Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

文字の大きさ
上 下
71 / 105
3章

78話「次なるアーティファクト」

しおりを挟む
―仔羊の間―

 仔羊の間。
 セザール学園の生徒が皆帰った後の学長室の別称である。
 仔羊モードのカオス学長が、訪れて来たルッセルの報告を受けている。
 カオス学長曰く、ルッセルと言った一部人物との応対はこの姿でやる方が楽で面白いとの事だった。

「お見事だったんだな~」

 仔羊学長は『逆転! 奇跡の梅おにぎり!』と書かれたおにぎりの包装を破りそれを口にする。

「いえ、カイルさんの功績が高いと思います」

 ルッセルは、仔羊学長が口に入れようとしている、米と梅が逆転したおにぎりを視界にいれながらも何事も無かったかの様に報告を行った。

「むぉぉぉぉぉ~ちょーぜつすっぱいんだなぁ~ッ! でも病みつきになるんだなぁ~☆」
「学長、塩分摂取過多になりますよ」
「大丈夫なんだなぁ~塩分排斥魔法使えば良いんだなぁ~」
「それもそうですね、失礼しました」

 仔羊学長は多量の梅干しによる後味が引き出す至福を堪能した所で真面目な表情に切り替えて、

「闘神の斧はるっせる君の方で管理して欲しいんだなぁ~」
「分かりました、扱う人間の指定は御座いますか? 現在ヴァイスリッターに闘神の斧を扱えそうなファイターは何人か居ますが」
「それは闘神の斧が決める事なんだなぁ、かいるくんを選んだならかいるくんに使わせれば良いんだなぁ」
「分かりました、もし闘神の斧がヴァイスリッター以外の人間を選んだ場合は如何致しましょう?」
「その時はボォクに報告するんだなぁ~多分あいつの性格だとそう言う事は無いと思うんだなぁ~」

 仔羊学長は、机の上に置かれている『逆転! 奇跡の昆布おにぎり!』をチラチラ見ながら言った。
 
「あいつですか?」
「なんでもないんだなぁ~昔ちょっと何かあっただけなんだなぁ~? るっせるくん、細かい事を気にしたらつるっつるのはげっはげになっちゃうんだなぁ~」
「そうですか、それは男の宿命と存じますが、嫌なものは嫌ですね」

 仔羊学長が視線で次のおにぎりを食べたそうな事を察知したルッセルは、手で『どうぞ』と仕草を見せた。
 それを見た仔羊学長は、にんまりとまゆを吊り上げ嬉しそうに封を開放し昆布で包まれたおにぎりを頬張った。

「はずれなんだなぁ~▽▽▽」

 海苔の代わりに昆布を使いご飯を覆っただけのおにぎりは仔羊学長の眼鏡にかなわず、がっくりと肩を落とした。

「はぁ~るっせるくん達が炎獄の谷に行ってる間に他のアーティファクトの情報が入ったんだなぁ~勇神の剣と聖神の杖なんだなぁ~」

 仔羊先生が、勇神の剣と聖神の杖に関する説明をした。
 勇神の剣は、セザール国から西に位置する氷の洞窟の中に現れたとの事。
 聖神の杖は、出現場所はまだ不明だが入手の為に聖女の血を持つ人間が必要らしい。

「そういう事なんだなぁ~次は勇神の剣を取りに永氷の洞窟に行って欲しいんだなぁ~聖神の杖に関しては聖女の血を持つ人間を探しておくんだなぁ~」
「分かりました。 カオス学長、エリクさんの提案ですがアーティファクトレーダーと言う物があれば便利では無いかと思いました」
「ボォクは仔羊学長なんだなぁ? 面白そうな案なんだなぁ~、アーティファクトはコルト大陸以外にもあると思うんだなぁ~開発指示出しておくんだなぁ~ではるっせるくん、頑張ってくれたまへ」

 カオス学長への報告を終えたルッセルは仔羊の間を後にした。


―魔王城―


「おいっ! 大丈夫かルカン!」

 右腕を失い魔王城へ帰還したルカンを目にしたダストが、心配そうな顔をし彼の元へ駆け付けた。

「俺は大丈夫だ、治療魔法を受ければこの程度問題無い。 それよりも」

 ルカンは悔しく悲しい顔を見せ、うつむいた。

「どうした! 俺に出来る事があるなら何でもするぞ!」

 ダストはルカンの腕を掴みながら訴えた。
 
「クソッ! 俺の大切な部下を失っちまったッ」

 ルカンは拳で壁を叩き、抱いている負の感情を発散させた。
 
「何っ! そうか、そう言えばアイツみねぇな、ハハッアイツも俺様とウマが合いそうな生意気な奴だったな、すまん、蘇生までは俺様にも出来やしねぇ」
「不甲斐無い俺のせいだ貴様が気を病むな」
「そうだな、そうだよな、ハハッ俺様としちまった事が! さっさと俺様も直しちまって弔い合戦に行かねぇと!」

 ルカンの言葉に対しダストがぎこちない笑顔で応えた所で、

「敵討ちは拙者に任せるが良い」

 同じく魔族の将軍、魔勇将ブレーフがそっと近付き、ルカンの肩に手を乗せ言った。

「あらやだ? ルカンちゃん? 後であたしが治してあ・げ・る★」

 ルカンに対し、ウィンク一つ見せ投げキッスを飛ばすのは魔聖将ルミナスだ。
 ルミナスの行動に対し、困惑したルカンは恥ずかしそうに視線を逸らした。

「ルミナス殿か、貴殿は聖神の杖を担当してるでござるか?」
「ブレーフちゃん? 魔王様のお話聞いてないのかしら?」
「別段、確認ぐらい良いでは無いか」
「あらあらー? 冗談を真に受けちゃった?」

 セフィアを魔族にした様な性格のルミナスが、ブレーフの頬をつっつきながら悪戯っぽく笑う。
 ブレーフは、むぅ、と一言呟くと肩に入れていた力を抜いた。
 
 そうよ、あたしは聖神の杖を探してるわ。 場所は分かったんだけどね、聖女の血を引く人間以外受け入れられないみたいなのよ。 幾らあたしが聖将軍でも魔族だからダメだって」

「そうでござるか。 拙者が探してる勇神の剣はどうやら永氷の洞窟にある様でござる」
「ずいぶん寒そうね? あたしが担当しなくて良かったわ」
「心頭滅却すれば火もまた涼しの逆で御座るよ、のぉ、ルカン殿?」

 つまり、精神を卓越させれば寒さも気にならないと言いたい様だ。

「うむ、俺の闘気ならば寒さ如き何とも無い」
「ルカンちゃん、体毛凄いからねー」

 ルミナスがルカンの背中辺りをモフモフし始めた。

「フン、寒さ程度俺様の魔法で何とかしてやれなくもないぞ」

 その様子を、ダストが少しばかり羨ましそうにチラッ、チラっと眺めている。

「あらやだっ★ 可愛いー★」

 ここでようやくルミナスがダストの存在に気付いた様だ。
 胸元で両手を組んで瞳を輝かせると、ルミナスはダストに飛び付き豊満な胸を顔に押し付けた。

「わ、お、おい! 待て!」

 ルミナスの勢いに負けたダストはそのまま体勢を崩し押し倒されてしまった。

「ダスト殿、大丈夫でござるか?」
「気を失ってるみたいだな、珍しい事じゃあるまい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...