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置いて行かれるとは。

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 オパール、ヴァンリットの3人でお店に入る。今日は外食!と楽しみにやって来ました。
 田舎は人がまばらで良い。避けやすい!

 クルルとしか話せないオパールの代わりに『子供が居るので広めの席でもいいですか?』と聞くと快く案内してくれる。

 見えない私も座れる魔法の言葉。

 店内でオパールの影に隠れる様に美味しいご飯を食べながらお腹が満たされる。

 『美味しいですね!』
 「クルルッ♪」
 「おいしー!」

 ポロポロと溢すヴァンリットの世話をしながら隙を見て食べる。のんびりと食べる事は出来なくてもやはり外食は美味しい。私が本格的に食べたい時はオパールもヴァンリットを見ていてくれて本当に助かっている。

 「おかーさん。今日、おとーさんと遊んだ。」

 おとーさんと遊んだ?スヴァインさんと??と思ったけれど、きっとお友達のお父さんの事だろう。

 『そうなんですか?優しいお父さんでしたか?』
 「優しい。馬さんもね、いた。」
 『お馬さんは可愛くていいですね。』

 私も馬は好きだ。クローしかまともに関わった事は無いのだけれど、優しくて勇敢でカッコいいあの子は世間の馬の印象を格段にアップさせる。

 『そのお父さんはどんなお父さんだったんですか?』
 「うーん?優しい。」

 それはさっきも聞いたけれど可愛いからいい。


◆◆◆


 『ご馳走様でしたー!』
 「ご馳走さまでした。」

 満たされた気分とお腹にすぐにでも横になりたい体を動かしてオパールがお金を払う。ヴァンリットを抱えて先に外へ出るので、私もそれを追うのだけれど店内に貼られた新メニューの張り紙が目に入ってしまった。少し見るくらいなら二人とも待っていてくれる・・・と内容を読み進めると。

 (ほ~。お野菜が豊作で期間限定の山盛り野菜の新メニューですか。あ~、これも美味しそうでしたね・・・いつまでやってるのでしょう。期間は・・・)

 のんびりと店内の張り紙に集中していたら。

 「クルルーーーー!!」

 オパールの絶叫が聞こえて来た。

 (また大きな魔物ごっこしてるのでしょうか?)

 人通りが少ないとは言え、人間の姿で「クルル」と鳴くのは怪しまれる。だから新メニューの期間を確認してから外へ出ると。



 (・・・誰も居ない。)



 そこにはオパールもヴァンリットも居なくなってました。オパールがヴァンリットと一緒なら大丈夫だろうけど・・・。


 (大きな魔物ごっこしながら帰った・・・のかな?・・・私を置いて?)

 
 いやいやいやそんな訳無い、そんな事今までに無かった。きっと何かあったはず・・・けど、どこを探したら良いか見当もつかない。ふと目に入ったこの町にある一番高い建物。緊急時にも使用されるけれど、基本的には朝・昼・晩の時刻を知らせる鐘がある所。緊急事態を誰でも知らせられる様に、いつも開放されていて登れる階段がある。

 (あれに登って、家に灯りがあるか見よう。)

 そこへ登れば今借りている家がチラリと見えたはず。町の様子も見れるから何か分かるかも知れない。

 まばらな人並みを慎重に避けて歩くと私はそこへ登って行った。


◆◆◆


 『はぁ、疲れた。』

 息を整えながら自宅を見るけれど、灯りはやっぱりない。そのまま町を見渡して見るけれどオパールとヴァンリットの姿は見えなかった。

 (オパールの髪色は珍しいからすぐに見つかると思ったのだけど・・・)


 この町で一番大きな建物だから、見渡すと空が大きく見える。今日は満月でとても空が明るい。

 (こんな素敵な月をスヴァインさんとヴァンリットと見れたら・・・家族でもっと思い出を作りたい。怖がって無いで早く会いに行かなきゃ。)

 こんなに美しい時を過ごす時間は今しかない。それなのに恐怖で無駄にしてしまう。それは勿体ない事だよね。


 綺麗な真ん丸の月を見ながら思う。月はスヴァインさんみたいだと。綺麗で静かにそこにいて、何故か安心する。ずっと眺めていたい、そして少しドキドキしてワクワクする。


 (スヴァインさんに会いたい。)

 
 うん、早く会いに行こう!
 大きく息を吸う。


 『ヴァンリットーーー!』


 ヴァンリットを見つけて会いに行こう。

 お腹から精一杯の大声を一回だけ出した。町で一番高い建物に居るから下からは誰が居るか見えにくい。だから姿が見えない私でも怖がらせる事は少ないはず。

 それにヴァンリットが近くに居るなら、きっとすぐに気がついて「おかーさん!」と笑って手を振ってくれる。

 期待の気持ちを込めて耳を澄ませる。



 「マーリット」



 聞こえて来たのは可愛らしい我が子の声では無かった。宝石の様なクルルと鳴く美しいドラゴンの声でもない。
 とても懐かしい声が聞こえた気がする。


 コツコツと私ではない、誰かの足音が近付いて。


 町を注意して見ていた目線を背後に向けた。

 
 「見つけた、マーリット。」


 そこにはさっきまで見ていた月よりも私をドキリとさせる人物が居た。とても会いたかったその人。そして予想もしてなかった事に創造以上に驚いた。


 『あ゛ーーーー!!!・・・って、スヴァインさん!?』
 「凄く驚かせたみたいだな。」


 驚き過ぎて変に声が大きくなっていた。
 すやすやと眠るヴァンリットを片手に抱え直すとスヴァインさんは私の方へ手が伸ばし頬に触れる。

 『私が、見える・・・のでしょうか?』

 そう聞くと眉を下げて左右に首を振る。

 「見えない、だけど分かった。君の声が聞こえたから。」

 ヴァンリットを抱えながら片腕で私を抱き寄せると丁度息子を挟んで家族で身を寄せ会う形になる。


 「会いたかった、マーリット。この3年間どれ程探したことか。」

 ぎゅぅっと腕に力が入り気持ちが伝わってくるみたい。私の中にあった不安が今は何処かへ行ってしまった。こんなに嬉しくて温かい瞬間があるなんて。


 『私も、会いたかったです。すぐに帰れなくてごめんなさい。』
 「いい、ヴァンリットの事もあったんだ。俺がもっと早く見つけるべきだった。」
 『そんな事、』

 
 そんな事無いと言おうとして顔を上げると彼の唇が私の唇の端へ当たった。

 「ん、外したな。」
 『わぁ・・・』
 
 つい呆気に取られてしまう。すると頬に手がペタリと確かめる様に触れて、動けないでいる私の口を親指でキュッと拭う。さっきの口の端に来たキスを消すように動いた。

 「今のは・・・無しだ。」

 少し残念そうに、だけど恥ずかしそうに頬を染めて真っ直ぐこちらを見る彼の瞳から熱を感じる。

 ここに来るまでに感じていた不安が吹き飛んでいく程に、愛しいという気持ちが伝わってくる。

 再会が甘すぎて。

 広い世界で、見えない私を見つけてくれた事が嬉しくて。

 喜びと幸せと愛しい感情がドッと押し寄せて、私はどうにかなってしまいそう。


 この綺麗な満月に見守られた再会は一生忘れない家族の思い出になったと思う。
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