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帰りを待つって不安。

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 外からは夜行性の魔物が鳴く声。
 悪さをしない小型の魔物だけれど背筋をゾクリとさせる。

 スヴァインさんと離れたのは朝だったのに外は真っ暗な夜。

 (本当に大丈夫なのでしょうか。)

 心配で仕方ない。

 妖精の目を使えばスヴァインさんにベッタリのあの妖精から様子を確認出来るのだろうけど、それって監視しているみたいでやりたくなかった。

 お付き合いしていたとしても賛否両論あるGPS機能みたいなモノで凄く良くない気がする。

 気になるけれど、今は出来る事をしようとキッチンで見つけた手書きのレシピの中でも簡単そうな料理を作っていた。

 ぐっぐっぐっ

 鍋の熱気で時折額を拭いながらよく煮込む。

 (香りは完璧ですね。)

 鍋をかき混ぜながら火の妖精にちょうど良い火加減でお願いしている。

 (よし、そろそろ味見を・・・・うん。我ながら普通。)

 相変わらず普通の料理が出来上がる。良い香りに近寄ってきた妖精に鍋の物を差し出して見るけれど・・・

 『素朴!』『普通。』『普通に美味しい。』『シンプルな味』

 等の感想を貰った。そこに妖精の結晶は現れません。

 (ヒロインが作る料理には妖精の結晶が出るのにな・・・。)

 妖精に料理を作るミニゲームではタイミングを合わせて指定のボタンを押すだけの簡単なもの。
 簡単に美味しい料理が作れて妖精の結晶も手に入るのだけどコレが現実。

 
 『そういえば、そろそろヒロインが王立学園に入学する時期でしょうか。』

 ヒロインは治癒魔法や援護魔法の適正が認められ入学となるはず。腹黒王子は3年だから序盤からストイックに腹黒王子を狙わないと攻略出来ないのだけどヒロインさん、攻略してくれませんか?

 ヒロインの事を考えたその時。外から馬が駆けてくる足音が屋敷の前で止まった。
 だけどそれはクローの様に軽やかなものではなく、ずっしりと重く力強い足音。それも一頭じゃない。
 
 何事かと様子を見に行くと何人かが馬から降りて勝手にエントランスに立ち入るのが分かった。

 「悪霊マーリット。居るなら私の前に姿を現しなさい!」

 リーダー格っぽい魔法使いの男が大きな声で私に話しかける。屋敷全体に声が届くのではないかと思う程響く声。声優陣が優秀過ぎるんですよ。この世界では本人の声なのだけど。

 この声。この人はこの国一番の魔法使いの攻略対象、説教が長いインテリメガネでは?
 その後ろに2名の魔法使いがいる。やだ、私、攻略対象全員の出会いイベント(相手に見えてない)しちゃいました。

 (何だか得した気分です。聖地巡礼の聖地が向こうから歩いてきた気分。)

 この説教インテリメガネは確か・・・。

 ドンッ ビターン!

 説教インテリメガネのプロフィールを思い出そうと頭を悩ませていると、インテリメガネが前方にビターン!!と倒れた。メガネもスポーーンと綺麗に先ほど軽く磨いた床を滑っていく。

 「誰かぶつかったかな?申し訳ない、自分の家に連絡も無く客人が居ると思わなかった。」

 盛大に転んだインテリメガネの後ろで何食わぬ顔で立つスヴァインさん。勢いからしてわざとなのに何で素晴らしい素知らぬ顔。

 (スヴァインさんだ!!良かった、無事に帰ってきました。)

 インテリメガネとか既にどうでも良い。特に疲労も無い顔で立っているその人の姿を見れただけで全てどうでもよくなりました。

 「スヴァイン様。何故ここに?暫く帰れないように足止めするから悪霊を退治して欲しいと頼んで来たのは騎士団の方ですよ?」
 「いつにも増して面倒なのが多いと思ったらそういう事か。無視して帰ってきた。」
 「自分達が依頼しておいて役に立ちませんね。」
 「騎士団はまだ俺が悪霊に魅入られたと勘違いしているのか。本当に面倒だな。」

 スヴァインさんを悪霊から助けるために騎士団は色々と行動しているらしい。

 「だけど、この国一番の魔法使いである君がここに居るのは好都合だ。マーリットを治せないか見て貰おう。君なら俺が悪霊に魅入られてないと分かるのだろ?」
 「結論を出すのは解析した後です。」

 インテリメガネは疑り深い。インテリメガネを前にスヴァインさんは手を前方に出す。

 「マーリット、俺が必ず君を守ると約束する。だからこちらに来てくれないか?」
 『は、はい!すぐに行きます。』

 スヴァインさんの呼び掛けにペットの犬顔負けのスピードで駆け寄り手を取る。尻尾が存在するなら残像が残る程振っていた事でしょう。
 手を握れば勢いに驚いたのか少し強ばってから柔らかく握り返してくれる。

 「確かにここにいるみたいですね。妖精の気配だけで悪霊の気配は今のところありません。マーリット様、私の手も握ってみて貰えますか?貴方の状況を解析します。」

 インテリメガネが前方に手を差し出す。そこに手を乗せれば良いのですね?ペットにお手をする犬の如く手を伸ばすと。

 「君の手をマーリットが握る必要があるのか?」

 その問いにピタリと手が止まった。主人が待てと言っている気がする。

 「先ほども説明したでしょう?解析するのに手っ取り早いのが直接触れる事です。マーリット様に私が触れるのが嫌なのですか?」
 「・・・。」
 「あぁ、そういう事ですか。」

 何かを察した!と言わんばかりにいつの間にか拾ったメガネをキラリとさせて腕を組むインテリメガネ。

 「しかし、必要な事ですから嫉妬もそこそこにしてくださいよ?」

 そう言った彼が有無を言わさぬ雰囲気で手を出すので大人しく彼の手を握る。
 すると何かが体を覆い、暫くしてからインテリ眼鏡の所に何かが飛んでいった。

 「状況は分かりました。悪霊では無いが、彼女を戻す事も難しい様だ。しかし困りましたね、ここで解決しないとなれば明日、騎士団長がマーリットを何としても捕らえてスヴァインから引き離すと意気込んでいましたよ?」
 「君の証言でマーリットは悪霊じゃないと証明出来ないのか?」
 「私が言った所でマーリット様に私まで魅入られた!と、難癖付けられるだけでしょう。なんせ身内が悪霊になったと言っているのですから。悪霊になったものと言うのが世間では前提になっています。」

 身内の勘違いが酷い。

 『あの、私が悪霊じゃないと貴方は信じて下さるんですか?』
 「解析しましたから分かります。」
 『私の姿が見えるんですか?』
 「姿は私でも見えません。」


 そう言ってメガネを指でクイッと上げてからインテリメガネが話し出そうとしたのに。

 『ひぁっ!』

 両手で口を抑えても既に手遅れ。変な声をつい出してしまった。インテリメガネとスヴァインさんが何か異変を察してギョッとする。

 「何かありましたか?」
 「どうした、マーリット。」
 
 何て説明したら良いだろう。これを素直に言っていいのか悩む。

 『申し訳ございません。何でも有りません。』
 「何でもないと言う事は無いでしょう、言いなさい。原因がわからないままは嫌いなんですよ。」

 正直に言うの?言わなきゃいけないの?スヴァインさんとインテリメガネ他二人の前で?
 しかし、迷っていると次第にインテリメガネが早くしろと言いたげな空気を発してくる。
 言うしかない。

 『本当に個人的な事なのですが、眼鏡が・・・』
 「ん?これですか?」

 何か変なのか?とまたクイッと上げる仕草をする。

 『ひゃっ!』
 「何なんですか、さっきから。」

 言いたくない、けど言わないと不愉快な思いをさせてしまう!

 『眼鏡を、上げる仕草が好きで・・・つい歓喜の声が漏れました。』
 「「え?」」

 その場に妙に呆れた空気が流れた。

 「話を戻しましょう。」

 しっかり聞いた上で流されました。

 この場から逃げたい。眼鏡好きなんです。本当に申し訳ありません。インテリメガネは最推しでは無いのだけど眼鏡が理想的過ぎるんですよ。
 ワンコ系男子が好きなので縁遠い眼鏡。それでも眼鏡は好きなんです。

 そしてその場の空気が無かった事になる様に悪霊について説明をうけました。

 
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