19 / 52
第一部
裏切りの思い出
しおりを挟む
魔力を流し始めると、ポワンと陣の外周から光り始めて中心まで光った。
「デイヴィッド・ファイル・クラークがここに契約する。私は契約者以外に性的な接触を一切行わない。私は契約者以外に恋愛感情を持った時点で契約者から求められた離縁に同意する。私は契約者との離縁の際の交渉は全て司法に任せることとし、その決定全てに同意する」
デイヴィッドが私の番だと目線を向けた。
「ステラ・リラ・イシュトハンがここに契約する。私は契約者との婚姻後は配偶者としての責務を果たす。私は契約者以外と性的な接触を一切行わない。私は契約者以外に恋愛感情を持った時点で契約者から求められた離縁に同意する。私は契約者との離縁の際の交渉は司法に任せることとし、その決定全てに同意する」
私が押し黙ると、デイヴィッドが空いた手で私の手に触れて続きを催促する。
目の前の紙には言葉にした契約が刻まれるようだが、実際に読めるような言語ではない。
そうだろうと察しているだけだ。
「私は…契約者の不貞事由以外では離縁を求めない」
本当にこれでいいのだろうか?まだ魔法陣は光り続けているが、少し光は弱くなっている気がする。
なんとなく嫌な予感がした。
私はまだ、この契約の破棄方法も知らない。
ダメだ、この契約は危ない。
「私は契約者が身籠ることがなくても決して離縁しない」
「は?」
デイヴィッドの言葉を聞いた時、先にこの契約について細部まで確認しなかったことを後悔した。
契約を止めたくても魔法陣は光を弱めていく。
「私は契約者との離縁を望まない」
デイヴィッドがそう言い終わった後、魔法陣は姿を消し紙は半分に切れた。
「デイヴィッド!どういうこと?騙したのね?」
私が求めていたのは子供が出来なかったら離縁することだ。
公爵家に後継者が出来なければ困るのは私だけじゃない。
「ごめんステラ。少し強引だったね」
「こんな契約無効よ!」
「ステラ、例えば領主の印がある契約が無効になることがある?」
「…でも、この契約を公表すれば、クラーク公爵家門は黙ってないはずだわ!夫人だって困るはずよ!」
一度した契約を無かったことには出来ない。
そんな事は平民だって知っている常識。
「孤立孤島の皇室でもあるまいし、血筋の家門から養子をとればいい。どこの家もやる事は一緒でしょう」
「でも…」
「あぁ、爵位は相続させればいいだけです。そうすればもし私が先に死んでも、貴女には公爵夫人としての取り分がある。邪険に扱われることはありません」
「一体なんの話を…」
身体が一瞬震えたのが分かった。
得体の知れない恐怖に思考が追いつかない。
契約自体に私に不利な事は何もない。
もう彼と結婚したら離縁することが出来ないだけ。
出来るとすれば、彼がほかの誰かに心を奪われたその時のみ…
「ステラ、もう諦めて。離縁なんて考えられないほど楽しい生活になるから」
どこで間違えたんだろうか、私の希望通りではないが彼が裏切る事はない。なのに、私の方が捕えられた気分だ。
何も言葉が出てこない。
「ごめん。本当はステラが殿下と別れたと聞いた時から、諦めていたチャンスが来たと喜んでいたんだ。パーティで初めて二人で話して、あぁやっぱり逃したくないって…そう思って…」
「嘘。一度は諦めたじゃない」
彼は初めて家に来た時、簡単に諦めた。
そう、簡単に諦められるくらいの気持ちだったはずだ。
「あれは違う。自分の気持ちを全部理解してもらうには時間が必要だと思ったんだ。早急すぎたと反省して、夜会のパートナー位から誘っていこうと思ってたんだ。その時にアクセサリーも贈ってと思って作らせ始めたのがこの指輪だ。決して諦めたりなんてしていない」
「嘘…」
「嘘じゃない。もうすぐアカデミーも卒業だよ。この歳までステラに惹かれて婚約者も決められなかった情けない男が私だ。挨拶くらいしかしたことがないのに、こんなことを言われて気持ち悪い?」
デイヴィッドがそっと私の手に触れる。
暖かい手のひらを気持ち悪いなんて思っていない。
「嫌いになった?」
そう言われてフルフルと首を横に振る。
それでも、信じるのは怖いと思う。
「焦らなくていいから、私を好きになって」
ふわりと抱きしめられて、涙が溢れてきた。
好ましいと思っている。好きになれたらと思っている。
でも、もう誰にも裏切られなくない。
私はデイヴィッドに抱きしめられながら、フロージアに振られた日を思い出していた。
「デイヴィッド・ファイル・クラークがここに契約する。私は契約者以外に性的な接触を一切行わない。私は契約者以外に恋愛感情を持った時点で契約者から求められた離縁に同意する。私は契約者との離縁の際の交渉は全て司法に任せることとし、その決定全てに同意する」
デイヴィッドが私の番だと目線を向けた。
「ステラ・リラ・イシュトハンがここに契約する。私は契約者との婚姻後は配偶者としての責務を果たす。私は契約者以外と性的な接触を一切行わない。私は契約者以外に恋愛感情を持った時点で契約者から求められた離縁に同意する。私は契約者との離縁の際の交渉は司法に任せることとし、その決定全てに同意する」
私が押し黙ると、デイヴィッドが空いた手で私の手に触れて続きを催促する。
目の前の紙には言葉にした契約が刻まれるようだが、実際に読めるような言語ではない。
そうだろうと察しているだけだ。
「私は…契約者の不貞事由以外では離縁を求めない」
本当にこれでいいのだろうか?まだ魔法陣は光り続けているが、少し光は弱くなっている気がする。
なんとなく嫌な予感がした。
私はまだ、この契約の破棄方法も知らない。
ダメだ、この契約は危ない。
「私は契約者が身籠ることがなくても決して離縁しない」
「は?」
デイヴィッドの言葉を聞いた時、先にこの契約について細部まで確認しなかったことを後悔した。
契約を止めたくても魔法陣は光を弱めていく。
「私は契約者との離縁を望まない」
デイヴィッドがそう言い終わった後、魔法陣は姿を消し紙は半分に切れた。
「デイヴィッド!どういうこと?騙したのね?」
私が求めていたのは子供が出来なかったら離縁することだ。
公爵家に後継者が出来なければ困るのは私だけじゃない。
「ごめんステラ。少し強引だったね」
「こんな契約無効よ!」
「ステラ、例えば領主の印がある契約が無効になることがある?」
「…でも、この契約を公表すれば、クラーク公爵家門は黙ってないはずだわ!夫人だって困るはずよ!」
一度した契約を無かったことには出来ない。
そんな事は平民だって知っている常識。
「孤立孤島の皇室でもあるまいし、血筋の家門から養子をとればいい。どこの家もやる事は一緒でしょう」
「でも…」
「あぁ、爵位は相続させればいいだけです。そうすればもし私が先に死んでも、貴女には公爵夫人としての取り分がある。邪険に扱われることはありません」
「一体なんの話を…」
身体が一瞬震えたのが分かった。
得体の知れない恐怖に思考が追いつかない。
契約自体に私に不利な事は何もない。
もう彼と結婚したら離縁することが出来ないだけ。
出来るとすれば、彼がほかの誰かに心を奪われたその時のみ…
「ステラ、もう諦めて。離縁なんて考えられないほど楽しい生活になるから」
どこで間違えたんだろうか、私の希望通りではないが彼が裏切る事はない。なのに、私の方が捕えられた気分だ。
何も言葉が出てこない。
「ごめん。本当はステラが殿下と別れたと聞いた時から、諦めていたチャンスが来たと喜んでいたんだ。パーティで初めて二人で話して、あぁやっぱり逃したくないって…そう思って…」
「嘘。一度は諦めたじゃない」
彼は初めて家に来た時、簡単に諦めた。
そう、簡単に諦められるくらいの気持ちだったはずだ。
「あれは違う。自分の気持ちを全部理解してもらうには時間が必要だと思ったんだ。早急すぎたと反省して、夜会のパートナー位から誘っていこうと思ってたんだ。その時にアクセサリーも贈ってと思って作らせ始めたのがこの指輪だ。決して諦めたりなんてしていない」
「嘘…」
「嘘じゃない。もうすぐアカデミーも卒業だよ。この歳までステラに惹かれて婚約者も決められなかった情けない男が私だ。挨拶くらいしかしたことがないのに、こんなことを言われて気持ち悪い?」
デイヴィッドがそっと私の手に触れる。
暖かい手のひらを気持ち悪いなんて思っていない。
「嫌いになった?」
そう言われてフルフルと首を横に振る。
それでも、信じるのは怖いと思う。
「焦らなくていいから、私を好きになって」
ふわりと抱きしめられて、涙が溢れてきた。
好ましいと思っている。好きになれたらと思っている。
でも、もう誰にも裏切られなくない。
私はデイヴィッドに抱きしめられながら、フロージアに振られた日を思い出していた。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

羨ましいならあなたに差し上げます
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるティセリアは、社交界でも人気の侯爵令息ファルドラから婚約を申し込まれることになった。
しかしティセリアは、その婚約に裏があると知っていた。
彼女は以前、ファルドラがある人と揉めているのを見ていた。そのことから、彼が他の者から思われているような誠実な人間ではないと、わかっていたのである。
だがそれでも、二人の婚約は成立してしまった。ティセリアの父は、例え事情があっても侯爵家との婚約は有益だと判断したのだ。
実際にファルドラと話したティセリアは、自身の考えが間違っていなかったことを悟ることになった。婚約者となった彼は、実質的な脅しの言葉を口にしてきたのだ。
婚約について打ちひしがれていたティセリアだったが、ある時彼女の前に何も知らない一人の令嬢が現れた。
その令嬢は、ティセリアを羨ましがっていた。ファルドラとの婚約を、彼女は熱望していたのである。
そんな令嬢に対して、ティセリアはとある言葉を口にした。
「羨ましいなら、あなたに差し上げます」
その言葉が、自身にとって大きな成果に繋がるとも知らずに。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる