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お祭り

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 綺麗に着飾った人々。
 人だけでなく街並も美しい装飾で飾られカラフルになる。いつも以上に出歩く人が多くなる今日は、出店の数も多くなっていた。

 街中が楽しむ人の声に溢れ、妖精達も楽しめる1日。私はとあるカップルを見に来ていた。


 『く~!!これは順調ですねーー。』

 
 お祭りの中、私とスヴァインさんはクローと共にアリスちゃんカップルを見守る。
 人混みをはぐれない様にと繋ぐおててが愛らしい。スヴァインさんは二人の恋より美味しそうな香りが何処から来るのか?とキョロキョロしていた。

 ここからはルートに入ったのだから手出しはしないとしよう。本当はハッピーエンドまで手紙を作る予定だったけれどスヴァインさんに心配をかけてしまう。手出しはしなくとも最低でも友達エンドにはなるし、死にはしないから放置する事にした。
 それにゲーム通りに行ったとしても、ここはゲームの世界では無い、と言うのを忘れちゃいけない。何が起こるか分からないのだ。

 それにしても。

 せっかくのお祭りだと言うのに人混みのせいで乗馬体験状態(私はクローの上で、スヴァインさんが手綱を握り歩く。)なのは不満です。こんな人混みではクローから降りて軽傷で帰れる自信は有りませんけどね。

 (私も、ラブラブしたい。)

 「マーリット、何か食べたいものはあるか?それを夕食にしよう。」
 『良いですね。』

 二人の順調な交際も見守れたし、私達は私達で楽しまなくては!と美味しそうな屋台を探している時。




 私は完全に油断していました。
 ゲームではない、何が起こるか分からないと自分で言っていたのに。




 「きゃーーー!!」


 誰かの叫び声。
 それが次第に広がり人々は怯え、走って逃げて行く。


 「魔物だ!魔物が出たぞ!」



 快晴の青い空に大きな影。大きく翼を広げた魔物が飛んできた。羽をバサバサと羽ばたく度に突風が吹き荒れる。ビュンビュンと装飾品を荒し、広場に降り立つそれを今やっと確認することができた。


 あれは、ドラゴン!?

 それも普通のドラゴンではない。黒い肌に所々朽ちている。動く屍と同種の朽ちたドラゴン。



 『嘘・・・だってあれは。』


 ラスボスのドラゴンだよ?

 まだ物語の中盤・・・アリスちゃんが今日、全治の魔法を覚える段階。最後に聖なる光で倒せると言うのに。

 全治の魔法も確か、覚えるのは夜の告白イベントが終わってから。

 それすらも覚えていない段階で来るなんて。

 「ひぃーーー!!逃げろ!」
 「わあーーーーー!!」

 逃げ惑う人々に私達は押し流されそうだ。しかしクローもスヴァインさんもこの状況を冷静に見ている。


 「この匂い、鳴き声。朽ちたドラゴンか。」
 
 彼の言葉に同意する様にヒヒーーンといななく。

 「しかし、マーリットはどうする。」

 ぶるる!とクローが返答をしてスヴァインさんと勝手に話を進めている様な仕草をする。

 『待って下さい、行くつもりですか?』
 「あぁ、今戦える者が行かなければ国が滅びる。」
 『うっ。・・・それなら私も。』

 彼の手を握るけれど静かに離されてしまった。

 「朽ちたドラゴンは汚れが酷くて妖精は近寄れない。妖精が力になれない今、君は一般人と変わらないんだ。他の者と一緒に逃げた方がいい。」

 確かに、屍系は妖精が嫌がって近付けない。

 「大丈夫、他の兵士達が来たら後ろに下がる。安心してくれ。俺は他人に見えない君が無事に避難出来るかの方が心配だ。」
 『私は・・・ほとんどの人が避難した今なら何処へでも逃げれますから・・・。』
 「そうか、安心だな。」


 彼がドラゴンを討伐に向かう。行かせたくない。

 だけど。

 遠くに見える朽ちたドラゴンの周辺には数人の戦える者が集まっていた。

 そこにはアリスちゃん達も。

 力が足りてないのは分かっている筈なのに懸命に前を向いてドラゴンに立ち向かっていた。


 『気をつけて、私は妖精王に力を借りれるか聞いてみます。』
 「心強いな。終わったら屋敷に帰っていてくれ。俺も必ずそこに帰るから。」
 『分かりました、クローさんも、気をつけて。』

 ヒンッ!とクローも元気に答えてくれる。

 私が降りると、ふっと笑ってからクローに乗って行ってしまった。クローが彼の目になるはず。きっと大丈夫。
 

 『私も頑張れ!』


 遠目で小さく見えるだけのドラゴン。それでもグロテスクな見た目とドロリとした魔力が恐ろしくてガタガタと手足が震える。
 震える手で足をトンと叩いて『頑張って』と自分を励ました。私も戦いたい、彼が傷付かない為に。
 国の為とかそんな事は思わない、ただ大切な人を守るために戦いたい。

 『良い心がけだね。』
 『ぎゃあ!!』

 ビビりな私を理解してそんな登場方法を選んだのか性格の悪い妖精王が背後に静かに立っていた。

 『話はあれを見たら分かるよ。彼を守るために戦いたいんだよね?』
 『は、はははい!!い、一刻も早く。』
 『力を貸しても良いよ。だけど、こっちは近付くと汚れてしまう。だから戦うのはマーリットだよ?それでも出来る?』
 『何でも良いです。力を借りれるなら。』

 ハッハと笑う妖精王。

 『あともう1つ。最大限の力を君に与えるけれど、私はこの国の汚れが浄化されるまでは戻れない。力を回復する為にも眠るからねぇ、暫く助けられない。それを踏まえて気を付けるんだよ?』
 『分かりました。』

 ゴクリと唾を飲み、その力を与えられる瞬間を待ち望む。



 ポンッ


 何やら間抜けな音が。


 『はい、出来た。お休み~』
 『何も変わった感が有りませんが!?』

 煙の様に消える妖精王に止める事すらできず立ち尽くす。
 説明だけでもして欲しかった。

 ドンッ!!!!

 遠くから大きな爆発音。地面は揺れ、突風がここまで吹き荒れる。

 『くぅ・・・怖い。怖いけど、スヴァインさんとクローさんが怪我する方がもっと怖い。』


 大丈夫、私ならやれる。妖精王攻略ルートだった時、あの朽ちたドラゴンとどう戦ってたか思い出すんだ。

 『出来るぞ、私!』

 地面が揺れるから踏ん張りながらだけど可能な範囲で走る。その間もドンッ!!と強い地響きと突風が邪魔をする。早く、早くと震える足を動かし続けた。

 大きなドラゴンの姿が見える範囲まで来るとドンッ!!と尻尾で地面を叩き土埃が舞う。

 何も、見えない。

 『誰か、居ますか!』

 見えない中で大声を出してもドラゴンの立てる物音でかき消されてしまう。
 それなのに、私の声が耳に届いたのかドラゴンがこちらを黒く塗りつぶされた目を向ける。

 『貴方に言ったんじゃ無いですから!』

 ドラゴンがバサリと羽を一振りすると土埃が飛ばされて視界が良くなった。

 だけどそこに立つ人は誰も居ない。
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