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第一部

私の信じた相手

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結局、一年遅れて発表された婚約者候補にはもちろん私の名前はなかったが、不思議とクロエの名前もなかった。
そこには発表されて即座に辞退することになる次女のダリアの名前のみが上がることになった。


クロエの名前が上がってこなかったのは、皇室の不手際が原因だったようだが、陛下がそれに気づいたときには全ての準備が整っていたので追加でクロエ一人の名前を上げることはできなかった。


「ステラが婚約者候補に上がっていれば王宮のお茶会ももっと楽しいのに」


フロージアは幾度となくそう呟いた。


「私はイシュトハンの後継者だもの。候補に上がらないのは最初から分かっていたじゃない」


私も、毎回同じセリフを繰り返すだけだった。
婚約者候補と言っても、その中の誰かが婚約者になれるわけではないことは誰もが理解していたからだ。


「それでも折角ならステラと一緒にいたいじゃないか」

「私とも殆ど毎日会っているでしょう?」

「休日にステラと会うために私がどれだけ苦労しているか…」

「私も後継者教育があるんだもの。仕方ないでしょう?」


休日は辺境の地であるイシュトハンへ帰る事も多い私は、領主の後継者として領地を見て回る必要があった。
自分の目で見て初めて知れる事も多い。
だから、フロージアが私に会いたいと願えば転送装置を使う必要があり、それは使用記録も残る面倒臭いものだった。


フロージアはパーティや夜会では私を必ずエスコートして社交の場に連れ出した。
社交界でもフロージアの正式なパートナーとしてすぐに認識されたが、婚約の話は出てこなかった。


イシュトハン家と王家の結婚は、貴族達も望んでいたため私は迷いなく皇太子妃として立てるように努力を重ねていた。



婚約すらしていない状態であることを見て見ぬふりして過ごし、どう客観的に見ても、王家としての最良の選択が私とフロージアの結婚だろうと自信を持っていた。


陛下だけがクロエを手に入れたいと惜しんでいた。
良くなかったのが、第二王子であるフリードリヒもクロエと仲が良かったことだ。
婚約者候補が発表されてから、クロエからフリードリヒの話を聞くことはあまりなくなったが、フリードリヒはクロエへの好意を隠す気配はなかった。



フロージアとフリードリヒ共通の婚約者候補が集まるお茶会では、クロエをどれだけ好きか熱心に語っているらしい。
それにはフロージアも呆れているほどだ。


しかし、フロージアも呆れながらも焦りを見せ始めていた。
立太子もすんで、正式に皇太子となったフロージアと、第二王子として王位継承権をもつフリードリヒ、当然両殿下共がイシュトハン家の娘と結婚を結ぶことは叶うはずもない。


陛下はクロエとフリードリヒとの結婚を推し始めたのだ。
しかし、二人はそう上手くはいかなかった。
相変わらずフリードリヒはクロエに好意を持っているようだったが、クロエは距離を置くようになる。


クロエが結婚したいと言い出したら即婚約となり、私とフロージアが結ばれる可能性はなくなっていただろうが、イシュトハン家は政略結婚はしないと公言しているため、焦ったくも私たちは努力をする他なかった。


皇太子妃として認められるため、努力を惜しむことはなかった。
貴族達にも認められている。





それなのに、フロージアは諦めてしまった。
私の努力と、彼への想いを勝手に全て投げ捨てて、フロージアは必死に崖を登っていた私を突き落としたのだ。
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