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妖精の悪戯

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 【妖精の仲介人】
 始まりは、大昔の事。妖精と人間が揉めていた時に、たまたま通りかかった農夫が関係を仲裁したそう。

 仲裁が上手かったその農夫はそのままこの国の【妖精の仲介人】を押し付けられ、一応重要役職の一族として貴族の仲間入りをしている。
 この役職に就くと国の上位貴族と結婚出来る事が多いそうだけど王位継承者との婚約は始めての事。


 それもヒロインの登場で無くなるんですけどね。


 「ではリヴ、王妃教育と【妖精の仲介人】大変だと思うけど頑張るんだよ。私も頑張るからね。」
 「は、い。」

 青ざめるリヴにニコリと微笑む腹黒王子。これは腹黒王子も犯人が分かったのでしょう。
 この先に有るのは「自分のやった事を知られたく無ければ私に大人しく従え。」と脅される末路。ある意味、腹黒王子ファンなら美味しい展開でしょうか。

 リヴの推しは誰ですか?
 こうならなければ語り合いたかったです。

 リヴは私の姿が消えてからすぐ【妖精の仲介人】として就任しました。最初は私が見つかるまでという話でしたが、悪霊になったと判断され今は祓われたと思われているのでこの先も仕事を続けるでしょう。


 ここで【妖精の仲介人】が私とリヴの二人になってしまったという厄介な問題が発生しています。

 本来なら【妖精の仲介人】は国に一人。

 複数人居ると誰の言う事を聞くか、妖精の中で派閥が出来てしまい、他の派閥の妖精に悪戯を始めるからです。仲間同士は仲良くが鉄則の妖精達ですが、仲間では無いなら悪戯しても良いよね!と言う悪戯したい妖精のストレス発散なのです。

 そして妖精は楽しい方へ流れます。

 妖精の悪戯に寛容な【妖精の仲介人】に妖精は集まり、厳しい【妖精の仲介人】は自ずと負ける。【妖精の仲介人】同士も自分側に付いた妖精を守る為に仲間を増やしたいが為に悪戯に対して寛容になる結果、妖精の悪戯により国内が荒れるのです。

 ただの悪戯も数が多ければ災害、恐ろしい。

 私も一応【妖精の仲介人】なので指示すれば戻せるはずでした。しかし私に姿を消す魔法をかけた妖精は私の呼び出しに応じず、その原因を調べていると早々にリヴが【妖精の仲介人】に就任してしまったのです。
 その後、妖精を見つけましたが『リヴの言う事しか聞かないよ!』の一点張り。早速リヴ派の派閥が出来ていました。

 リヴが「戻せ」と指示すれば戻すでしょう。しかし仮にリヴが改心しても腹黒王子がそれを許さないはずです。姉を消す事を指示したという弱味を握り、都合良く動かせる【妖精の仲介人】が手に入ったのだから。


 ヒロインが腹黒王子を攻略すれば、断罪イベントは一年後の卒業パーティーで行われます。
 ヒロインに腹黒王子を攻略して貰えればリヴの失脚が叶う・・・でも、しかし・・・そんな上手く行きます?

 ヒロインにも好みがあるはず。

 悪役令嬢モノは大体ヒロインが勘違い転生者だったり、悪役令嬢やモブ大好きになるものです。
 絶対そんな王道攻略対象になんて行かない!

 お先真っ暗な思考の中、うんうんと考えて居ると殿下のお見送りから帰ってきてソファに腰掛ける両親。

 「マーリット。悪霊になってしまうなんて。それを私が祓う依頼を出したんだ・・・私は・・・私は酷い父親だ。」
 「仕方の無い事です。悪霊は祓わなければ魂が生まれ変われないのですから。きっとマーリットの魂は生まれ変わり貴方の元へ戻ってきます。」
 「そう・・・だな。どんな形であれ、また会えるだろうか。」
 「ええ、必ず。マーリットが私達の事を忘れていたとしても、私達が探しに行きましょう。」
 「そうだな。」


 何か良い感じに締め括りに来ている両親。

 母が亡くなってから、成り行きで夫婦となった二人。だけれどなかなか良い関係になったと思う。

 (娘としては少し複雑なのだけどね。それでも継母も好きだから応援したい。)

 そんな二人の姿を見て改めて思う。悪霊にトラウマのある父の心労は凄まじく、それに娘がなってしまったと思い込んでいるのですから苦しいでしょう。
 このままここに居たら、私の立てるちょっとした物音で両親は悪霊への恐怖と私への罪悪感で痩せ細ってしまう。また意味の無い悪霊祓いでも呼ばれて20万エンゴルドを取られたら・・・。

 消えてから1ヶ月。色々試してもダメだった。このままここに居ても何も策がありません。


 (ここを出ていこう。)


 私の家なのに、出て行かなければならない現状は悲しい。だけど今はそれしか方法が思い付きません。
 
 (それに継母も私に気を使わず父と暮らせるかも。)

 私の立場は二人の関係を深める上で邪魔でしかない、そう思った瞬間ギュゥッと胸が締め付けられた。

 成り行きとは言え、妹になったリヴには消える事を望まれ。父と継母は私に気を使って・・・結果として私の存在が邪魔になってるなんて。

 (私はここに居ない方がいいのかもしれないわ。)

 親戚の家に静かにひっそりとお世話になりましょうか?それとも、この作品のヒロインの所へ助けを求めるか。その二択でしょうか。

 この作品のヒロインは妖精が見え、扱いも慣れている上に妖精との仲がとても良好です。
 【妖精の仲介人】でなくても妖精が従う事から悪役令嬢と衝突し、マーリットは恋も仕事も彼女に負ける。最後は妖精にヒロインへの陰湿な悪戯を指示して反発した妖精により不幸の道を転がり落ちます。最後は卒業パーティーで正式に婚約破棄を言い渡され、その後姿を目にした者は居ないという。

 
 自分の仕事上の立場も恋も取られるのはとても哀れかもしれません。


 ・・・


 あれ?


 私はその末路に早速立っているのでは!?


 スピード感溢れるコンパクトざまぁ状態!!


 うそー。前世の記憶思い出して即エンドって。


 何も悪い事をしていないのに。せめてもう少し物語を楽しみたかった!

 締め付けられる様な痛みを感じる胸に手を当てる。考えながら細心の注意を払い息を潜め、自室で荷造りをしてからトランクを抱き締めた。

 抱き締めたトランクの影が消えたのを確認してから部屋の外へ。
 私が暫く触れていると衣服と同様にその物も私の存在を認識されない為に消える仕様らしい。ボールを投げるくらいの短時間では消えない。試したら面白かったのですが新たな悪霊ネタを増やす結果となりました。

 消えた様に見えるトランク一個を持ち、屋敷の大きい扉の向こう側へ一歩踏み出すと外からやって来た少し肌寒い風が頬をさらりと撫でる。

 こんなスッキリとしない気持ちで空を眺めたからか夕焼けのオレンジ色に染まる空はとても不気味に見えます。

 すれ違う使用人は忙しなく動き回り、出ていく私に気が付く者は勿論いません。


 (ほとぼりが覚めるまで、さようなら。)


 門まで歩いて来ると屋敷に向かって深く頭を下げる。頭を上げた時に見えた自宅だった建物。それは私を拒絶する様な空気を纏っている様に見えた。

 あと少しで夜になる。

 見えないのだから人攫いや盗難の心配は無いはず。そう分かっていてもたった一人で一歩踏み出す行為がとても怖かった。
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