど、コーヒーマシンに入ります?」

「あ、そうだな。こんなゴツいのじゃダメか」

「これは?」

 今度は私が指さす。

 皇丞が選んだものとよく似ているが、それより一回り小さくて、飲み口が少し広がっている。

「いいな」

「じゃ、私はコレで」

 白に黒のラインが入ったものを手に取る。

「んじゃ、俺はこっち」と、皇丞は黒に白のラインが入ったものを選んだ。

 それも店員さんに預け、お皿や茶わん、箸なんかもペアで選び、会計を終えて店を出ると皇丞の両手に食器という量になっていた。

 一旦、車に荷物を置き、次は寝具。

 私の枕と、タオルケットを買う。皇丞が会計している間に、私はシングルサイスのシーツと布団カバーを選んで買った。

 自分の部屋のベッド用だと言うと不機嫌になったが、直と使っていたものを捨てると言ったら、少し機嫌を直してくれた。

 このままずるずると同棲生活を続けるのは良くない。

 これは一種のけじめだ。

「あとは……なにが必要だ?」

「もう十分です」

「ま、足りなきゃまた買いにくればいいよな」

 けじめの寝具を抱えながら、『また』があることに少しだけ喜んでしまう私は、矛盾している。

 エレベーターに差し込む夕陽に目を細め、時計に視線を落とす。

「食事にしません?」

「ん? ああ、いい時間だな」

「あ、夜ご飯は私にご馳走させて。今日一日全部出してもらっちゃったでしょ。だから、お礼に」

 皇丞ほどの男には大した金額ではないのかもしれないが、それなりに稼いでいる私にしても今日の買い物はなかなかな額だ。

 それもこれも、百均とは無縁そうな、グラスひとつに一万円近いものを選んでしまう御曹司様のせいだが。

「俺はまた今度、な」

「え?」

「初デートだ。最後まで格好つけさせろよ」

 あんまり嬉しそうに笑うから、何も言えなくなった。



 格好つけさせろなんて言いながら、子供みたいに笑うなんて……ずるい。


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