Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

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4章

87話「アリアの想い」

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「つっ、アリアさん。 俺のせいでこんな事になってしまってすまない」

 だが、アリアさんが現れてしまった以上今回の事を謝るしかない。
 俺は、その言葉を恐る恐る言葉を紡ぎ出した。
 アリアさんに対し、真っ直ぐと目線を合わせる事が出来ないまま。
 
「いえ、私はそこのお嬢ちゃんに聞いている」

 胸に突き刺さる鋭さを持つ言葉だ。
 その言葉に対し、ルッカさんは、アリアさんが自分の味方になる事を期待していたのか目を丸くしている。

「き、聞いてたわよ」

 その言葉尻は弱い。

「そう。 セフィアさんやエリクさんから魔族に付いての話は聞いたの?」
「し、知らない、聞いた事無い」

 ルッカさんは唇を噛み締め、アリアさんから視線を外した。
 確かセフィアさんが魔族に対する注意喚起をしていた時、俺も居たな。

「そう。 魔族はね、マスターやセフィアさん、エリクさんですら敵わない相手だった。 カイル君と闘神の斧の力を持ってどうにか退けられた」
「でもっ! やってみなければ分かんないじゃない!」

 アリアさんに言われても尚、ルッカさんは自分の意思を捻じ曲げるつもりは無いみたいだ。

「貴女、本当にセザール学園を2位の成績で卒業したの? 別に良いわ。 姉の私から言わせて貰う、ルミの事は仕方が無い事」

 アリアさんは覚悟を決めた眼差しで、静かにゆったりとルッカさんに告げる。

「どうして! どうしてそんな事が平気で言えるんですかッ!」

 しかしながら、ルッカさんに取っては身内を見捨てる事すらも平然と言われた事が許せないのだろう。
 ルッカさんの大声がそれを物語っている。

「ふざけないで頂戴」

 アリアさんの言葉から静かな怒りの感情を感じ取ったかと思えば、パシーン、とルッカさんの頬が平手打ちされる音が響いた。

「貴女には、私がルミの事を割り切る為にどれだけの思いを抱いてるのかすら分からない? カイル君を責めたら、マスターを責めたらルミは戻ってくると思ってる?」

 アリアさんの問い掛けに対し、ルッカさんは彼女を睨みつけたまま答える事が出来ない。

「貴女、本当にカイル君の事が好きなの? リーダーとして下した決断を信用出来ない人間の何処が好きなの?」
「ちょ」

 これ以上はマズイ、と思わずアリアさんを止めようとしたが。

『待つのじゃ、これは女同士腹を割った主義主張のぶつけ合いじゃ、男のワシ等が出る幕ではないぞい!』

 闘神の斧が俺を止める。
 確かに俺が割り込んで止めた所でお互い溝を残したままになりそうだ。

「貴女、私を追い回す男の1人と同じで、ただただ高嶺の花だからカイル君欲しいと思ってるんじゃない?」

 アリアさんの言葉からは、冷たさだけで無くそこに熱さも秘めた確かな怒りを感じ取れる。

「何よッ! カイルの事何も知らない癖にッ!」

 ルッカさんは今にもアリアさんに殴りかかりそうな気持ちを必死に我慢しているみたいだ。

「そう? 本来ナイトである筈のカイル君が後衛に回ってサポートに徹してくれているお陰で上手く言っている事にすら気付いてない貴女の何処がカイル君を知っているというの?」

 冷淡にゆっくりと詰める様に放たれるアリアさんの言葉。

「うるさい、うるさいうるさーい!」

 言い返す言葉の浮かばなかったルッカさんは、踵を返すとやり場の無い怒りをテーブルの脚を蹴る事で発散し、何処かに行ってしまった。
 
「ルッカさん!?」

 慌ててルッカさんを追いかけようとすると、アリアさんから肩を掴まれ制止させられてしまった。
 
「火に油を注ぐだけ」
「そうですね」

 鋭い眼差しで制止するアリアさんに従うしか無かった。
 確かに、ルッカさんの性格を考えればアリアさんの言う通りだ。
 ルッカさんに関しては、残念ながら時間に解決してもらう他無さそうだ。

『のぅ、もしかしてアリアって娘、お主の事を好きになったんじゃろうかのぉ?』

 まさか、そんな事ある訳ないでしょ。

『それにしては、冷静なハズのお嬢ちゃんがやっきになってた事が不思議なのじゃ』

 ははは、高嶺の花であるアリアさんが俺に興味抱く訳。

「カイル君。 この事はルミに黙ってて」

 破ったら何をされても文句言えない空気を出しながらアリアさんが言った。

『むぅ、仔羊なら分かるんじゃが、もやもやするわい』

「大丈夫、誰にも言う気は無いから」
「そう、ルミの事頼んだわ」

 アリアさんはそっと俺に近寄ると胸の中に顔を埋め力無く呟いた。
 堪え切れず溢れてしまった涙声が微かに聞こえる様な気がした。
 俺は、アリアさんが気が済むまでしばらくの間立ち尽くす事しか出来なかった。
 
 
―魔王城―


 誘拐したルミリナの幽閉を終えたルミナスが魔王城中庭に姿をあらわした。
 
「むぅ、ルミナス殿」

 丁度近くに居たルカンがルミナスに声を掛けた。
 
「あら? ルカンちゃんじゃない? あたしがいなかった間寂しかったかしら★」

 ルミナスは悪戯っぽく妖しさを秘めた笑顔を見せながらルカンを茶化す。
 
「いや、そんな事は無い」

 ルカンは恥ずかしさを隠そうとプイッっとそっぽを向きながら答えた。

「やだ、釣れないわね?」

 ルミナスはつまら無さそうな声を出しながらルカンに指でちょっかいをかけた。

「俺は武人だ、仕方あるまい。 して、聖女とやらはどうなのだ?」

 ルミナスに対し、ルカンはまんざらでも無さそうな空気をだし頬を掻きながら尋ねた。
 
「もう、真面目ちゃんなのね。 聖女は問題無いわ。 数日後に聖神の杖が封印されてる神殿へ向かうつもりよ」

 ルミナスの言葉には僅かな曇りがあった。
 
「そうか。 何か問題があるのか?」

 それに気付いたのか、ルカンが改めて尋ねる。

「流石ルカンちゃん。 聖神の杖から感じられるエネルギーと聖女から感じられるエネルギーが合って無いのよ。 まるでもう一人聖女が必要とでも言いたげに大体半分位しか無いわ」
「ふむ、聖女とやらは何人も良そうな気がするのだが?」

 ルカンの言う通り聖女と言う言葉だけ聞けばこの世界に何人も存在する様に聞こえる。

「そうね、聖女自体この世界を探せば沢山いるわ。 ただ、聖神の杖の封印を解けそうな聖女は本来一人しか居ないハズなのよ」

 ルミナスが様々な文献を調べ上げた結果、聖神の杖の封印を解けた聖女は誰も居なかったとの事。
 逆に、闘神の斧に関しては割と適当で過去様々な人間が手にしたと記述があったらしい。
 他のアーティファクトに関しても物によってそれ等の反応は様々な様だった。
 
「そうか。 それで試すだけ試してみる訳か?」
「そう。 それでダメだったらもう1人の聖女を探す事にするつもりよ」

 ルミナスの話を把握したルカンは修練場のある方へ身体を向けて、

「俺は鍛錬して来る」
「あら? そっちの鍛錬なら手伝うわよ★」

 ルミナスのからかいに対し、ルカンは鼻を軽く鳴らすとその場を立ち去った。
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