40 / 54
小さな男の子【スヴァイン視点】
しおりを挟む軽快なステップを踏むクローより俺をジッと見て「おとーさん」と言う男の子。
(髪色が父親にでも似ているのだろうか。)
目線を合わせて屈むと男の子はニコッと微笑む。
「君の名前は?」
「あーいっと。」
「・・・あーいっと?」
「違うよ、あーいっと。」
「・・・あーいっ」
「ちがう。」
「難しいな、君の名前は。」
多分、上手く発音出来ていない。それは俺も同じ。
「おとーさん、どこからきたの?」
「あっちだ。」
否定して良いのかどうか分からず「おとーさん」に関しては流す事にした。わざわざ子供の言う事を否定しなくても良いだろうから。すると知らない男に話しかけられる子供に危機感を感じてか面倒を見ていた神職の1人が駆け寄って来た。
先程の年老いた人物ではなく、若い女性の神職だ。
「すみません、この子のお父さんですか?」
お父さんか?と聞かれてこの子の前で否定して良いのか悩む。確認された、と言う事はこの神職はこの子の父親を知らない。もしかすると父親が居ないのかも知れない。父親が居ない子に父親じゃないと目の前で言うのは気が引ける。
「・・・。」
「おとーさん。」
彼は俺を指差しておとーさんとハッキリ断言した。
「もしかして奥さまに内緒で会いに来たのでしょうか?たまにいらっしゃるんですよ。離縁したけど子の顔を見に遊びに来るお父様が。受け渡しは出来ませんけれどね?」
「あ、いや。それは勿論。」
子供の前だからか笑顔だけれど、笑顔なのにギロリと睨みを効かせる目が怖い。
「お父さん似なのね?」
「んっ」
そう言われた彼は照れた様にニヤリと笑った。何か気を良くしたのか、そわそわとする彼は目をキラキラさせて俺をみる。
女性の神職はチラチラとこちらを確認しながら他の子の面倒を見に行った。
「おとーさん、遊ぼ!」
「遊んでもいいがそっちへは行けない。何か出来る遊びはあるのか?」
「その子なら柵とおれるでしょ?一緒に遊んでいい?」
「その子?」
男の子は小さな人差し指をツンと立てて俺の肩を指差す。
「かわいー石のようせい。」
確かに石の妖精と言った、その言葉にドキリとした。俺にも見えない石の妖精。ずっと俺にくっついているとマーリットが言っていた妖精。
「見えるのか?石の妖精が。」
「んっ、来てくれてありがとう。」
男の子が柵から手を伸ばすのでそちらに体を寄せると手に何か乗った様だ。
すると。
「えいっ」
ぽいッ
多分投げた。
そして男の子は、何やら慌てて投げた場所へ走っていく。
「ごめんね、ごめんね。おとーさん、石の妖精泣いちゃった。」
「投げて良いか聞いたのか?」
「聞いてない。石だから投げても痛くないと思って。」
「次から聞こうか。」
「うん。」
手を出すと、そこに男の子が温かい何かを乗せる。前にマーリットに教えてもらった温かさ。
(懐かしいな・・・妖精を手に乗せて、ここに居ると教えてもらった。)
石を見たら投げたくなる気持ちは分かる。石の妖精を見た時の衝動は分からないけれど。
「おとーさん。宝物みる?」
「宝物?あぁ、見たい。」
泣いていると言う妖精を引き取ると気持ちを切り替えた様にそう聞いて来た男の子。
たったったっと建物に走り去る小さな背中を見届ける。
(可愛いな。あんな子なら10人居てもいい。)
すると、その子が居ない間にさっきの若い神職が近寄ってきた。
「仲直り出来るのでしたら早く奥様と仲直りしてくださいね?あの子、いつもおとーさんに会いに行くって楽しそうに話してくれるんですよ。」
そのお節介な言葉にも苦笑いしか出来ない。
しかし、とても可愛い子供だと思う。他にも可愛らしい子供は居るのに、あの子は群を抜いて可愛い。男の子だけど大人しい所は俺の幼少期と重なる。自分に似ていると感じる部分があるから可愛いと感じるのだろうか?
(だけど、マーリットを探さなくてはいけない。宝物を見たら探しにいこう。)
可愛さに次は、次は、と探しに行く事が先伸ばしになっている。
暫くして神殿の扉が開くと布に包まれた長い何かをズルズルと引きずってやって来た。よいしょ、よいしょ、と小さな体でその大きな物を運ぶ姿はやはり可愛い。
この子の為に可愛いを表現する言葉を増やさなければと思うほど可愛い。
「ヴァンリット君。それは持ってきても良いけど遊んだら他のお友達に怪我させちゃうからダメよって言ったでしょ?」
出口の辺りで注意を受けてションボリと頭を下げる先程の男の子。だけど、お陰で名前の謎が解けた。それが嬉しい。彼の名前を呼べる事が。
(ヴァンリットって言うのか。あーいっと、と言っていたのはなかなか雰囲気は掴めている。)
「おとーさんが宝物見たいって。」
しかし悪気無く俺を指差しそう言うものだから、神職のギロリとした目が再びこちらに向けられる。
「い、いや大丈夫だ、ありがとうヴァンリット。」
両手を前で振って極力笑顔で伝えるけれど、相手からしたら約束を破る切欠を作ってしまった人物。この場を離れた方がいいと察して移動しようと思うのだけど。
「まだ、見せれてない!」
と彼は怒り出す。地面をダンダン踏んで怒りを表す姿は可愛い。宝物を不用意に持って行かないように注意する神職に抵抗する。
「また今度見せてくれ、ヴァンリット。今日は行かなくてはいけない。」
苦し紛れにそう言うと涙をたっぷり溜めた瞳でこちらを見る。その目は反則だ、止めてくれ。帰れなくなる、ここに住むしかない。
「明日も来てくれる?」
「勿論。」
明日も来る、なんて睨みをきかせる神職の前で言って良いのか困ったけれど、この時は言わないといけない気がしていた。
10
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる