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一緒にご飯。
しおりを挟む妖精とスヴァインさんに向き合っていると睨まれる。何故だろう。
理由は分からないけれど、指に乗る小さな妖精と、その奥に見える黒髪美形イケメンのコラボは目に焼き付けておこうと思った。
「ち、近く無いか?」
・・・
あぁ!!
そう言う事ね!
目が見えて早々に私がアップで見えてもね。
彼は視線を外すのに私が手を動かしそびれたので妖精の位置が変わらず、視界も同様に変わらない為「目を反らしてるのに反らせない」と言いながら目元を抑えた。
『申し訳ございません!』
今、向かい合っている妖精の視界に入らない様にスヴァインさんの横へ移動する。隣から腕をピンと彼の前に伸ばす体勢なので少しキツイ。
それに体勢がなぁ、横から手の甲の匂いを嗅がせているみたいな体勢。どういう状況だって話だけども。
『今はこれが腕の限界なのですが、どうでしょうか?』
「大丈夫だ。ここが妖精とその王が住む世界か。綺麗な場所だ。」
スヴァインさんの顔を見れば耳まで真っ赤にして額の汗を拭う動きをする。
大丈夫、昨日樽の上で学んだから。自惚れると恥をかくって。思ったより近くに居たから驚いただけ。
(だけど、イケメンの照れた様な表情はいい!御馳走様です!)
『見えたなら良かったです、妖精も喜んでます。少し髪をいじってもいいですか?』
「あぁ、少しなら。」
許可を貰ってから彼の長い前髪を耳にかける。腕が疲れるので別の方法を、と考えた時に彼の長い前髪が捕まりやすいかと思い、少しだけ変えさせて貰った。
そこへ妖精をそっと乗せて見れば、乗り心地も良かったのか両手で輪っかを作りオーケーサインで教えてくれた。
『これで妖精が髪に捕まれば鼻の辺りに留まれますね。大丈夫でしょうか。』
「あぁ、ありがとう。しかし、妖精の目はこんなに眩しいのか?」
あ、忘れていた。
妖精の目は興味が有るものが輝いて見える。だからこそ【妖精の仲介人】は妖精の目を使い何に興味を示しているか確認して悪戯をする前に注意ができる。
仕事をする時は多くの妖精の目から興味やトラブルを見るのでなかなか目が疲れます。
『妖精の目は興味が有る物がキラキラと輝いて見えます。そして今の私が貴方に見えている様に普通の人では見えないものも見えてしまいます。』
「そうか。」
『私達が仕事で使うものと同様ですが、この妖精がスヴァインさんに景色を見せたいと張り切っているので、今はスヴァインさんの興味を示すものが輝いて見えるかもしれません。』
するとハッと顔を上げて私を見た。
スヴァインさんの前髪に捕まりお鼻に座る妖精が可愛い。
『スヴァインさんは妖精の世界に興味を持っていましたから、もしかすると全てがキラキラして見えますか?』
「そ、うだな。全体的にキラキラはしているのだが・・・その。」
その。からの言葉が続かない。モゴモゴしている。そうしているうちに、妖精が疲れた様でスヴァインさんの前髪をハンモックにして眠ろうと、うとうとし始める。
(これではそのうち落ちてしまう。)
咄嗟に手を出し妖精を支えようと近づく。そんな私に驚いた様子で後ろに下がられる。
「!・・・すまない、急に近づくものだから。」
(えぇ・・・その反応傷つくんですけど。)
目が合ったら睨まれ、近づいたら避けられた事への傷が痛みながらも彼の胸ポケットを引っ張り寝ている妖精を入れる。
『この子はずっと貴方と一緒に居たいみたいなのでポケットに入れておきます。妖精が寝ていますから、今は何も見えませんよね?』
「あぁ、見えない。」
大丈夫、きっとスヴァインさんは人見知りなんだ!そんな誤魔化しを頭に叩き込む。
それに心が磨り減った彼に仕事の呪縛から完全に逃れられる今だけは楽しんで心を癒してほしい。
だから今はスヴァインさんをクローに任せ、仕事と妖精から情報収集をする事にした。
◆◆◆◆
川のせせらぎに耳を傾けながら草花が風に揺れ、小さな光がふわふわとのんびり飛ぶ姿を横目に行う仕事は最高だった。
夢で描く、理想のノンビリ田舎暮らしって感じでいい。
私の少し痛む心はこの空間に癒されて気にならなくなっていく。
それがこの空間の効果でもあります。妖精達の楽しい気持ちが集まったこの世界では心の傷が癒される。だから1日ここにお世話になればスヴァインさんの燃え尽きた心も前向きになるでしょう。
少し様子が気になり、ちらりとスヴァインさんを見ればクロー相手に何やら話をしているみたいです。
クロー相手に・・・。
良く・・・なってる?
まぁ、いい。余計な口出しはしたくない。仕事仕事。
◆◆◆
暫くやる事に集中した後、妖精達が持ってきてくれた食べ物を切り分け彼らに持っていく事にした。
『お腹は空いていますか?妖精達がご飯を持ってきてくれました。一緒に食べましょう。』
「ありがとう。」
今の時間は朝の市場が活気溢れる頃。皆、仕事だ学校だと忙しくなり始めるだろう。
そんな時に妖精の美しい世界でのんびり過ごせるのは【妖精の仲介人】とその付き添いの特権。
『はい、どうぞ。口を開けて下さい。』
「え?」
果物を刺したフォークを口に近づけるけれど何やらフリーズするスヴァインさん。人形かな?こんな美しい人形あったら高値で売れるな。
「妖精はまだ起きないのか?」
『起きていても食事は慣れない内は難しいですよ?はい、どうぞ。』
このフルーツはフォークで指すには滑ったりして難しい。それに私も早く食べたい。だから少し強引に口に果物を持っていくのに口を開けようとしない。
(うそ、そんなに私に世話をされるのが嫌なんですか?さっき私の姿を見てそう思ったと?・・・そうだとしたらショックがデカイ。)
落ち込みながらクローを見るとふんす!と鼻を鳴らしてから歯を見せる様に唇を上げるとスヴァインさんの鼻をハムハムベロンベロンと舐めた。なんて濃厚な接触。
「ぶぁっ!やめろクロー!」
鼻をクローによって攻められているスヴァインさんは口で息しようと大きく開けた。
まさかクローさんが私の味方をしてくれるなんて!
『はい、どうぞー。』
「んぐっ」
心強い仲間を得た私は強気に果物を口に入れた。
口に果物を入れるとクローは鼻をハムハムベロンベロンを止める。ブルン!と何かを言ったクローは「次も嫌がったら分かるな?」って事だろうか。
『美味しいですか?』
「クローが舐め回すせいで味を感じる余裕がなかった。」
『ふふっ、でしたら次からは素直にお口を開けて下さい。』
それからは渋々とモグモグが終わると口を開けてくれる。
ぱくん。モグモグ。
それだけのやり取りなのに、恥ずかしそうに口を開けてから果物が口に入るとギギギと口を閉じて真っ赤になりながら咀嚼する。
(モテてきたとは言え、あーんはして来なかったのでしょうか?綺麗なお姉さんのいるお店とかでこういうサービスも経験豊富だと思ったのですが。)
「もう大丈夫。お腹は満たされたから。」
『分かりました。』
今度は自分の口に果物を運びながら少し考えた。
心安らぐ妖精の世界に滞在出来るのは今日かぎり、明日からどうするか。というのが私達にある一番近くの問題です。
食べ終わったスヴァインさんと、その横でモシャモシャと草を食べるクロー。そのモシャモシャという音と自分が果物を噛む音がやたら大きく感じました。
『スヴァインさん、今後についてなのですが何処か怖い場所・・・お化けが出るなど噂される場所をご存じですか?』
「お化けが出ると噂される場所?」
突拍子の無い問いかけに小首を傾げる彼。少しの動作で絵になる彼が羨ましい。
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